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性的同意年齢について僕が思うこと

はじめに
今回のテーマは性的同意年齢について。
日本では立憲民主の方の発言が発端となり、最近話題になっていますね。

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https://news.yahoo.co.jp/articles/54f219d2443d6243e4358bb7cabe81bd14f8a644
ただ、昔から法学やジェンダー系の世界ではメジャーな議論ではあって、社会学者の澁谷知美氏が議論に挙げていたのが2007年、2017年に110年ぶりの刑法改正が行われた際にも議論が加熱していました。さらに、映画『SNS-少女たちの10日間-』が先日公開され、児童に対する性被害の実態がよりリアリティのある形で表現されるようになってきました。僕自身、この映画を見初めて10分ほどであまりの生々しさに劇場を出ようかと思ったくらいです。それだけリアルに描かれています。被害者が抱いた感情は僕がその時感じたものとは比べ物にならない者だと思うと、辛くて仕方がありません。
今回は本映画を観た勢いそのままに、書き綴っていきます。感情ベースな部分も多少あるかと思います。できるだけ減らしていきますが、ご了承ください。

注意
以下では初めに、関連条文の確認、世界の刑法事情についても触れています。性的同意年齢についての法(刑法176条以下)についてある程度ご存知の方は「改めて条文を確認してみる」は飛ばしていただいて、意見だけつまみ食いできればそれでいいという方(意見を見ていただけてるだけでありがたいです)は、「私の意見」から読んでください。

1.改めて条文を確認してみる

性的同意年齢が絡む法律として、もっとも重要なものが刑法です。

・刑法176条(強制わいせつ罪)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
・刑法177条(強制性交等罪)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。に対し、性交等をした者も、同様とする。

特に重要な刑法176条と177条をここでは挙げました。他にも、この二つを含む刑法の第二編第22章「わいせつ、強制性交等及び重婚の罪」はこの議論を進める上で非常に重要なものなので、確認していただければと思います(e-Govなどで確認できます)。

二つを簡単に要約すると、

①13歳以上の者に対し、「暴行・脅迫」を用いて、性行・わいせつな行為をする
②13歳未満の者に対し、            性行・わいせつな行為をする
ことを禁止する。

ここで注意していただきたいのが、条文における「暴行又は脅迫」は一般的な解釈とは多少異なるということです。我々が「暴行」と聞くと、殴る蹴るといった行為を指すように思います。ただ、それだけではカバーしきれない行為が多くあり、この一般的な解釈では拾い切れない悪質な行為が違法ではなくなってしまいます。
そこで、強制性交等罪の暴行又は脅迫の定義を、

「被害者の反抗を著しく困難にする程度のもの」

として、行為の力が強く反抗ができない場合(殴る蹴るなど)だけでなく、行為が瞬間で行われた場合も暴行脅迫と認定できるようにしたのです。

13歳未満の者に対する扱いについても書かれていますが、13歳未満の者に対しては一切の理由を抜きにして、性行為、わいせつな行為をしてはならないと記されています。

以上の二つの裏を考えてみましょう。

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つまり、13歳以上の者に対しては、「暴行・脅迫」を用いない場合の性行為やわいせつな行為については、法律上罰することができないことになります。
これが、いわゆる「性的同意年齢」の法的根拠であるわけです。もしかしたら、性行同意年齢を規定する法律が存在すると思っていたかもしれませんが、それを明言した法律はなく、実際には刑法の言い換えがそれを指し示しているのです。

ただ、このままでは13歳以上であれば同意があれば性行為ができてしまうことになってしまいます。そこで登場するのが児童福祉法です。


児童福祉法34条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫行をさせる行為
(児童福祉法4条 …児童とは、満十八歳に満たない者…)

と記載されており、18歳未満との性行為を禁止しています。
また、各自治体の条例でも、18歳未満との性行為を禁止しています。


茨城県青少年の健全育成等に関する条例第35条(みだらな性行為等の禁止)
何人も,青少年に対し,みだらな性行為又はわいせつ行為をしてはならない。 
2 何人も,青少年にわいせつ行為をさせてはならない。
3 何人も,青少年に第1項の行為を教え,又は見せてはならない。
(同13条 青少年:18歳に達するまでの者(配偶者のある女子を除く。))

ただし、刑法という上位法での規定がなされていないことから、「刑法レベルで年齢を引き上げることが必要だ」という議論が今、持ち上がっているわけです。

2.じゃあ、世界的にはどうなのか

アメリカでは子供を一人で留守番させてはならなかったり、学校への送り迎えが義務付けられているところもあるぐらい、子供の安全に対する意識は高いことが伺えます。

世界の性的同意年齢を見てみると、

13歳=日本、韓国
14歳=ドイツ、台湾
15歳=フランス、スウェーデン
16歳=カナダ、イギリス、フィンランド

スウェーデンやイギリス、カナダなどが「暴行・脅迫」がなくてもレイプを認めています。また、日本では法解釈によって「不意打ち」を罰していますが、それについて明記している国も存在します。

