【短編小説】自販機
帰路につくとき、いつも自販機の前を通る。
そこには誰もいなくて、僕は少しだけほっとする。
暗闇の中で光るその無機質さが、僕にとってはありがたかった。
いつも一本コーヒーを買う。
ある日、そこに人がいた。
ただそれだけで、なんとなく裏切られた気持ちになってしまう。
上京して一人で生きていた僕にだけ、寄り添ってくれていると思っていた自販機。
一日一本しか買わないくせに、偉そうに裏切られた気持ちになった僕を、遠巻きに自販機が笑っている気がした。
おわり
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