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夏 絡まる

夏が絡まる。

私は海のそばで生まれた。

当時は比較的有名な海水浴場で

夏には売店がたち、飴湯が売られた。おでんが売られた。

桟敷席も作られ、大人たちはビールを飲んだ。

高校野球の熱戦の様子は連日スピーカーから流された。

春には見知らぬ人たちが夏に集う。

秋には金木犀の香りに消え去る人たちが夏に集う。

冬には知らぬふりをしたただの他人が夏に集う。

海は人で溢れた。

夏に集う人々は、同じものを見て、同じ顔で笑うことができた。

大きな船が通ると大きな波に身を委ねる

小さな船が通ると、小さな波を手で掬う。

それは当然の仕草だった。

波はしぶきを上げて太陽の光を反射する。

世界はとても単純に様々な事象を繰り返し、

私たちはくるりと一回転しながらありのままの世界を受け入れた。

生きることに意味なんて必要ではなかった。

夏の音は土砂降りの雨だった。

夏の風は入道雲だった。

夏の色は香り立つ潮の香りだった

夏の感触は時を経るごとに姿を変える。

今、夏は私の傍を通り過ぎない。

いつまでも、いつまでも絡まり続ける。

物憂げな秋はまだ訪れず、私の夏は悲しみ色に漂う。

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