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#わたしの宇宙のはじめかたVol.3 浅川純さん編(株式会社Pale Blue)

0: 「わたしの宇宙のはじめかた」とは

sorano meは2019年10月に「宇宙ビジネスで私たちのくらしを豊かにする。」というミッションを掲げて創業し、宇宙ビジネス領域で活躍できる人財を増やしていく活動をしています。

本連載では、現在宇宙ビジネス領域で活躍している方々が、どのように宇宙に関わるようになったのかインタビュー形式で紹介していきます。

今回、第3回として株式会社Pale Blue CEO浅川純さんにインタビューをしていきます。

また、本企画はsorano me代表の城戸彩乃が委員を務める宇宙ビジネス共創委員会のイブニングセミナーとの連携企画でもあります。

イブニングセミナーのイベントの様子は、日本航空宇宙学会 宇宙ビジネス共創委員会のYouTubeチャンネルでも配信しているので是非ご覧ください。

1: 株式会社Pale Blue CEO浅川純さんの紹介

ーそれでは、はじめに自己紹介をお願いします。

はじめまして、浅川純です。

水を推進剤として用いた超小型衛星用推進機の実用化を目指す株式会社Pale Blueの代表取締役(CEO)を務めています。2020年4月の創業時は4人しかいませんでしたが、今は20名のチームに成長しました。

ただ、まだまだ人が足りておらず、経営戦略の策定から実行、ビジョン確立、採用だけでなく、ビジネス・コーポレート・エンジニアリング業務の全ての領域において、仕組み作りから泥臭く手足を動かすところまで携わっています。
先日は、海外出張前夜のぎりぎりまで水推進機の作動実験を行っていました(笑)

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株式会社Pale Blue CEO浅川純さん
©Pale Blue

2: 宇宙のはじめかた ~幼少期からPaleBlue立ち上げまで~

ー浅川さんが宇宙開発に興味を持ったきっかけを教えてください。

実は、「子供の頃に見たスペースシャトルや探査機に憧れて宇宙開発に興味を持った!」といった、かっこいいエピソードはありません。

元々、宇宙開発に興味があるわけではなく、中学・高校の進路選択でなんとなく頭に浮かんできたのが宇宙でした。小さい頃に父親と一緒に見ていたUFOや宇宙人のテレビ番組の影響を受けたんだと思います。

私が高校生の頃には既にインターネットも普及しており、自ら宇宙に関する情報をネットで検索し始めました。「宇宙と言えば、まずは宇宙飛行士」と思って調べると、一定数の出身者は大学の航空宇宙工学科を卒業していると気付き、同時に初めて、大学における航空宇宙工学科の存在を知りました。

これをきっかけに、航空宇宙工学科がある大学に行きたいと思い、大学受験をしました。その後、紆余曲折を経て小泉研究室に配属され、今に至ります。

ー浅川さんが宇宙開発を仕事にしようと決めたきっかけを教えてください。

宇宙開発の仕事をするに至るまでに、3つのターニングポイントを経ました。

一つ目は、中高の担任の先生が、地元の高知県内の大学に進学しようとした自分に東京の大学を薦めてくれたことで、世界が広がったことです。このとき初めて「航空宇宙工学」という学術領域があることを知りました。

二つ目は、初めて参加した学術会議(第58回宇宙科学技術連合講演会)で私の拙い研究発表に対し、JAXAや企業等の多くの方から質問を受け、真剣に議論をしてくれたことです。老若男女問わず、純粋に知を探求していくアカデミックの世界に面白さを感じました。

三つ目は、初めて参加した国際会議(Small Satellite Conference)で小型衛星分野が学術だけでなく産業としても盛り上がっていることを肌で感じたことです。自らの研究を社会に浸透させていく必要性を考えさせられました。このような経験を経て、今はPale Blueで宇宙開発を仕事としています。

学会発表(Small Satellite Conference)

