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ある日妻と行ったレストランが爆発したら <夫婦世界一周紀37日目>

重たい話だけれど、どうしても書いておきたいことがある。スリランカのテロの話だ。

今年の4月、スリランカで同時多発テロが起きた。250人あまりの死者が出た未曾有のテロだ。テロは世界中のいろんなところで起きているが、スリランカでこの規模のテロが起きるというのは史上初と言えるような出来事だった。

そもそも、スリランカという国は「安全」が大きな特徴だった。物価が安く、人はやさしく、そして安心。その信頼感で欧米をはじめ多くの観光客で賑わう国だった。まあ実際楽しい国かどうかは人それぞれ。僕たちのこれまでのエッセイを見ればなんとなくわかるだろうけど、まあ治安に関しては確かに安全だったと思う。

でも、この事件はその根底を覆してしまうような大きな事件だった。そして、旅を終えた僕たちにとっても。なぜなら、僕たちはテロの標的にされて死傷者が出たシナモングランドホテルに、一年前の今日ご飯を食べに行っていたからだ。

シナモングランドホテルは大都会コロンボにある高級ホテルだ。日本でいうハイアットや帝国ホテルみたいなもんだろう。ドアマンがいて、ハイヤーが待っていて、天井が高くて、ドレスアップした人たちしかいないようなホテルだ。僕たちが泊まれるようなところではないけど、このホテルに併設されたレストランに用事があった。ヌガガマという名のレストランはスリランカの古典的なカレーを10種類以上食べられるバイキングで、日本人に特に人気だった。スリランカでさんざんカレーを食べてきたけれど、カレースタンドのカレーだった。もしくはかなり上級者向けの熾火カレーだ。これぞスリランカ!というような王道のカレーは、未だ味わっていなかった。スリランカに来たのだし、高くてもいいからしっかりしたカレーを食べようとと思ってそこに行ったのだ。

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カレーは美味しかったし、綺麗だったし、治安も今まで一番よかった。悪くなかったので夜も歩いて帰ったほどだ。いい思い出だったので帰国してからもあそこはいいところだと何人かに勧めた。トカゲの心配もいらない。サソリもいない。ネゴンボよりも、キャンディよりも、ウナワチュナよりも、一番安心安全な場所のように思えたのだ。

帰国してから3ヶ月後にテロが起きた。見覚えのある場所がぐしゃぐしゃになっていた。

僕はこのテロから二つのことを学んだ。もっとも危険なものは人であるということと、旅が安全に終えられるのは努力でもなんでもなく、運であるということ。

秋葉原だって殺戮の場所になるし、ある日空から人が降ってくることもある。目の前で人が跳ね飛ばされる。数10センチずれていればそれは自分だったかもしれない。日本だって同じことだ。でも日常に降りかかる確率と、旅中に遭遇する確率は決して一緒ではない。無事に旅を終えて帰ってこれるか、そうでないかを分けるのは運でしかない。日々お祈りを捧げれば回避できるものでもない。そもそも、今回のテロを生み出したのは宗教だ。

それでも僕は旅をやめないし、行くこともやめないし、生きていくことも続けようと思う。そういうものに怯えて暮らすのではなく、いつ起きてもいい心持ちで毎日を全力で生きようと思う。こういうのは大抵起きてしまえば日頃の心持ちなんてほんの足しにしかならないことは、30年近く生きていればなんとなく知っている。でも、ないよりあった方が良いもので動かなかったらなんにもならないのだ。これはたまたまた運良くチャレンジに成功した人が言ってるだけの戯言かもしれないけれど。

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外に出ることが出来ない今、旅をできること自体に価値が生まれつつあります。僕たちが見てまわった世界はもうないかもしれないけれど、僕らが家にいる時にも世界は存在していて、今日もトゥヴァだってニウエだってある。いつか全てが終わった時に、あそこに行きたいと思ってくれる人が一人でも増えたらいいなと思って、価格を改訂しました。 無料で公開したかったのですが有料マガジンを変更することが出来なかったので、最安値の100円に設定しています。

2018年8月19日から12月9日までの114日間。 5大陸11カ国を巡る夫婦世界一周旅行。 その日、何を思っていたかを一年後に毎日連載し…

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