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VFRクロスカントリー考 HEROチェック2巡目と、エアライン運航に直接活きるスキルについて

本稿を含めたマガジンの収録記事は、著者の私見であり、あくまで参考情報の提供が目的です。実際の訓練にあたっては、それぞれの国の法律を尊守し、担当インストラクターの指示を優先してください。

前話はこちら

前回に引き続き、VFRクロスカントリーでのダイバージョン、つまり目的地の変更に対するプロシージャを見ていきます。「HERO」チェックの1巡目が終わったところでしたね。

HERO 2巡目は長期的対策

2巡目のHERO、「Heading」では、目印に向かいながら、地図上の発動点に正確に点をうち、同じく正確に点とした目的地と定規を使って直線で結び、距離を測ります。同時に、分度器を使ってトラック(真方位)を正確に測ります。

もちろん、これをちゃんとやるには両手がいるので、オートパイロットが必要です。ついていれば、使ってください。あるいは「1分だけこの飛行機のオートパイロットになってください」と言って快諾してくれるような、理解のある試験官ならお願いしてみましょう。CRM的には使えるものは全て使うのが現代のコクピットの常識です。

もしAPが使えなければ、できる範囲でベストを尽くします。フリーハンドでも意外と正確な線は引けますし、定規や分度器は当てて読むだけなら片手でもできます。

巡航高度もここで決めます。TODの位置とのバランスから、個人的には移動距離(マイル)に100をかけた数字あたりの高度をよく選びます。この場合は70マイルですから7000ftくらい。NZでは北向きのVFRは奇数+500ftと決まっているので、7500ftくらいにしましょう。

こうして出した正確なヘディング(厳密にはトラック)と高度を、ナビゲーションログに余白があればそこに、なければ予備の白紙ログに書き込みます。地図に直接書いてもOKです。真方位を磁方位に直す(Variationを引く)のを忘れずに。

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ここでは、プカキ湖南端からアッシュバートン飛行場までが 72マイル、真方位が 078°Tとします。磁方位はバリエーションの023°Eを引いて055°Mです。

そして2巡目の「ETA」では、目印に向かいながら、測った距離を、実際のTASで割って正確なEET(予想経過時間)を出します。現代のグラスコクピットでは、TASどころかGSまで出ていますが、これから発動点で変針するので、GSはどのみち変わります。TASでやりましょう。

古い、アナログ計器の飛行機なら、速度計にTAS補正ダイヤルがついています。外気温計から読んだ気温と、気圧高度の組み合わせで今のTASがわかるので、その数字を使うか、ざっくりIAS+10ktでも良いでしょう。

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TAS110ktで72マイルの場合は39分と出ました。
自分の飛行機のTAS付近に▲を合わせておくと使いやすいですよ。

この時、1巡目のHEROでやったHeading、ETAと矛盾がないかを確認してください。1巡目で東、とあるのに今回のヘディングが250などと出ていたら、それはおそらく分度器を反対向きに当てた可能性が高い。1巡目で35分くらいと出たEETが、今回20分だったら、それは多分定規の縮尺を間違えて当てた可能性が高い。最初にどんぶり勘定をするのは、このようにクロスチェックを効かせるためでもあります。

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EETを書き込みました。

さて、ここまで目印(発動点)に向かいながら、という前提があったことを覚えているでしょうか。発動点に着くまでに、ヘディングとEETの2つの情報がわかれば、ナビゲーションを開始できます。

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要するに、1巡目の「HERO」で、2巡目の「HとE」を片付ける時間を作るのが、2-Sweep HEROの肝なのです。ここまでやってしまえば、あとは鼻歌を歌いながら発動点で変針するだけです。

2巡目の「Radio」は、発動点で変針するときの通常のプロセスである「3T:Turn Time Talk」として行います。

発動点上空に達したら、Turn。バンクを確立したら、ちらっと時計を見ておきます。マグネティックコンパスが落ち着くまで飛行機をしっかりと飛ばしましょう。フラックスバルブがついている機体はDIとコンパスが電気的にシンクロしていますが、そうでない機体はなおさら。

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そしてTime。先ほどちらっとみた時刻を、発動点の出発時刻としてログに書き込みます。例えば、0155UTC(14時55分 NZDT)としましょうか。

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これに、EETを足します。01時55分に39分を足す。60進法なので結構面倒ですね。飛んでいるとなおさらです。こう言う時は、ずっと下を向いて考えず、55+39という情報を覚えて、一旦外を見て飛行機を飛ばします。コンパスはずれていませんか。高度は?

