見出し画像

ぼくが知ってるロシアのこと

* ロシア人の名前は仮名です。

2019年の初夏、ロシアに一週間ほど滞在し、3都市でライヴ・コンサートを行いました。
モスクワ、ヤロスラブリ、サンクトペテルブルクです。
ネット上で知り合ったロシア人 ショミトリィというオーガナイザーがブッキングを担当してくれました。

ヨーロッパの街にはかなり慣れていましたが、ロシアに入国するのはこれが初めてで、かなりビクビクしていました。
強盗に襲われた観光客の話しとか、ネットで怖い情報をたくさん目にしていたので・・・
ぼくの荷物は楽器を入れた大きなスーツケースと大きなバックパック、プラスアルファ・・・
人気のない地下鉄で襲われたらひとたまりもないと思い、空港からホテルまでは普段まったく使わないタクシーで行きました。

ロシアで撮った写真はそのほとんどをPCの操作ミスで消去してしまいました。
わずかに残っている画像をアップします。
あとはそれぞれの情景をイメージしてお楽しみください。

文、写真 : Morihide SAWADA
http://www.snaredrumsolo.com


-- モスクワ

2日間に渡るフェスティバル「ノイズと怒り」で演奏しました。
どういう訳か、ぼくはよくノイズ系のコンサートに招かれるのでそんなに違和感はありませんでしたが、タイトルが恐ろしいので (笑) 、もしかしたら反体制派の人たちなんかがが集まってくるのかな? などと勝手に想像していました。
会場のカルチャーセンターDOMはしっかりした設備を備えた中規模のホールで、音楽ファンのメッカになっているようでした。
ロシア入りの前にプラハで一緒だったアーティストもここで演奏したいと言ってました。
開場後、少しずつ集まってきたオーディエンス達は、少なくとも見た目はおとなしそうな人が多かったです。

カルチャーセンターDOM

ロシアでの初演奏でしたが、不思議なバイブレーションを感じる事ができ、少しシャーマニックな感覚もあったように思います。
それで、当初は意図していませんでしたが、iPadでの録音を後からCDに収録しました。

勝手に想像していた政治的なメッセージなどはあまり感じられず、オーディエンスも純粋に音楽を楽しんでいるようでした。
フレンドリーな人が多く、演奏後に楽器や演奏法について尋ねられたり、現地のミュージシャンからCDをもらったりしました。
学生さんと思われる方々も多く、主催者のショミトリィに即興演奏の事などいろいろ質問していたようです。
楽しいコンサートでした。

とは言え、プッシー・ライオット (*1) のTシャツを着ている人なんかもいて、それはちょっと印象的でした。
よく考えてみると、目立つ形で政治的なメッセージを出せる国ではないので、「ノイズと怒り」というタイトルにはぼくには気付けない連帯感のような感覚があったのかもしれませんが・・・

他の出演者の中にイタリア人のダリオがいました。
彼とはイタリア、サルディニア島で出会っていて、一緒に即興デュオも演奏しています。
その後、ぼくがノルウェー、オスロのフェスに出演したときにも、なぜか彼が受け付けスタッフを担当していて驚きつつ再会。
今回はぼくらのロシア・ツアー全体のまとめ役になっていて、列車のチケットも彼が手配してくれていました。
彼はロシアに何度も来ていて、土地勘もあり、「ロシアの都市が好きだ」と言っていました。
ツアー仲間はイタリア人、ノルウェー人、フィンランド人、日本人の4人。
そこにロシア人のコンサート企画者 ショミトリィが付き添っている形です。

(*1) プッシー・ライオット
ロシアの女性パンクバンド。
過激な行動を取る反体制的なアクティビストとして知られ、逮捕や拘束もされている。


-- モスクワ市内散策

観光出来るほどのオフ時間はありませんでしたが、多少の散策はしました。
モスクワのほんの一部を垣間見ただけですが記します。

相変わらず地下鉄を避けていたためバスやトラムのみ使用。
有名な地下鉄駅などに入ってみたかったのですが、この時は妙におびえていましたね・・・

ちょうど中世フェスが行われていて、木々の並んだ遊歩道でちょっとした音楽演奏なども聞く事が出来ました。
ドイツ風でしたが、こちらの方が少し土着っぽいかな・・・?
一方、広い道路は車だらけで、おまけに道路標識が多くて落ち着かなかった記憶もあります。