また、カナダには興味深い条文があり、

刑法第150.1条第2項
12歳又は13歳の者は、年上のパートナーとの年齢差が2歳未満で、信頼、権限又は依存の関係がなく、又は、他の若者の搾取の関係がない限り、性的行為に同意することができる。
刑法第150.1条第2.1項
 また、14歳又は15歳の者は、年上のパートナーとの年齢差が5歳未満で、信頼、権限又は依存の関係がなく、又は、の若者の搾取の関係がない限り、性的行為に同意することができる。

とし、年少者についても年齢が近い場合には性的行為に同意することができることを明文化しています。

3.私の意見(前提知識のある方はここからで大丈夫)

こっからが僕の意見です。大きく分けて二つです。

①性的同意を13歳ですることはできない
②いくつならいいのか(13歳,15歳,18歳,20歳?)

3-①13歳という年齢が同意年齢として正しいかどうか

正しくないと思います。
13歳が同意年齢と策定されたのが1世紀以上前。理由も、女性は12-13歳で初潮を迎え、結婚の際の性行為(初夜)が法律上可能にするように、というネガティブな理由から策定されています。それが、令和の世にまで引き継がれているわけです。
1世紀以上も前となると、家父長制があり、「家」が重視される、そんな時代です。
また、刑法が施行された年の結婚可能年齢は男子17歳、女子15歳でした。それも1871年の改正で今まで女性が13歳で結婚を許されていたものから15歳へと引き上げられたのです。そこから30年ほどで社会全体がそれを受け入れられるわけもなく、具体的に議論のなされるまま、性的同意年齢が13歳で決定してしまったのです。

現在、「50歳が14歳と真剣に付き合うこともあるじゃないか」「20歳が12歳と…」などと本気で言っていらっしゃるらしい(にわかに信じがたい)ですが、そうした個人的な感想ではなく、法律(刑法、民法)が成立した当時の背景を考えて、今と結婚観やジェンダー意識が全く違うことを認識した上で、議論を進めていただきたいなあと思っています。

女性を基準にここまで話してきましたが、現在の性的同意年齢の策定理由が女性の初潮、結婚と言うものが理由であったため、中心に据えて話してしまいました。もちろん男性についても同様のことが言えて、13歳の自分を振り返ってみると、性教育もまともに受けていない、子供がどうやってできるのかも知らない、そんな状況で自分より一回りも大きい大人が「大丈夫、心配しなくても」って言ってきて、正常な判断を下すことができるとは思えません。

なんとなく分かってもらえると思うのですが、中学校の時といえば「〜やった?」を「〜ヤった?」って言うことで笑い合い、陰茎を砂で象る事で笑い合い、そんな下ネタ?で笑い合っていたような気がします。ただ、その程度の知識しかないような中学生に性行為をするか否かを自分の判断で下すことはできないと思います。
個人的な感想ではありますが、高校時代ですらその決断を下すことは躊躇しましたし、知識が身についてきたからこそ「まだ怖い」と思えて、とどまっていられました。日本の性教育が問題だということも確かです。それは以前、書いた文章があるのでそれを見てもらえればと思います。

ただ、日本の性教育がすぐに変わることを期待して同意年齢をそのままにしておくのは、議論を先延ばしにしているだけになるので、全くおすすめではありません。政治家さんの「50歳と14歳の恋愛だってあっていいじゃないか」とかそういう個人的な意見ではなく、刑法が施行された時と今との結婚に対する価値観やジェンダー意識の違い、18歳が成人となった理由や監護者わいせつ及び監護者性交等罪が新設されたのは何故か、といった実際に法の世界に起こる事案を主軸においた議論がなされるべきだと僕は考えます。
このまま、僕はこう思います、あなたはどう思いますか?っていう議論を続けているようでは、Aに賛成の人はBに賛成の人を批判し、批判されて、炎上し、謝罪して撤回してを繰り返すだけの意味のない議論が繰り返されるだけです。そんなしょうもないこといつまでも続けて、性暴力や児童の性被害が増え続け、根本的な解決がなされないままでは事態は解決しません。
感情ベースの議論がすべて悪いというわけではないですが、もう少し実データを用いた説得力のある議論をして欲しいなと切に願っています。中高生に取った性に関する知識の浸透度合いを測るアンケートや、専門家の知見、他の法案の年齢制限を策定した理由などを引用することで、今の13歳に性的同意が可能か否かを判断していただきたいと思います。

3-②それでは、何歳ならいいのか

15歳---中学卒業、義務教育終了
16歳---女性の結婚可能年齢(民法)
18歳---男性の結婚可能年齢、成人(2022年-)
20歳---成人(-2022)

