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ヘタレ師範 第9話 「ヘタレ師範」

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ここの道場は最初から驚くことばかりだ。
ガンカク「先生って、こんなのが?」
ジオンは、今度は落ち着いてその男を見た。
若い男だ。まだ30には手が届かないだろう。痩せ細った体にTシャツと軽いズボン姿である。どう見たって空手師範には‥‥。
ジオン「見えねえなあ。まるでデスノートの探偵L(エル)じゃねえか」
浴衣女が、例のコリア訛りで。
「シツレイ言わない。ゴロちゃん、この道場の立派なシハンなんだから」
テッキ「失礼?そういうオメエだって道場の師範に向かって五郎ちゃんてか?」
韓国女は
「ここ、ホカノどんな道場、団体と違う。上下ナイ。皆なかよし。わたし生徒。ゴロちゃんシハン。でもゴロちゃんとわたしトモダチ」
ジオン「五郎?」
いきなりジオンが大声で笑い出した。
ジオン「ははは、お前が五郎さんかい?。
あの、オープントーナメントの試合でゴリラと戦った?」
ガンカクも。
「そうか、試合に出るのを怖がって逃げ回ってたヤツか。
挙句の果てにゴリラの蹴り喰らって気絶した。あの白帯がここの師範だって? はは」
テッキ「『ボク怖いんです』って、そこの浴衣に泣きついて、ゴリラに蹴飛ばされてタンカで担ぎ出されたゴロちゃんだろ、てめえ?」
聞き覚えのあるガラガラ声がした。
「ゲラゲラ笑っているのは、やっぱりお前らが素人だってことだよ」
見ると、あの時のゴマシオ頭、ミヤギである。
ジオン「なんだ?やっと出てきたのかジイさんよ?  あのとき、偉そうなこと言うから来てやったんだ」
ガンカク「ところがだ、来てみて驚いたぜ」
テッキ「何せ、あのときの白帯泣き虫ゴロちゃんがここの師範だってンだかからな」
ジオン「それ聞いて、オレたち、とっても感動してるとこだよ」
ミヤギは鼻で笑った。
「ウソつけ。
俺とカミさんが、おめえらをシロウト呼ばわりしたからってノコノコ来たワケじゃネエよな?」
テッキが詰め寄って怒鳴りつけた。
「あったりめえだろうが。俺たちはウワサの道場破りだ。聞いたことあるだろう?
おめえらがへ理屈ぬかすからホンマもんの格闘技ってヤツを教えるために来てやったんだよ。ワザワザな。しかもだ」
ジオン「ふだんは、顔隠して突撃するんだが、ジイさんたちには、あの会場でとっくにメン割れてるし。顔出しでの道場破りは今回が初めてさ」
テッキ「大サービスってヤツだ。名誉に思いな」

ミヤギはまた鼻で
「フン、威勢がいいじゃねえか。
でもホントは気になったんだよな。あのとき、勝ったはずのゴリラがぶっ倒れちまったモンだからヨ。
本当はどっちが勝ったのか? 確かめたくて、ここに来たんだろうが。違うか?」
浴衣女ミヒ「ゴロちゃんフシギなヒトだからね。ヘタレなのか、ホントに強いのか、確かめたかったんだよね」
ジオンは答えに詰まった。
だって何もかもミヤギと、韓国女の言うとおりだったからだ。
するといきなり。
「偶然ですよ。あんなの偶然に決まってるじゃないですか。僕は怖くて震えてただけなんですから。痛いの怖いし、殴られたくなくて突きだした手が当たっただけですよォ」
五郎の声は震えていた。本当にビビっている。