学会発表での浅川さん ©浅川純

ー起業するきっかけとなった産学協創推進本部が主催する「アントレプレナー道場」に参加された後、起業に対してどのように興味関心が強くなっていったか教えてください。

博士課程に進学後、アントレプレナー道場と呼ばれる、学内のスタートアップに関する講義の案内を受けました。最初は怪しいと思いつつ調べてみると、アクセルスペースやispaceの方が過去に受講しており、試しに受講しました。講義内で事業計画を作って発表する機会があり、そこで初めて小型衛星用水エンジンの事業を考えました。

アントレプレナー道場をきっかけに多くのビジネスコンテストに参加しました。そこで、あるコンテストの審査員の方(VCの方)に強く興味を持っていただき、研究者とVCがタッグを組んで応募する「大学発新産業創出プログラム」を教えてもらい、小泉先生を巻き込んで応募・採択してもらいました。そのプログラムで約2年半、プロトタイプ開発や営業、チーム拡大等を経験しました。

プログラム途中で博士課程を卒業しましたが、1年間はそのプログラム(と一部は別の研究費)で自分を雇用してもらいながら特任助教として勤めた後、2020年4月にPale Blueを創業しました。

ーPale Blueを立ち上げた経緯を教えて下さい。

学部4年生で小泉研究室に配属され、小型衛星用推進機の研究を始めました。また、当時運よく小型宇宙機の開発プロジェクトにも関わり、実機の設計・開発・運用まで一通り経験しました。

研究室

研修室時代の様子 ©浅川純

小型推進機の領域で研究と実利用の双方を経験した結果、両者のギャップの大きさを特に強く感じました。それは、研究と実利用それぞれで大事とされる評価指標が大きく異なる、ということです。

研究では、推進機内部での燃焼やプラズマ生成加速等の物理現象がどうなっているかを解明することに注力が注がれることが多いです。一方、実利用においては、安定的に推力が出せるか、推力や燃費の精度はどれくらいなのか、定常電力とピーク電力はどうなっているか、冗長性があるか、等といった観点の方が重要視されます。

このままアカデミックな推進機の研究をし続けても一生このギャップは埋まらず、自らの研究成果が社会で使われない、と危機感を覚えました。他の領域でも同様の問題は十分起こりえることだとも考えました。

元々アカデミック出身なので、基礎研究こそが人々を豊かにするという考えがあります。考えをより一般化し、基礎研究で得られた成果を社会に実装し、そこで得た収益を再び基礎研究や将来の人材育成に再分配するサイクルを作りたいと思い、Pale Blueを創業しました。

特に人類のエネルギー問題などの社会課題を考えたときに、自分事として捉えることが出来たこと、その解決手段である水推進に詳しい私が人任せにせず自分の力でやらないとダメだと感じたことも創業する上での考え方も根底にあります。

創業メンバーと小泉先生

創業メンバー(右側2人目が浅川さん)と小泉先生(一番右)
©Pale Blue

3:宇宙と自分をつなぐキーパーソンや大事なことば

ー人生におけるキーパーソンとその理由を教えてください。

キーパーソンは、中高時代の担任の先生であった川田先生と、大学・大学院での指導教員である小泉先生です。

川田先生は、地元の高知県内の大学ではなく東京の大学を薦めてくれて、初めて「航空宇宙工学」という学術領域があることを知り、自分の視野を大きく拡げるきっかけを作ってくれました。

小泉先生は、研究とは何か、原理原則の大切さ、宇宙開発の楽しさと課題等、今の私の礎となっている多くのことを教えてくれました。

ーキーパーソンのほか、影響を受けた言葉・もの及びそれらの理由を教えて下さい。

シャーマンキングというアニメの主人公である麻倉葉の口癖の「なんとかなる」という言葉が好きです。決して投げやりな言葉ではありません。

目の前のことに熱く全力で集中・努力しやるべきことをやりつつも、どこか自分の中に少しだけ冷静で余裕な側面を持たせておく。そうすることで、先に待ち受けるどのような事実も大きな器で受け入れて次に進むことができる、そのような心構えを持たせてくれる言葉です。

ー仕事をしていく中で辛いと思うことがあるかと思いますが、どのように対応されていますか?