古いメロディア (*2) の民俗音楽レコードなどが手に入る中古レコード屋はないか? とショミトリィに聞いたところ「DIGに行け」と。
その中古レコ屋 DIG (掘る) は、なかなか見つからずに苦労しましたが、それもそのはず、門のある公園の敷地内にある小さな小屋の中にありました。
雑多なセレクトでしたがなかなか安価で3枚ほど買いました。
その中の一枚がコレ。
1979年、ロンドンのロシア正教会で行われた「聖金曜日の晩課」ライヴ録音です。
ドイツにあるロシア正教会を見学したことがありますが、他の教会と比べて張り詰めた空気感を感じたのが印象的でした。

ロシア正教 教会音楽

公園の中にあった野外軽食店でファラフェル (*3) を食べているとテーブルの上にスズメが集まってきました。
これまた、ヨーロッパでもおなじみの風景で、妙に安心して少し分けてあげました。
安易に餌をあげてはいけないのかもしれませんが、同じテーブルにつかれるとちょっと弱い・・・(笑
周りはドイツやデンマークの公園と雰囲気も似ていてリラックスして、思わずウトウト。

他にもう一軒、欧米の廃盤やオリジナル盤を扱うレコ屋に行きました。
ブリティッシュ物やサイケなど、まあまあの品揃えでしたが日本やヨーロッパで買うよりもかなり高かったです。
思わず中指を立てそうになりましたが、おそらくは、あの値段で購入する現地のマニアがいるのでしょう・・・
・・・というか、ロシアで欧米のレコードを仕入れるのはある程度の努力がいるでしょうから、仮にぼくがディーラーだったとしてもあれぐらいの値段はつけるかも・・・
商売ですからね。。。
で、中指は取りやめましたが、一枚も買いませんでした。

あと、たまたまぼくが行ったところだけかもしれませんが、スーパーに並んでいるお惣菜の鮮度はイマイチで、ちょっとキツかった・・・
けど、コレはおいしかったです。

チョコレート

(*2) メロディア
ソビエト時代の国営レコード会社。
現在は民間経営。

(*3) ファラフェル 
中東のベジタリアン系コロッケ。
サンドイッチにすることも多い。
ヨーロッパのケバブ屋には必ずあるメニュー。

-- 移動

ホテルをチェックアウトし、地方都市ヤロスラブリに向かいます。
バスに乗って鉄道駅に向かいました。

モスクワからヤロスラブリに向かう鉄道の駅では空港と同じ様なセキュリティチェックを受けました。
荷物のX線検査などです。
ヨーロッパ各都市の鉄道駅では行われていないので、少しビックリ。


-- ヤロスラブリ

ここの会場は、一戸建て住宅が並ぶような街並みの中にあるアットホームなカフェ・ギャラリー。
モスクワとはうって変わってリラックスしたムードのコンサートになりました。

ショミトリィもラップトップのソロを演奏しました。
なんとなくそのサウンドを連想して「カールステン・ニコライ (*4) は好き?」と尋ねたところ、意表を突かれたような顔をしてとひと言。
「友達だよ」
彼はプロアマ問わず欧米アーティストのロシア・ライヴをブッキングしているとの事で、広い人脈を持っているようでした。

(*4) カールステン・ニコライ
ドイツのミュージシャン兼マルチ・アーティスト。
アルヴァ・ノト名義による坂本龍一とのコラボレーションが有名。


-- 移動

終演後、ショミトリィとはお別れ。
残りの4人組でサンクトペテルブルクへ向かいました。

ヤロスラブリから直行する列車のチケットが取れなかったため、いったんモスクワに引き返して、そこからサンクトペテルブルクへ向かう形に。

ヤロスラブリからモスクワまでは夜行列車。
コンパートメントで4人、ウォッカを飲んで寝ました。
朝、モスクワで降りたときに驚いたのは、同じ列車からゾロゾロと軍人さんたちが降りてきた事です。
銃を包んでいると思われる大きな袋を抱えている兵士もいました。

