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おはなし書いてます!

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誰にでもあるような一人ぼっちで寂しい気持ちとか、ひっかかってること、読むと少しあったかくなるものから、心が焦げる匂いがするような嫉妬や執着、憎しみみたいなものまで。 絵本のような…
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#言葉

どこかの私のパラレルワールド、1月29日。

最近絵を描いてる時に気付いたこと。 フィクションでもノンフィクションでもない、 パラレルの世界の、どこかにいる私や貴方の話。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 夕方。仕事終わりの、しいんと静まりかえった部屋。 外は少し日が傾いてオレンジ色に染まっている。 それを見て僕は何だか寂しい気持ちになった。 「適応できるもんなんだなあ」 一人呟く。 在宅勤務になって三ヶ月。 例の宣言前はお気に入りのカフェで仕事をするのが日課だった。 以前は行かないと落ち着かなか

赤い靴の旅

玄関に二つ並んだ、真っ赤な靴。 それは少女のお気に入りの靴だった 所々少し傷んで味が出ている 優しい少女はその靴を毎日磨き、とても大事にしていた。 でも赤い靴は荒っぽくて少女とは正反対の性格だった だいたいの靴は主人の見てない所でワックスを使って「自分磨き」をするが彼は決してそんなことはしなかった 「みんな主人に媚びやがって」 赤い靴は主人なんか要らないと思っていた 「俺は一人でどこへだって行けるんだから」 ある日、玄関のドアが大きく開け放たれていた 外からふわふわと黄

ペトリコールの夜

夜の坂道、バケツをひっくり返したような土砂降り雨の後。 街灯の光で地面はキラキラと白く光っている。 さっきから口元のマスクが苦しい。 僕は梅雨が嫌いだ。 「苦しいね」 隣にいた彼女がふふと笑った。僕の上司だ。 あまりにも苦しいので、僕は思い切ってマスクを下にずらした。 その瞬間、懐かしいような雨の匂いがした。 マスクをするだけでこんなにも匂いがわからなくなるんだ…僕はすごく驚いた。 どうりで、今年になってから日々が無味無臭なわけだ。 「雨の匂いに名前があるんですけど

あの感情は、きっと龍の姿をしている。

小学校、中学校、高校。 鉛筆、消しゴム、やがてシャープペン。 書いては消し 間違えては消し 紙が汚れて真っ黒になる なんてのは高校ぐらいまでだった 大学では手がすれて汚くなるからとペンを使い 大人になったらあとも残らず画面は真っ白に戻り 新規作成すればなかったことになる 筆圧が強くて 消した文字が分かってしまうことも 跡が残って白が濁ってしまうことも 消し過ぎて紙が破れてしまうことも 今はない 筆圧が強いのは自己主張が強い証拠だと どこかで聞いた事があるけど 筆圧が強い

どこかにある、5月25日。

少し違う世界線の、どこかにいる私達の話。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 静かな夜の、公園のベンチ。 僕はホットコーヒー、 親友の男は缶ビール。 少しみんながそわそわしている、5月25日。 「あいつを倒して全部が終わったらさ、ゆっくり旅行にでも行きたいなあ。見た事ない景色を見て、その場にいるのを体感して。みんな同じこと考えてるだろうな」 親友は缶ビール片手に大声で言った。 僕たちは横並びになったベンチにバラバラに座っていて だから大声なのかと一瞬思ったが、 はじめか