見出し画像

第88話:死語について

図書館で読む本を物色していると『現代死語辞典』という本に出くわした。ほーっと思い手に取ると、なるほど古びた懐かしいことばが並んでいる。

ちなみにその中から僕の実感の中にある身近なことばを幾つか拾ってみる。

赤線
赤チン
内風呂
エアガール
おさんどん
オート三輪
おひつ
蚊帳
行水
猿股
シミちょろ
ズロース
雪隠
洗濯板
乳バンド
どかべん
虎刈り
寝圧
ねんねこ
はばかり
べいごま
坊ちゃん刈り
豆炭
もんぺ
ラッパズボン
ルンペン・・。

なかなかおもしろいなどと思うが、結局、生活と密着していたことばが、生活が変化することで取り残されてしまったということになろう。

高校生活でもいわゆる不良の代名詞といえば僕らの時代なら、長ラン短ランラッパズボン。ちょっと進むとリーゼントの時代があったが、今はみんな死語だろう。ラッパズボンなんてはいてきたら笑われてバカにされてしまう。

何年前か、生徒がもはやルーズソックスを知らないと言うのに驚いたが、どんな言葉もやがて死語になるに違いない運命のもとに今を生きている。そう思うと、何か死んで行くことばに哀愁が感じられて来たりもする。

一方、時代や生活は変化して、既に死んでいてもいいはずなのに、しぶとく生き残っていることばもある。

歯磨き粉とは言うが、今どき缶に入った粉で磨いている人はなく、皆、チューブに入った練り状のものを使っている。粉ではない。
線路の枕木と言うが、今はみんなコンクリートで出来ている。

動詞も。
ワープロで書いているのに、文章の結びを、この辺りでペンを置きたいとしたりする。
テレビのチャンネルはリモコンのボタンを押して替えるが、それでもやっぱり、チャンネルをまわすと言う。
チンすると言えば電子レンジでものを温めることだが、今どきの電子レンジはピッピッなどというのであってチンとは言わない。
本を紐解くなんていうのもそうだろう。

時の流れの中で、一方で死んで行くことばがあり、一方で生き残って行くことばがあるのはおもしろい。ことばがもっている生命力とは実に微妙なものである。


さて、今の例を例えば「死んだのに生きていることば」と乱暴に言ってみると、「生きているのに死んでいることば」がある、と最近思う。

例えば、モラル、思いやり、優しさ、夢、等々。

正義」とか、「政治」とかも・・。
忖度」という死語のように眠っていた言葉が、本来の意味を忘れられ、汚れたことばとして跋扈してしまう世の中に「幸福」や「美しさ」はないだろう。

何を美しいとするか、一人一人が問わなければならないと、生意気だが、思う。

(土竜のひとりごと:第88話)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?