日本の区切りとしては、この4つが挙げられる。
一般的には結婚には性行為が伴う。この前提がなければ、今現在の性的同意年齢が13歳であることを証明する大事なものが一つなくなることになる。
もちろん、性行為が全てではありませんし、性行為をしないカップルがおかしいと言っているわけではありません。それももちろん愛の形です。ただ、この前提を軸にして今の刑法が成り立っていることは否定できません。

結婚に性行為が伴うことを前提とするならば、女性が結婚できる16歳、または婚前交渉の可能性も鑑みて15歳とするのが良いだろう。しかし、これは精神的に性的同意が可能であることを示しているわけではなく、あくまで結婚を前提として、その結婚を法律上成り立たせるために定められたネガティブな理由による性的同意年齢の策定であることは避けられません。

それでは結婚という前提はなしに、性的同意が可能になるのはいつからか。これは子供の体の観点からではなく、子供の心の観点から捉えるべきだ。一つは教育による知識の獲得。もう一つは、その知識の理解である。ただ知識を獲得しただけでは、YESかNOかの分別まではつかない。その知識を得た上で、自分で納得し理解することが重要である。その行為は自分の成長にとって必要なのか否か、今するべき行為なのか否かを選択できる力を身につけてこそ、性的同意が実現すると考える。
現在の日本の教育では、高校卒業程度が以上の条件を満たすと思われる。
なので、僕としては18歳が性行同意年齢としては適当なのかと思います。

ただ、ここで一つ考えておくべきなのが、現在の日本の高校進学率です。現在の日本の高校進学率は98.8%と言われています。ただ、1950年には進学率が50%を切っています。今の大学進学率が50%前後であることと比較すると、1950年の高校進学と現在の大学進学が同程度のものと捉えられていることがわかるでしょう。
現在の女性の結婚可能年齢が16歳で、それは高校生に当たる年齢です。すると、16歳で結婚しようとする女性のほとんどは高校に通っていないことになります。
刑法が成立した頃の教育を考えれば、女性の高校進学率は1950年の50%をはるかに下回っていることが容易に予想されます。そうした社会であれば、16歳で結婚をすることになんら疑問は生まれません。しかし、現在の高校進学率が98%を超えていることから考えれば、16歳で結婚する者が特異値であることがわかる。すると、私が先程提案した、高校までの性教育を前提とし、18歳を性的同意年齢とする理論が破綻してしまいます。
ならば、16歳にしてしまえばいいのか。ただ、それにはポジティブな理由が存在せず、あまり肯定したくないのも事実です。

ただ、高卒以前に結婚した人は、結婚してすぐに出産しているケースが多いです。興味深いデータを集められたので、貼っておきます。

データ1:15歳から18歳の間に結婚した人の子供を産んだ人数

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データ2:15歳から18歳の間に結婚した人の出産までの年数

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データ1から、15歳から18歳の間に結婚した47人のうち45人(95.7%)が出産をしているということがわかります。データ2では、先程の45人結婚から出産までの年数を出したものです。一年以内に出産(デキ婚)は27人(60%)、3年以内に出産は35人(77.7%)と、結婚してすぐに子供を産むケースが非常に多いことがわかります。

4.おわりに

僕の答えは、

性的同意年齢は16歳にするべき。
理由としては、成立の結婚観との乖離が大きいこと、性教育の不足、民法の結婚要件との帳尻を合わせること、などが挙げられる。
18歳や20歳するべきではない理由については、15歳から18歳の間に結婚した女性の出産率のデータから結婚と性行為の結びつきが強すぎることや、高校卒業以降性教育を受ける場は外的には用意されておらず、18歳以降に性的同意年齢を設定することに意味を感じられない、などが挙げられる。

少なくとも、13歳に性行為をするかの判断を下す能力はないと思っています。今の政治家さん達がどんな既得権益を守るために、性的同意年齢が13歳で問題ないと言ってるのかは神のみぞ知るって感じですが。
正直僕の中でも答えは出ていません。何歳が正しいのか。しかし、多くのデータを探る中で、どれだけ今の議論がうわべだけなのかはすごく思い知ったような気がします。
この文章を見て、「政治家がなんか言ってやがらあ!私の方が知っとるわい!」っていう視点を持っていただければ、ちょっと嬉しいなあって思います。
あと、こんな視点あるんだあって少しでも思ってもらえると嬉しいです。
最後まで見ていただいてありがとうございます。

5.参考文献

・澁谷知美「旧刑法・現刑法の強姦罪・強制猥褻罪の成立過程――とくに性交合意年齢に注目して」
・国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ「10か調査研究   性犯罪に対する処罰 世界ではどうなっているの?〜誰もが踏みにじられない社会のために〜」
・文部科学省「数字で見る高等学校」
・国立社会保障・人口問題研究所「現代日本の結婚と出産」

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SORA 宙
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