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【短編小説】ポニーテールを眺めるだけの夜があったっていいのに


頭のてっぺんに近いあたりで髪を結んでいる、華奢な体が目に入った。ポッキーみたいな足がショートパンツから生えている。

体の線とは裏腹に快活そうに、少女は親らしき男性と喋りながらアイスを選んでいた。羨ましいとまでは思わなかったけど、選べば誰かが買ってくれるのってすごいことだよな、と改めて感じる。

少女はこっちの視線にも気が付かず、一瞥もされなかった。父親(多分)との距離が近く、仲の良さそうな雰囲気がまぶしい。

朝からフル稼働していた自分の体に、急に重力がのしかかってきた。どろどろと疲れがまとわりつく。出ていたアドレナリンが尽きてしまったのかもしれない。

自分はこれから、どれくらいの日数、同じように過ごすんだろう。まだ一週間しか出勤していないのに、まだ一週間しか出勤していないから、その途方もなさが嫌になる。

「やったあ」

声の方に改めて視線を向けるとポニーテールが、感情を表すように揺れていた。

今度こそ、しっかりとした羨ましさが、心の内側にこびりついているのをはっきりと感じた。


終わり


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