見出し画像

古道具を楽しむ #2 文机


骨董・古道具の楽しみ方の1つ"見立て"

見定める、の意味ではない。

「ある目的において、他のモノだとなぞらえる」ということ。

骨董の楽しみ方の中ではポピュラーな”見立て”という手法。
それは"今の生活に取り入れた場合に疲れない楽しみ方"でもある。


当店で扱うモノは最低でも50年ほどは遡る。
その頃の本来の使い方…
それを採用しようと考えても、当然発展した現代の日本人の生活には則していない。

古いモノを楽しむ見立て方と、見立てを行う際の留意点などを商品に併せてお教えしたい。

文机-ふみづくえ-

寺子屋机なんて呼ばれたりもする
近代に即した言葉で言えば勉強机が正しいだろう


当店でも常にいくつか取り揃えがある。
民芸と呼ばれるジャンルの中では比較的メジャーな商品群だ。

これらはすべて明治頃のもの
古いモノで江戸・時代の浅い場合は昭和初期頃までの文机を当店では随時紹介している


本来の使い方は「正座で机に向かい机の上で書き物(勉強)を行う」ためのもの、である。
この頃の書き物というのは毛筆だ。
鉛筆はもちろん、国内では万年筆だってまだ発明されていない。

奥行きは300mmまでのサイズがほとんど。
”現代においての書道”に使える寸法でもない。
(半紙がぎりぎりおけるか、場合によってははみ出る。)

そのような趣味がないのであれば、無理に「昔の使い方に即して使用しなければ!」と強迫観念に縛られる必要はない。
存分に"枯れた雰囲気の心地よく、背の低いちょっとしたローボード"程度にがしがし使って欲しい。

例えば枯れた木味を生かして
民芸なコレクションアイテムを展示する台・花台として




「本来こうだからこう使っちゃダメ」
なんて言うのは野暮だ。
ぜひ思いおもいに見立てて欲しい。

※その見立て方があまりに間違っていて、破損や怪我の危険がある場合はお教えします。
当記事では"注意点"にてまとめてお伝えします。

↓現在の店頭在庫の中で一番お気に入り↓

ヘッダーにも利用したもの。
黒々とした木の質感×無骨に厚い天板がたまらないのよ。


文机の時代背景


時代背景を考えてみよう。

明治頃の日本。識字率はかなり低い。

男子で5割・女子で3割。
ただこれは江戸(東京)の話だ、我々が住んでいる東北ではもっと低かった。
数百人規模の村の識字率なら数%、というのもザラだ。


※余談、この手の統計ではよく「武士階級」が引き合いに出される。
「日本の識字率は高い、なぜなら江戸時代の武士はほぼ100%!」なんていう文献も存在するが、彼らは一般市民ではなく超上流階級だ。
全く参考にならない。


前回取り上げた"燭台"と併せて夜な夜な勉学に励む者もいただろう



現代人が当たり前に会得している、識字。
文机は、文字の勉強そのものが余裕がある人の選択肢だった時代の"識字への憧れと意思"その象徴でもある。


"なにかに見立てて現代の生活に即した用途で使用する"
それは一向に構わない。
前述の通り、僕も是正している。
ただ「そんな背景があって、僕の手元にやってきたんだナァ」と想いを馳せることもできれば忘れないで欲しい。

↓こちらは欅製の文机↓

やつれた質感が使い込まれた年月を表すよう。

見立ての際の注意点


"よくわからない机状のモノ"
ではなく、時代背景とそのモノが「どのような目的のために使われていたモノか」がわかればやってはいけないこともわかる。

当店で質問の多い「このように利用しても大丈夫ですか?」について少し回答を列挙しよう。

「玄能などを利用した木工作業」
→ちょっとした作業なら耐えられるが、そこまでの強度はないので天面へ荷重のかかる作業はNGだ。

NGといいながらなんかステキだったのでワンショット


「鉛筆・ボールペンを使用した書きもの」
→質素な造りゆえ天面はでこぼこ。また、製材処理も現代に比べ適当なので下敷きを利用しよう。


もちろん列挙していない行為の中でもやってはいけないこと(耐えられないこと)はあるが、「大丈夫そう」とおもうコトなら大抵大丈夫。

座椅子で生活しているから「ソファにおけるサイドテーブル」のように使用したいというお客様がいらっしゃった


いくつか重ねて一段ずつ表情の違う陳列棚として…という方も。

お客様とお話しして"そういう楽しみ方があったのね"
と気付かされることも多い



それらも一興。楽しみ方にルールはない。

皆様それぞれの"見立てライフ"を。


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,014件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?