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晩夏

シュティフター 1857

裕福な商人の息子として生まれた主人公ハイリンヒ。妹クロティルデと共に家庭内の教育で育った彼は、専門を持たない学者を志し、植物や自然現象の研究に取り組み、毎夏を山ですごしている。ある日、丘陵地で薔薇が咲き誇る白い家に立ち寄る。館は図書館、絵画堂、自然科学の実験室などを備え、地所では農園、家具工房、温室も営まれていた。ハイリンヒは館で日々の営みに通じていく。そして、ナターリエという女性に出会う。

ハイリンヒは自然研究と並行して、古典文学に親しみ、絵も描き始めていた。ある晩、彼は館のギリシャ像を見て、その姿からホメロスの「オデュッセイア」に登場する王女「ナウシカア」を思い起こす。ハイリンヒの関心は、自然研究の次なる段階として、芸術の美にも向けられていく。

さらなる経験を積むために冬山登山を行うハイリンヒ。厳しい自然が彼に、厳かで清らかな感情を与えた。・・・・下山した彼には、ギリシャ像にナターリエの姿が重なり、彼女が現在のナウシカアに思えるのでした。

自然、文化、芸術。これらの美的教育を享受する道を進めば、清く美しい人間に近づいていける。

・・・・でもそれは、罪と汚濁にまみれた、この世にいる「人間」ではない。「人間」とはいえない。回顧の中で「人間」は美しくなる。それが待ち受ける未来を、ほんの少しだけ幸せにする。

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