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episode.2:過去に縋って君を想う

何度も何度も何度も夢を見た。
耐えられない気持ちを吐き出したポストを、自分の心を痛みつけるながらも読み返した。
それでも、私は彼が好きだった_________。


真っ暗な小さな部屋に、秒針の進む音だけが響く。寝返りと共に目が覚めて、視界に映った床は最悪な状況だ。
ピザの箱に、酎ハイの空き缶、脱ぎっぱなしの洋服が散乱。後で片付けるのが憂鬱になりそうだ。

隣で眠る彼はしっかりと毛布にくるまっていて、小動物みたいでなんだか可愛い。無防備な顔をちょん、と触って見るけど反応は無い。

静かにベッドから降りて、床のゴミを掻き分けながらベランダに向かう。ついでに手に取ったペットボトルを1口飲む。喉がイガイガする。珍しく二日酔いかもしれない、気持ちが悪い。

ライターを手に取って、1本の煙草に火をつける。朝起きて彼に内緒でベランダで吸う事が日課になってしまった。

脳内がモヤッとした思考に支配され、頭がボケっとするこの感覚は煙草によってやっと消滅させることが出来る。

『遥菜、僕の事好きなんでしょ???』

昨日の彼はそんな事ばかり言っていた。それにYESかNOで答えて欲しかったのか、私には分からない。その代わり、私はキスで返事を返した。意味は無い。

『彰人、私あんたと……』

その後に続く言葉が喉につっかえて出てこない。彼は不思議そうに首を傾けて、真っ直ぐこちらを見つめてくる。綺麗な瞳。だけどその瞳の奥に隠されたどうしようもない悲しみや孤独、そして本心は私には分からない。

『___このまま最後まで……』

最後まで、誤魔化してしまった。私が彼に抱く本心。大好きで大好きで仕方ない、という本心。

煙草がだんだん灰になった所で、部屋の中に戻る。ベランダを閉めた音で彼が目覚めたようだった。

「おはよう」
「んー、おはよ」

それから彼はいつものように身支度を済ませる。昨日と同じ服を着て軽めのヘアセットを行う。

「これから大学なんだけどー、だるー」
「1限大変だね、夜ご飯食べに来る?」
「ん?んー」
「まあ、来るなら連絡してね」
「お前さ……」
「……なに?」
「幸せになれるといいよなあ」

そんなことを言ってポンポンと頭を撫でる。そしてそのまま玄関に向かい、ドアを閉める。行ってきますは別に無い。

ふらっと出ていって、ふらっと帰ってくる彼はまるで猫みたい。

いつかそのまま消えてしまいそうだった。そんな儚さがその日の彼にはあった気がする。

……だから別に不思議では無い。
でも、分からなかった。その日かえって来なかった理由も、全ての連絡先がブロックされた理由も、私に幸せになって欲しいと願った理由も。

全てが理解出来なくて、その日からより一層彼のことを考える事になった。
悲しい、寂しい、好き、大好き、悲しい、酷い、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い

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