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うつ病は考え方を変える必要はない説

こんにちは、Soratoです。

今回はうつ病について書いていきます。

第三世代の認知行動療法

以前も申した通り、私のnoteは不安障害の方向けであり、うつ病を取り扱う予定はありませんが、第三世代の認知行動療法の本を読んでいて興味深い記述があったので紹介します。

第三世代の認知行動療法とはマインドフルネス認知療法、メタ認知療法、行動活性化療法、弁証法的行動療法、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)といった比較的新しいタイプの認知行動療法のグループを指します。

認知の「機能」に注目し、マインドフルネスとアクセプタンスという要素を重視することが共通の特徴と言われています。

各要素について詳しく書くと、何個も記事が必要になるのでここでの解説は控えますね。

ちなみに、認知行動療法というと一般に「考え方に問題があるので考え方を見直しましょう」という認識があると思いますが、それは第二世代の認知行動療法と言います。

「第三世代」「第二世代」と聞くと、第三世代の方がより最新で効果も優れているという印象を抱くかもしれませんが、あくまで違いは方向性ですので、その点は誤解なされずに。

行動活性化療法とは

今回取り上げたいのは上記でも名前をあげた「行動活性化療法」という行動療法です。

行動活性化療法については、「認知行動療法の新しい潮流 行動活性化」という本に分かりやすい記述があったので引用で紹介します。

行動活性化は、うつ病になった人の行動パターンを変えることで気持ちを軽くし、本来の自分を取り戻すための認知行動療法の一つの手法です。精神的に疲れたときに、閉じこもってうつうつとしていると、ますます精神的に元気がなくなってくる。逆に自分の好きなことややりがいのあることをしているうちに元気になってくる。一般にわれわれがよく経験する元気を取り戻すための知恵をうつ病治療に活かしているのが行動活性化と言えます。

認知行動療法の新しい潮流 行動活性化 著 ジョナサン・W・カンター、アンドリュー・M・ブッシュ

(本を書いてる著者の記述ではなく、監訳者のあとがきですがこちらのほうが端的で表現も平易なのであとがきの引用です)

実際に本を読んでみると、行動分析の話があったりして素人でもすんなり理解できる内容ではないのですが、すっごく簡単にいうと「思考や感情を変えるよりも、行動を変えていこうぜ!」的な心理療法であることは間違いないです。

私が紹介しているACTと基本方針は同じですね。

「思考や感情といった心の状態を書き換えるのは難しいので、行動面から変えていく」

アクトと行動活性化療法は似ているという記述を何度か目にしたことがありますが、「不安障害のためのアクト」にも共通点に関する記述があり、本の中で行動活性化のプログラムも紹介されていますので、同系統の心理療法と考えていいと思います。

アクトと行動活性化の違いについては、

・行動活性化にはアクセプタンスの要素は含まれているが、結果的に活用されている程度である

・行動活性化はアクトを構成するコミットメント(価値づけとそれにコミットした行為を増やすこと)の要素に集中的に取り組んでいる  

と指摘されてます。

(参考図書 新世代の認知行動療法 著 熊野宏明)

また、アクトは「うつ、不安、慢性の痛み、職場でのストレス、禁煙・・・(他にも多数)」と多くの心の問題をあつかう万能的な存在ですが、行動活性化はうつ病専門の特化型というのも違いのひとつですね。

まあ、繰り返しになりますが、ここではざっくりと、

行動活性化療法=「思考や感情を変えるよりも、行動を変えていこうぜ!」的な行動療法

程度の認識で十分です。

うつ病は考え方を変える必要はない説

タイトルにもした「うつ病は考え方を変える必要はない説」については行動活性化に次のような研究があります。

2006年に行われた大規模な研究では行動活性化、認知療法(認知の歪みに焦点を当て修正をしていく精神療法)、薬物療法、薬物のプラセボ群の比較が行われました。

結果、すべての治療法は軽度のうつの者に十分な効果を示しましたが、行動活性化は従来なら治療の困難な中程度から重度のうつの者により効果を示し、その効果は認知療法の効果を上回り、薬物療法と同等を示しました。