これと似た事は過去にポーランドでも経験していました。
ツアー中に乗った一般用列車の一部の車両で多量の銃を運んでいる兵士たちを見かけました。
一緒にいたポーランド人のアーティストも苦笑。
「ノーセキュリティーじゃねぇ?」
確かに。
日本では街中で見かける事はまずないですが・・・

早朝のモスクワ駅で軽く食事をしてからサンクトペテルブルク行きの列車に乗りました。
全員疲れていてグダグダ。


-- サンクトペテルブルク

到着後、ホテルのチェックイン時間まで街中で時間を潰し、チェックイン後に仮眠を取ってからライヴ会場へ向かいました。

会場名はサウンド・ミュージアム。
小規模の音楽スペースでしたが、名前の通り、というべきか、フロアにいくつかの楽器が展示されていて、しかもそれが全部変わった自作楽器で・・・

スタッフやオーディエンスもわりとプレーヤーぽい人が多く、「演奏を録音していいか?」とか「どんなトレーニングをしてるんだ」とか積極的でした。

終演後、行動を共にしてきた4人でパブへ。
呑み屋はヨーロッパの他の都市の雰囲気とほとんど同じでした。
地ビールも沢山あったけど、みな明日の朝が早かったので一杯だけ。
みなさん、お世話になりました。

サンクトペテルブルクの宵 白夜が近い


-- CD

約2年後、モスクワとヤロスラブリの演奏を収録したCDを作りました。
現地のデザイナーさんが作ったフライヤーが面白かったので、内ジャケに掲載しました。

"Two Complete Concerts in Russia"

昨年 (2021年) の10月、お世話になったショミトリィにCDを送りましたが、4か月以上経った今でもまだ届いていないそうです。
コロナの影響で当時から既に航空便はストップしていて、仕方なく船便で送りましたが、こうなるともう届かないかもしれない・・・
複数枚送ってあって、あちらの関係者に渡してもらう予定だったのですが。
とりあえず、ネットが通じている内にファイルで音源を送ろうと思っています。

ここまで、ロシア・コンサートの記録でした。


-- ネット友達

全く別の流れで友人になったムデストというサンクトペテルブルク在住のロシア人がいます。

10年ほど前、ぼくは自分が持っている民俗音楽のレコードやCDをネット上で紹介するページを作っていました。
それを見て、何人か海外の民俗音楽ファンがコンタクトしてきたのですが、彼もその中の一人で、ぼくたちはネット経由で多くの音源を交換するようになりました。

彼は、アフリカの打楽器音楽や北欧の音楽、自国のシャーマニックな音楽等を詳しく知っていて、日本ではほとんど知られていない貴重な音源を沢山送ってもらいました。

前述のライヴの時に会えるのではないかと思ったのですが、なんと、ぼくがサンクトペテルブルクに滞在するタイミングで、ちょうど彼の旅行が決定していたのです。
完全にすれ違いでした。
・・・ですので、未だ直接会った事はありません。

今回久しぶりに連絡してみましたが、とても混乱しているようでした。
ロシア人の50%はウクライナに親戚がいるとの事です。
ロシアの人たちがみな戦争を望んでいるとは思わないでくれとも・・・

「可能ならCDを送るよ」と約束しましたが、既に日本からの郵便はすべて止まっていました。


-- Q & A

ここでご紹介したショミトリィとムデストにロシア国内の現状について聞きました。
ご興味のある方はこちらも御覧ください。

ロシアの友人に聞いた(Ask Russian friend)
https://note.com/sorasanote/n/n05f95838dade

ショミトリィ・ドスタコーヴィチさん(仮名 モスクワ在住 61才)
Shomitrii Dostakovich (Moscow, age 61)

ムデスト・モソルグスキーさん(仮名 サンクトペテルブルク在住 37才)
Mudest Mossorgsky (St. Petersburg, age 37)


*英文メールによるQ&A (2022年3月8日)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?