辛いときは休むのが一番だと思うので、デジタル製品から完全に離れるようにしています。バイクが好きで通勤も含めてよく乗るのですが、バイクに乗るときはデジタル製品から強制的に離れられるのでとても良いです。
風を切る爽快感だけでなく、エンジンの回転数を音で聞き分けながら、うまくギアを合わせる操作が楽しく、上手くはまったときは何とも言えない心地良さがあります。
昨今は、内部がブラックボックス化されている製品が多いですが、バイクは純粋に「動くメカ」を体感できる良い機会です。もちろん安全運転第一ですよ(笑)

ロードバイクも持っているので河川敷を走ったりもします。あとは定番ですが、美味しいものを食べるとか、寝るとか、でしょうか。

バイク(後ろのバイクのナンバーは編集で削除等していただきたいですs

浅川さんの愛車©浅川純

4:浅川流 宇宙を”産業”にするビジョン

ー「宇宙を“産業”にしたい」とのビジョン達成にむけて、Pale Blueの事業をどのように発展させていきたいか教えてください。

まずは、水エンジンをニッチな領域で痛烈に愛されるプロダクトとして社会に普及することが目標です。
その後は、水エンジンに限らず、それらを使った宇宙空間でのサービス事業(軌道間輸送や推進剤補給等)に展開していきたいと考えています。
目指す世界は、「Pale Blueが宇宙空間における新たなモビリティインフラを担っている世界」です。

衛星

Pale Blueが開発する水蒸気式の小型衛星 ©Pale Blue

個人として究極的に考えていることは、「人類のエネルギーの使用レベルを上げたい」ということですかね。Kardashevスケールという文明が扱えるエネルギー量の指標があって、その定義に基づくと、地球文明は最低レベルのレベル1(惑星内の資源を使用可能なレベル)に相当します。これをレベル2(太陽系の資源を使用可能なレベル)に押し上げて、人類の活動領域をより広くしていきたいと思っています。

ーアカデミアの世界からスタートアップの世界に飛び込みたいと思っている人にメッセージがあれば是非教えてください。

アカデミアの世界で培われた経験やスキルは、スタートアップの世界で通ずる部分もあります。特に論理的思考力や問題解決能力は、どの世界でも間違いなく必要なスキルであり、それらが育まれやすい環境がアカデミアの世界だと思います。

一方で、それだけでは生き残れないとも強く感じています。大事なことは、アカデミアの世界にいらっしゃる皆さんが学生時代に初めて研究室に行ったときにおそらく感じたであろう「未知な世界に飛び込むわくわく感」と、「自らの探究心を満たすために何でも吸収してやろうという純粋な好奇心」だと思います。

スタートアップは目まぐるしく取り巻く状況が変わり、メディアで見える煌びやかな世界とは裏腹に、つらく苦しいことがとても多くあります。そういった新しく厳しい環境を楽しみつつも、あらゆることを学び吸収し実行することで先に歩みを進め、目指したい世界を実現する。そのポテンシャルを最も秘めているのがアカデミアの方々だと思います。

5:最後に

浅川さんはアカデミックの世界と実利用の世界にギャップを感じて、PaleBlueを立ち上げています。その裏側には、「基礎研究による成果を実利用を通じて社会実装し、収益を再び基礎研究や将来の人材育成に再分配するサイクルを作りたい」という2つの世界を経験したからこそ、考え付く想いがあったようです。

浅川さんのご経験にもあるように、今は研究者とVCを繋げるプログラムやベンチャー支援が充実しつつあります。こうした制度を利用することで、研究が日の目を浴びるだけでなく、研究者にもエンドユーザーにも還元できるものに昇華されうるのです。

みなさんが持つワクワク感と好奇心は、まわりを巻き込み社会に影響し波及しうるポテンシャルを秘めています。これらを臆することなく抱き続け、アカデミア・産業・あらゆるところに飛び込んでみてはいかがでしょうか。

引き続き、宇宙業界の最先端をリードする方々に、宇宙を目指したきっかけや仕事への取り組み方についてインタビューさせて頂きます。

次回もご期待ください。


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