また、440人のうつ病患者を対象とした2016年の英国のリチャードらの研究においても、行動活性化療法は認知療法と同等の効果を示し、1年後の段階で患者の2/3は症状が50%以上軽減したと報告しました。

(参考図書と参考URLは記事最後の補足に貼ります)

つまり、うつ病の回復において、認知を見直すアプローチ(認知療法的アプローチ)とそうでないアプローチ(行動活性化的アプローチ)を比較したところ、どちらも同じくらい良くなっているということが示されたんですね。

これは、「うつ病は無理に考え方を変えなくても良くなる人もいる」ということを示唆します。

行動活性化の研究って結構昔から行われているようで、1996年にもワシントン大学のジェイコブソンらが認知再構成(認知を見直す)、中核信念の変容を含む包括的認知療法などと行動活性化の結果を比較して差異が認められなかったことから、

「うつ病の治療に認知的な理論や介入って必要ないんじゃね?」

ということを主張していたようです。

私たちって心の問題というと、「考え方」ばかりに目が行くので驚きの内容ですよね。

当然、認知の変容(認知の見直し)を含むアプローチで良くなっている人達がいるという事実から、

「うつ病で考え方を見直すのは無意味だ!」

という話ではありませんが、考え方ではなく行動面からアプローチする方法で良くなっている人達もいるということは覚えておいて損はないと思います。

私はうつ病ではなく元不安障害ですが、精神的にきついときって「考え方を変えようとすればするほど考え方を変えられないことに逆に悩む」という意味不明な逆効果現象に陥るのは経験済みですので、うつ病にも同じタイプの人がいるのかなーと思いました。

自分にはどっちがあってる?

アクトと森田療法を学んでいる私としては、「自分にはどの療法が合っているだろう?」と考える際は、不安や憂鬱で辛いときに以下のアドバイスを心に投げかけてみて、反応を見るといいと思います。

アドバイス1

「今のあなたはものの見方が少し極端になってしまっているかもしれませんね。あなたを苦しめている考えも〇〇と見てみることはできませんか?少し気持ちが楽になるかもしれませんよ」

アドバイス2

「不安や抑うつって自分の手ではなかなかどうにもならないものですよね。まずは何かできる小さなことからはじめてみませんか?少し気分も変わるかもしれませんよ」

前者が良いと感じる方は第二世代の認知行動療法があっていると思いますし、後者という方はACTや森田療法があっていると思います。

行動活性化療法については、ACT、森田療法と同系列なので後者で考えていいと思います。

終わりに

と、今回はうつ病に関する話でした。

ちなみに、本文中では触れませんでしたが、森田療法もうつ病を取り扱っており、「抑うつ的な気分をどうにかするのではなく、できることから変えていこう」というスタンスです。

このように外側から内側に働きかけるアプローチを行動活性化では「外から内」、森田療法では「外相整えば内相自ずから熟す」と言います。

今回私が行動活性化療法について読んだ本は専門家向けの本でしたが、いずれワークブックも読んでみようと思っていますので、読後にまたレポしようと思います。

行動活性化療法はマインドフルネスがあまり重視されていないという点で「感覚的な話は苦手」という私にとってはアクトよりも取っつきやすいなと感じました。   

補足

・ACTと森田療法は気分を変えることを目的とする心理療法ではありませんが、細かい部分は抜きにして書きました。

・行動活性化を取り入れている医師でも症状が重い急性期には休むことを優先することが多いようです。

・研究の参考図書とURLはこちら

2006年に行われた行動活性化、認知療法、薬物療法、薬物のプラセボ群の比較、1996年のジェイコブソンらの研究

参考図書

「認知行動療法の新しい潮流 行動活性化 著 ジョナサン・W・カンター、アンドリュー・M・ブッシュ」

・2016年英国のリチャードらの研究。厳密には「行動活性化療法と認知行動療法の比較」ですが、記事では説明上「行動活性化療法と認知療法の比較」としました。

参考URL

好きなことをするのが一番〜日経サイエンス2016年12月号より

うつ病への認知行動療法 vs.行動活性化療法/Lancet

行動活性化療法 心理オフィスK

・第三世代の認知行動療法の説明

参考図書

「新世代の認知行動療法 著 熊野宏明」


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