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序詩 時空詩

「定義は秩序の王である」

明るくて汚い場所に居た
暗くて美しい場所に誘う
闇には雨が、魂には裂傷が
鮮血には月光が、安息には慈愛が
より魔的に作用するように
街角で貴意なきもの(アンドロイド)を迎え撃つ
言葉にして無情の時が来る

あの世の先着者が光る文字を書いた旗を振る
哲学者どもの呑気な口笛が、彼らの怒りに火を着ける
すべては肉体のそらごとかと
情報の碧海が燃え上がる
蛆の湧くような光景を真顔で見る
黒衣の影たちは次元のグリッドに遊び
やがて等しく時の砂を食む

またしても、過ちはアブミ骨に器用に引っかかる
千の秒針を飲む者にとって現実とはいったい何か

千の命を呑む河は、魚の夢も、流木の思念さえも
透明な刃でくしけずり、下流の未来へと急ぐのか

鳥は農夫の頭上を往き過ぎる
黄金の穂先から落日の陽が滴る
迅速に夜は来る
瞬く間に朝へ向く
鳥は最果てに消え、農夫が死んでいる

再生
幻馬の記憶
消え猫の記憶
あるところでは、岩間に眠る兄弟を見た
また別のところでは、薬液漬けになって


「パラレル・メソッドの輪転」

息子よ
おまえの日は老いて穂垂れ首のごとく
はち切れそうに膨らんだ最期の火は
今にも時獄へ転がることだろう
復讐に燃えた車輪を回し血の轍をゆくのなら
今こそ行間に佇むりっしんべんの心を知れ

創造と時を同じくして滅びの歌に耳を傾け
砂塵が黄色い花へ被さる静かな午後を愛せよ

観よ南を
出航の合図で軛から放たれた蹄鉄を響かせ
溟海を越えて白雲に乗る一角獣を

観よ北を
無数の針に示された時の航路を絶ち切れず流れ
弱者の背を濯ぐ雪融け水の果敢なる赤き進路を

夢路のあらましは虚貝の殻に描き
遠い海に眠る記憶と代えよう
影の幻はサラギの少年の眼前に
華々しくも数奇な奇蹟という言葉には身を置かず
魔法とは目にも留まらぬ喫水の深潜力と息を呑み
春の虹には吹く風に抱かれて
未だ眼の開かぬ虫の子を渡らせ
湖畔でしどけなく戯れる羚羊に紛れて

「穢れぬ旗」と喝采を浴びた行列を見送る
猫が土鍋に丸くなり
蝸牛は図らずも永遠のなか
人工の楽土で模範的に憩うため
監戒の鳥を眼中に収める

姿を終えた幽体に嘆くすべはない
考えだすほど次第に記憶の野辺は昏くなり
過去を振り返れば忽然とあの水の来た峰は消え
溟濛たる霧ばかり

灰の雨
怪人の足跡
もはや形もない耳に触れる
歩幅だけが存在の証である
幾度目かの自己終極の果て
空間の未明に
忘れたはずのおまえが横たわっている


“微動は記録される 記憶できなくとも”

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