そうして、顔を上げたままゆっくり暗算をします。さて、55+39は?・・・飛行機を飛ばしていると、たったこれだけのことが難しいものです。しかし、正確にやることが大事です。焦らず、ゆっくりやりましょう。55+39とは、60+34と同じことですね。これはわかりやすい、時間が繰り上り、+34分ですね。やっとETAが0234とわかりました。やれやれ。

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訓練で飛行機に乗るときは、時計をUTCに合わせておいた方が良いでしょう。なぜなら、フライトプランの変更は全てUTCで管理されているからです。もちろん、個人の好みですが、私はこれでSARTIMEを間違えたことがあるので、面倒を避けるためにUTCに合わせる派でした。

そしてTalk。これがHEROチェックの「2巡目のRadio」と対応します。フライトプランを管轄しているFISCOMと呼ばれる周波数に合わせ、オペレーターに目的地の変更、新たなETAを知らせます。私は自動的に、ここでETA+1時間となるようにSARTIMEを更新することが多いです。

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"ETA Ashburton 34 Next hour. Request amend SARTIME 0330."

最後に「Obstacle」2巡目では、外はもちろん、地図もよく見ます。自分が引いたライン上に、障害物となるものが描かれていないか見てください。

特に、赤い印には注意を。Danger AreaやRestricted area、パラシュートドロップ、ローレベルならワイヤーなどです。

一旦外を見て。

エアスペースも見ておきましょう。コントロールエアスペースに入るなら、ATCにコンタクトして許可をもらいます。

また外を見て。

あるいは、山の風下側を行っていないでしょうか。揺れるので、西風が強い日などは風上側にトラックをオフセットする必要があるかもしれません。

また外を見る。

また、ライン上にナビゲーション上のチェックポイントを探します。1巡目で目印を決めたのと同じように、見て一発でわかるような、わかりやすい物標を選ぶのがコツです。外と地図をなんども見比べなければわからないような物は避けます。1/4、1/2付近に何かあると理想的です。

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チェックポイント1:Burkes Passの道路の直上
チェックポイント2:Ashwick Flatのアビーム、79号線直上
チェックポイント3:Rangitata Riverと79号線が分岐した道路の大きな橋。巨大な貯水池も目印。

地図を見る時は、ちょくちょく外を見て飛行機をしっかり飛ばします。高度、やHeadingがずれていないか。決して、地図をじーっと長時間見てはいけません。マップリーディングとは、いかに地図を読むかではなく、いかに地図を早くしまえるか。そう考えるとうまくいきます。

なお、巡航高度への上昇は、いつ開始しても構いませんが、前が見づらくなるのでワークロードと相談してください。発動後に上昇した場合、多少ETAに影響が出るかもしれませんが、それはあとで更新すればすむことです。

 さて、ここまでくればあとは通常のナビゲーションと一緒ですね。これで、ダイバージョンのプロシージャである「HEROチェック」が終わったことになります。

このあとのナビゲーションについては、こちらの記事にて解説します

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まとめると、

1巡目は、外を見ながら発動点を探してラフに燃料計算。

2巡目は、発動点に向かいながらログを準備し、正確なETAを出してフライトプランを更新、最後に地図を見て危険を避け、通常のナビゲーションにる戻る。

このような2段階で対処することにより、手早く、かつ正確を期したダイバージョンが可能になります。発動点がなかなか見つからないと難しいですが、その場合は見つかるまでラフにやって、見つかったら改めて2巡目を回せば良いでしょう。臨機応変にやってみてください。

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さて、以下の有料版では、今回見てきたような一見、前近代的なVFRクロスカントリーのトレーニングが、現代のエアラインパイロットに非常に大切なコアスキルを鍛える格好の機会であることを、具体例を2つ挙げて説明します。

VFRクロスカントリーは、見方によっては、むしろ初期のIFRのトレーニングよりエアラインの運航で使えるスキルを直接的に習得できる非常に大切な時間なのです。

ETAを出す本当の意味

ニュージーランドのCPLクロスカントリー試験では、ETAの誤差範囲が±2分とあります。そもそもなぜ正確なETAを出すのが大事なのでしょうか。

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