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山の音

あらすじ:尾形家の嫁菊子(原節子)は義父の信吾(山村聡)にかわいがられ、幸福な生活を送っていたが、夫の修一(上原謙)は遅くまで家に帰ってこず、女の影がちらついていた。そんな中、夫と折り合いの悪い修一の妹房子が実家を飛び出して転がり込んでくる。信吾は実の娘の房子よりも菊子にやさしく振舞って房子の反感を買う… 

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今回の成瀬巳喜男監督作品は、二世帯家族の群像劇である。原節子が演じるのは、夫に浮気されていることに気づきながら気づかぬ振りをする嫁、菊子。夫は、外に愛人を作るダメ亭主。そんな息子に愚痴一つこぼさない嫁を気遣う義父の嫁に対する想いは、夫に浮気されている嫁を気遣う以上のものである。その義父の想いは、嫁菊子と娘房子の対比、そして義父の妻と嫁菊子の対比によってわかる。そして、義父と嫁の見つめ合う場面で二人の心情の機微が表されている(鼻血を出した嫁を介抱する義父との絡み合う視線は淫靡)。 又、夫が愛人を作る理由は、作品内では語られてはいないが、菊子と義父の親密な関係によるものである。菊子は、夫に自分の心情を吐露できず、義父に依存しているのがわかる。  そして、菊子が最後に決断した行動は、当時の「男は仕事、女は家庭」という保守的な価値観を批判するものである。成瀬監督作品は、当時の日本の影を照らし出す光であると思う。

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