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たった6年で 〜『ショーシャンクの空に』〜

監督)フランク・ダラボン
出演)ティム・ロビンズ、モーガン・フリーマン

あらすじ)1947年、若くして大銀行の副頭取だったアンディーが、妻とその愛人を殺害した罪でショーシャンク刑務所に送りこまれてくる。所長のよる汚職、看守による囚人の殺害、囚人による囚人へ苛烈なリンチ。暗く殺伐とした刑務所の中で異質な存在感を放つアンディーは、調達屋レッドとの友情をはぐくみつつ、その知性や職能を発揮して徐々に刑務所内に明るく穏やかな光を広げてゆく。

「終身刑は人を廃人にする制度だ」

50年間の刑務所暮らしを経て仮釈放されたものの、社会に適応できず孤独のうちに死んでゆく、年老いた元囚人。 アンディーと心通わせながらも、「希望は危険だ」と言う刑務所暮らし30年のレッド。 しかしアンディーは、19年に及ぶ刑務所生活の闇を抜け、生の明るみへと羽ばたきだそうとする。未来の地、ジワタネホを目指して。

残酷なまでの人間の不運と、人生を切り開く根源的な力を劇的に描いた名作。

たった6年で

映画好きライダーM氏から借りて観た一作。

 映画の原題は“THE SHAWSHANK REDEMPTION”、原作のスティーブン・キングの短編小説は『堀の中のリタ・ヘイワース』だが、邦題の『ショーシャンクの空に』は実にいいタイトルだと思う。

 20年近い歳月を142分に収めていることもあり、全編を通してスピーディーで飽きのこない展開だが、アンディーが刑務所内にオペラを流す場面が特に印象に残っている。

「たった6年で」

 刑務所内の洗濯係から図書係になったアンディーは、粗末な図書室を見ると、週1回市へ手紙を書き、図書館へ予算を組むよう申請する。返事のこない長い日々が過ぎるが、アンディーは毎週手紙を出し続ける。そうして6年経ったある日、アンディー宛てに市からの手紙と、大量の中古本やレコードが届く。手紙には小額ながら図書館のための予算を組むことが書かれていた。
 その時にアンディーは「たった6年で」と呟き、手紙の成果に喜ぶ。

 返事のない6年は長いか、短いか?
 凡人なら長いと根を上げてしまうところだが、「たった6年」と呟くところがアンディーの凄さ。感情を控え目にしか出さない、このつかみどころのない男は、手紙と届いた荷物を前に初めて喜びを露わにした眼をみせる。

 その後に、私の気に入っている場面が続く。レコードの中から『フィガロの結婚』を見つけたアンディーは、その傑作オペラを大音量で刑務所内に流すのだ。
 突然、作業場にも運動場の上空にも、スピーカーから美しく優しい音楽が流れ出し、囚人も看守も皆しばし呆然として立ち尽くす。まるで時が止まったような空を見上げる。
 モーガン・フリーマンによるナレーションも、詩のようで感じ入ってしまう。
「この豊かな歌声が
 我々の頭上に優しく響き渡った
 美しい鳥が訪れて
 塀を消すかのようだった
 短い時間だが
 皆が自由な気分を味わった」

 アンディーが「誰も奪えないあるもの」というhopeー
 屋上で作業する手を休め、午後遅い空を背景に囚人たちがビールを飲む姿。
 脱獄したアンディーが、雷鳴とどろく空にむかって両手をひろげ、自由の身に歓喜する場面。
 鳥が羽ばたくがごとく、高級車に乗ってジワタネホへ駆けてゆくアンディー。

 『ショーシャンクの空に』という邦題は、アンディーが心に抱き続けたhopeにふさわしく、様々な名場面を喚起させる爽やかな響きがあり、また、親しみやすい。

 ちなみに、原題にあるredemptionとは、救済とか、キリストによる罪の贖い、救いといった意味がある。作品解説で監督が語るところによると、1994年公開当時、作品の重いイメージが敬遠されたのか、アカデミー賞7部門にノミネートされていたにも関わらず、興行的には失敗だったそうだ。それが、1985年にビデオレンタルで第1位になり、熱心なファンたちのおかげで徐々に広く支持されるようになったとか。
 公開された年だけ注目されて、翌年には忘れ去られるような作品より、むしろ好ましい結果になったのではと思われるが、当初敬遠されたという重いイメージは、“THE SHAWSHANK REDEMPTION”というタイトルに起因するところが多かったのでは、と思った。

 映画鑑賞Note'sを綴るにあたり、できるだけネタバレしないよう心がけてきたが、今回は具体的に場面を上げて説明的に書いてしまった。有名な作品なので、スティーブン・キング原作で、男が脱獄をはかる話、というあたりまでは観ないでも知っている人も多いのではないか。
 けれども、そういった予備知識が、実際に映画を観た時の感動を損ねてしまうことはないと確信している。そのくらい内容のある、豊かな映画なのだ。ティム・ロビンズ、モーガン・フリーマン、その他の実力派俳優たちの共演、リアルな刑務所内の光景、音楽と静かなナレーション、謎解きの要素・・・観客を楽しませる仕掛けがたくみに隠されていて、“次はどうなるの?”と最後まで引き込まれる。
 見所いっぱいであること間違いなしだ。

 本作を観終わった後、私の心には青い空と海と、鳥のように羽ばたいたアンディーの鮮やかな軌跡が残った。こんなに気持ちのいいラストには、なかなか出会えない。

「たった6年で」
   アンディーの言葉が、また蘇る。

   アンディーほどの不運に見舞われる人も、そうそういないだろう。私もアンディーほど惨酷な現実の中を生きたことはないし、これからも、きっと、ないだろう。
 しかし、凡庸な人間の人生でも、忍耐と強い意志、何より希望を抱き続けることが必要な時はあるものだ。この私にだって。

 私の心の中にも、アンディーを住まわしておこうか。アンディーは必要だ。アンディーはヒーローだ。ヒーローを感嘆しているだけの人間じゃダメだ。

 いい映画を観た後は、そんなふうに胸が熱くなる。

   当分、アンディーが空に描いた軌跡が、心の中から消えないように見張っておかないといけない。

‐2009年3月24日 DVDにて初鑑賞‐
(この記事は、SOSIANRAY HPに掲載した記事の再掲載です)

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