![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/85487001/rectangle_large_type_2_1ee1f285fab7d129a6085d01b3669143.png?width=1200)
夏 絡まる
夏が絡まる。
私は海のそばで生まれた。
当時は比較的有名な海水浴場で
夏には売店がたち、飴湯が売られた。おでんが売られた。
桟敷席も作られ、大人たちはビールを飲んだ。
高校野球の熱戦の様子は連日スピーカーから流された。
春には見知らぬ人たちが夏に集う。
秋には金木犀の香りに消え去る人たちが夏に集う。
冬には知らぬふりをしたただの他人が夏に集う。
海は人で溢れた。
夏に集う人々は、同じものを見て、同じ顔で笑うことができた。
大きな船が通ると大きな波に身を委ねる
小さな船が通ると、小さな波を手で掬う。
それは当然の仕草だった。
波はしぶきを上げて太陽の光を反射する。
世界はとても単純に様々な事象を繰り返し、
私たちはくるりと一回転しながらありのままの世界を受け入れた。
生きることに意味なんて必要ではなかった。
夏の音は土砂降りの雨だった。
夏の風は入道雲だった。
夏の色は香り立つ潮の香りだった
夏の感触は時を経るごとに姿を変える。
今、夏は私の傍を通り過ぎない。
いつまでも、いつまでも絡まり続ける。
物憂げな秋はまだ訪れず、私の夏は悲しみ色に漂う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?