見出し画像

土石流

土石流まぬがれ燃ゆる擲燭かな    阿波野青畝(1899年~1992年) 
 季語【擲燭(つつじ)】- 夏
どせきりゅう まぬがれもゆる つつじかな

阿波野青畝(あわの せいほ)は奈良県高取町出身の俳人。幼少期から耳が遠かった為に進学を断念せざるを得なかったと聞きます。しかし、それによって『万葉集』を始めとした読書に深く入り込む日々を送ることとなり、それが青畝の俳人としての抒情性を高めたとも言われています。
彼の句には葛城山など奈良の風景を詠んだものも多く、奈良に拠点を置く当社としては親しみを感じます。

今回取り上げた句の季語は「擲燭(つつじ」。夏の句です。
梅雨の長雨のせいで起こった土石流なのでしょうか、そこにあったものは全てなぎ倒され、ただ石と泥が覆いつくすばかり。

画像1


けれども色をなくした無残な光景のそのすぐそばに、かろうじて土石流をまぬがれた躑躅がまるで燃えるように赤く咲いている様子が詠まれています。

躑躅の赤い花を「燃ゆる」と表現する事で、土石流にも負けない燃え上がるような強い生命力を表すと同時に、色のない世界で赤だけが際立っている光景の禍々しさ、土石流の恐ろしさをも詠っているようにも思えます。

自然の猛威と、その自然に翻弄されながらも生きてゆく命の力強さを改めて考えずにはいられない、そんな句です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?