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天才による再解釈、映画ゴールデンカムイ感想

評価:4.2
ネタバレあり
原作は10巻まで読んでいます

2024年公開の邦画ナンバーワンがはやくも決まってしまった感がある。
いやまだ2月の頭だけれども……
この後ゴジラマイナスワンみたいのが出てこない限りこれがナンバーワンなんじゃないかな
というくらいすんごい、良かった
感想書きますのでお時間ある方はどうぞ

ある種リズムネタのような気持ちよさがある


Twitter(現X)で、
かの「HiGH&LOW」の監督である久保茂昭監督が監督をつとめているときいて、更に期待が高まっていた。
HiGH&LOWが大好きなもので……

今作も主要キャラの登場時やキメのシーンで
気持ちスローモーションになって、
デェーン!という劇伴が被せられる。
HiGH&LOWにおいて達磨一家の林遣都の登場時もこうだった。
漫画のワンピースで例えると、見開きページにキャラクターの立ち絵があって、背景に「どん!」とある時の感じ。

本能的に「カッコいい〜!」と感じさせられる演出が、劇中ずーっと続く。
こんなのアガらないわけがない。

それにしても、なぜ人体には「カッコいい〜!」と感じる本能が備わっているのだろう。
人体の不思議は尽きないが、ともかく監督のねらい通り劇中ずっと「カッコいい〜〜!」と思わされる。
歌舞伎の「見栄」にも似てるかもしれない。
これぞエンタメという感じだ。

調べてみたら、久保茂昭監督とは、かねてより有名邦楽歌手のMVをたくさん手掛けてきた監督らしい。
家に帰ってウィキペディアを読んで、だからか!と膝を打った。
ともかくリズムがキモチいいのだ。

ゴールデンカムイの人気キャラクターが、
カッコいいリズムに合わせて、デェーン!と登場する。
こんなんアガらない方がおかしいだろう。

ゴールデンカムイって「何マンガ」だと思う?


昔からマンガが好きで割といろいろ読んできたつもりでいたが、
ゴールデンカムイを初めて読んだ時
これまで読んだどのマンガにも似てなくて、困惑したのを覚えている。
「楽しみ方」がわからない、というか。
(少女マンガであれば、主人公のヒロインに感情移入して恋愛を追体験しトキメキを感じる、というような)
それなのになんか面白くて、気づけば夢中で読み進めてしまう、不思議な魅力のマンガだと思った。

10巻まで読んだ私にとってのゴールデンカムイとは、
パートによってはバトルマンガなんだけれども、戦争ものであり、キャンプ(サバイバル)マンガであり、アイヌの文化について学べる学習マンガであり、グルメマンガでもあり、ギャグマンガであり、ちょっとゲイっぽいカルチャーも感じる作品であった。

久保茂昭監督は、ゴールデンカムイを主に、バトルマンガ・キャラマンガ・自然マンガとして解釈して、映像にしていると感じた。

私の好きなゴールデンカムイとは、
博学なアシリパさんから冬の北海道でサバイバルする術を教えられながら、実際に過酷な冬の雪山を冒険するところだったので、
今作はちょっとバトルシーンが多いなと感じた。

でもこれは、「ゴールデンカムイ」という作品がノンジャンルの多角的な作品だからこそ起きた、ある種必然の解釈違いなのだと思う。

久保茂昭監督の撮ったゴールデンカムイに文句があるなら、私も自分の思うゴールデンカムイを撮ればいいわけだ。(無理だけど)

自分にとってゴールデンカムイ像が割とはっきりあったとしても、一つのファンアート映画だと捉えれば抵抗なく久保茂昭監督のとらえたゴールデンカムイ像を楽しむことができた。

キャスティングも楽しい


突然別作品の話をして恐縮だが、
著者は2.5次元の刀剣乱舞が大好きである。
2.5次元の刀剣乱舞は舞台作品のため、
3時間近くもの長い間、360度どの方向から見ても「キャラクターらしさ」を感じる役者を選ぶ必要がある。
もともとは平面のゲームキャラクターに、そんな役者をキャスティングするなんてことは可能なのか?と思いきや、毎度 熱狂的なファンもうならせるような、ものすごい「それっぽい」役者をキャスティングしてくる。
このキャスティングの技術力の高さを堪能させてもらうのも、毎回楽しい要素なのだ。

さて、このゴールデンカムイからもキャスティングのこだわりを感じた。

この「ハマるキャスティング」において、
例えばミュージカル刀剣乱舞は役者の「骨格」を重視している、とのことだったが、
このゴールデンカムイは、
俳優を「白目の大きさ」と「顔の輪郭」で選んでいるのではないかと思った。

おかげで、似たような軍服を着た登場人物の初登場シーンでも、あっ、あのキャラだ、とパッと名前が出てきた。
つまり直感で「似ている」と感じられたということだ。

映画館のような巨大な画面に大写しになった時でも、眼差しのカットだけでそれが「誰か」わかるのはキャスティングが上手くいっているからに他ならない。

また「引き」の映像になった時も俳優の「顔の輪郭」がキャラクターと同じ特徴なので、同じ軍服を着ていたとしてもキャラクターを見分けることができた。

「寄って」も、「引き」でも、どのキャラクターか直感で分かるキャスティングは上手くいっている、としか言いようがない。
いい俳優をキャスティングしたものだ、と感嘆した。