ジオンたちは、道場破りのときは容赦はしない。しかしだからといって弱い者イジメは大嫌いだった。
ジオンは五郎を『弱い者』と認定した。
「ふふ、こいつのヘタレは間違いなさそうだぜ。なんせご本人の師範様がそう言ってんだ。こんな道場、破る価値もないぜ」
テッキ「ボロボロ道場でカネもなさそうだし。こんなヘタレの弟子だったのかジイさんたちはよー」
ガンカク「帰ろう、ジオン。こんな連中やっつけたって何の自慢にもならないし時間の無駄だ」
五郎の顔がパッと輝いた。
「そうですか、良かったあ。お帰りになりますか。ではまたいつか」
いそいそと3人を外に案内しようとした。しかし韓国人浴衣女のミヒが、タタっと3人の前に立ちふさがった。
ミヒ「あらら、せっかくドジョウヤブリ来たのに」
テッキが小声で。
「泥鰌(ドジョウ)じゃないし。道場破りだよ」
ミヒは聞こえなかったようで。
「何もしない?シッポ巻いて帰るの? ここのドジョウ(道場)のカンバンいらない?」
五郎は慌てた
「いいじゃないですか、看板なんていくらでもあげますよ。せっかく帰るとおっしゃってるんだ。道場破りは別の機会に…」
この五郎という師範には武道家としてのプライドは全くないようだった。
すると ミヤギがふざけて。
「せっかく人が役に立つことを教えてやろうとしてんのなあ。もったいねえなぁ。オメエら、早とちりもいいとこなんだけどなあ」
ガンカク「なんだ、なあ、なあ、なあって? その人を小馬鹿にしたような言い方は?」
五郎「いやいやすみません。あの、誰も早とちりなんかしてません。それにほかの生徒さんの練習もあるし……」
そのとき、いきなりフラッシュの閃光がまたたいた。
オバさんだった。彼女はスマホを手に。
「帰りたかったら.とっとと帰んなよ。でもワタシ、こう見えてもSNSが得意なんだ。
今夜さっそく書き込んでおこうっと。『噂の道場破り逃げ帰る』ってさ。この写真貼って」
またスマホのフラッシュがパパっと閃光を放った。
「今回は顔も写って丁度いいわ。いい宣伝になるだろうな.この道場の」
このおばさんのSNS宣言は、帰ろうとしていた3人の足を止めるには十分だった。
ジオン「なんて言ったのあんた? オレたちが逃げ帰る?」
睨みつけるジオンたち。
「だって帰るって言ったのはあんたたちだろう?」

ニヤリとそう返すオバさん。ミヤギもミ匕もニタついている。
五郎はそんな6人の間をウロウロしながら
「だから駄目だって言ったじゃないですか。僕は嫌いなんです。道場破りなんて」
ジオンは頭にきた。何ていらつく男だ。
「邪魔だ!ヘタレの出る幕じゃねぇ、どけ!」
いきなり五郎の胸をドンと突き飛ばした。
「うわあ!」
五郎は何も反撃せず尻もちを着いた。
しかし、
倒れたのは五郎だけではなかった。ジオンがなぜか勢い余ってタタラを踏んで転びかけたのだ。しかも突き飛ばした五郎と同じ方向に。
しかし、それはありえないハズなのだ。だって、人を突き飛ばせば、必ず反作用で突き飛ばした側が力を受ける。倒れるとすれば、反対方向であるはずなのだ。
しかし、テッキたちは気づかなかった。
テッキ「何だよ?ジオンらしくもない。こいつが何か仕掛けたのか?」
ジオン「いやちょっとつまずいただけだよ」
そういうジオンの表情はさっきとは打って変わっていた。彼女は気づいていたのだ。
ガンカク「ジオン、大丈夫かよ?あのゴリラみたいに肋骨折られてなけりゃいいけど」
ガンカクは冗談のつもりで、そういったのだが、ジオンは反応しなかった。
その時、ジオンはこう考えていたのだ。
「(わたしがあいつを突き飛ばし、あの男はぶっ飛んだ。なのに、あのときわたしの手には何の感触もなかった。まるで幽霊を突き飛ばしたみたいだった。だからわたしは勢い余って転びかけたんだ。あの男と同じ方向に…これっていったい?)」
※ジオンは、話すときはいつも乱暴な男言葉だが。胸の中は、当たり前だが女心を宿していた。※
もちろんガンカクもテッキもジオンのそんな心の中の思いは全く気づかなかった。
テッキはパンパンと手を叩いて道場生たちに向かって。
「さあ今から道場破りの始まりだ。関係ないやつは怪我しないうちに出ていくんだな。今夜の練習はおしまいだ」
ガンカク「おしまいなのは今夜だけじゃないかもな。ことによっちゃあこの道場、永久におしまいかもだぜ」

ーーーーーーーーーーーーー本文終わりーーーーーーーーーーーー

第10話 「寸止め」へつづく


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