山﨑賢人の杉元佐一


特に最近悲しいニュースが起きてしまったこともあり、
原作ある物語の実写化が簡単ではないことは誰しもに知られることとなった。

このゴールデンカムイも大ブレイクした人気マンガを実写化した映画作品だ。

制作発表当初から、この前例のない複雑なつくりの大作マンガを実写化することに懐疑的な意見も多く出た。
私も、そんなこと可能なのか?と不安に感じたことを覚えている。

しかし公開直後から、熱心な原作ファンを中心に「この実写化は大丈夫だ」と太鼓判が出た。
なので私も安心して見に行くことができたわけだが。

キャスティングのセンスがよく、
先程の項でも書いたように、引きでも寄ってもそのキャラらしく見えた。

そのキャスティングの良さに加えてもう一歩踏み込んだ「良さ」を与えていたのが、山﨑賢人の演技力だ。

大人気マンガの主人公を、
初の実写化作品として主演で演じるプレッシャーとはいかばかりであろうか。
しかし実際に、日露戦争の時代に、「杉元佐一」の生い立ちを背負った男がいたとしたら、このような者だったのかもしれない、という説得力が山﨑賢人の佇まいにあった。

「不死身」というタフさの極みみたいな肩書とは裏腹に、繊細に傷ついた心を抱え、日露戦争の時代を全力で駆け抜けていく。目的に対して一途な、アイヌや少女を差別しない、清らかな魂を持った男。

そうした男の生き様を、
北海道の雄大な自然をバックに立体的に表現してみせた。
山﨑賢人の姿には杉元佐一としての説得力があった。

また役者といえば他にも、玉木宏の鶴見中尉も良かった。
玉木宏の演技力によってクレイジーなキャラクターが立体的に出現していたが……
個人的に、あの鶴見中尉の若い頃が「玉木宏」のような容貌であったかもしれない、ということが大変良いなと思った(笑)

舘ひろしの土方歳三も文句ないカッコ良さだった。

みなさんこのために乗馬を練習されたのだろうか?
有名な俳優さんのカッコ良い乗馬術にも痺れた。スタントかもしれないが……

それと、アシリパさんの「イヤな顔」が本当に原作の通りで、
原作者の野田サトル氏の人間の表情の描写がもともと正確だったからなのか、
アシリパさんの「イヤな顔」を上手くできる女優をキャスティングしたのか、
山田杏奈さんが練習してこの顔を上手くできるようになったのか、
分からないがマンガの通りの顔をされていたので思わず「スゴい!」と声に出そうになった。

美しい北海道


原作のマンガを読んだことがある人なら同意してもらえると思うが、
ゴールデンカムイは背景の書き込みがかなり細かいマンガだ。

私も読んだのはずいぶん前になるが、
今でも北海道の大自然が見開きで描かれたページを思い出すことができる。
こういった背景の書き込みのレベルからして、
作者の野田サトル氏が表現したかったことの中に「北海道の雄大な自然」が含まれていることは言うまでもないだろう。

この映画も冬の北海道で撮影された。
それだけですでに映像は「ゴールデンカムイ」らしくなっていたと思う。

私の人生は北海道にあまり縁がなく、
30歳になる頃にようやく初めての北海道に旅行に行った。
その時は冬の大沼公園を訪れたが、
生い茂った樹などないから見通しが良く、
雪が白いからどこまでも明るくて、
何らかの野生動物の足跡があるものの、明らかに四足歩行を連想しない足跡が不気味で(今調べたらキツネの足跡らしい。小さい点がミシン目のように並ぶ。)
雪が音を吸うからどこまでも静かで、
「異世界」とか「あの世」を連想する光景だった。
そういう北海道特有の景色がこの映画の映像にしっかりおさまっていた。

久保茂昭監督も、北海道の雄大な自然をバックに登場人物を引きで撮ったりして(登場人物が小さく見えるようなカットということ)
北海道の自然を重用しようとの意図が感じられた。

こうした神秘的で、静かで、氷点下の極寒の世界の中で、
人間だけがどこまでもアツく、ギラギラと野心を燃やしてぶつかり合う。(あとクマも)
こういうミスマッチこそが、ゴールデンカムイの醍醐味でもあろう。

久保茂昭監督はしっかりとこのゴールデンカムイの醍醐味を映像で表現していた。

その他良かったところ


・日露戦争でまさに一騎当千の活躍をみせる杉本を見ながら、そういえば第一・第二世界大戦の軍国主義の時代に生きた人、それも兵士を「カッコよく」ヒーローとして描いた作品てあんまり見たことないかもな、と思った。(日露戦争は第一次世界大戦より前の戦争だが)

・私はアニメも見ていなかったので、
原作のカタカナだけでは想像するしかなかったアイヌ語の発音を聞けたのも嬉しかった。
割と現代の標準語に近い音声に聞こえたけど、
実際はもっと独特の発声だったりするのかな?

・20年くらい前にACIDMAN好きだったのもあって
ラストでACIDMANのエモサウンドが爆音でかかるのなんか面白くて笑ってしまった。東京リベンジャーズのエンドロールのSUPER BEAVERはなんか象徴的で印象に残ったけど、最近の邦画はクレジットで邦ロックをかきならすのがブームなのかな

まとめ


ラストで新キャラのキャスティングが終了していることが示されたので、
はやく次のが見たい!
でも冬じゃないと撮影できないから、ずっと先になるかな、、、
久保茂昭監督にはHiGH&LOWも撮ってほしい!
休まず働いて欲しい(笑)
嘘です、お身体大切になさって、名作をたくさん撮ってほしいです!



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