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ノマドランド

あらすじ:リーマンショック後、企業の倒産とともになくなったネバダ州の企業城下町エンパイア。ここに暮らしていた60代の女性ファーンは長年住み慣れた家を失ってしまう。彼女は、キャンピングカーに最低限の生活必需品を積み込み車上生活『現代のノマド』として生活をはじめる。

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今作品は今のアメリカを映す鏡だ。主人公であるファーンが住んでいたネヴァダ州エンパイアは米国石膏社(USG)の古典的な企業城下町だった。サブプライムローンの崩壊によりコストを削減し、効率の悪い事業を閉鎖。エンパイアはゴーストタウンと化す。

アメリカにはエンパイアのような企業城下町が点在している。その町から企業が撤退すれば、ゴーストタウンと化し市民は放り出されてしまう。今作品は、主人公ファーンが交流するノマドを通して経済大国アメリカの貧困を映し出してゆく。『ノマドランド』が素晴らしいのは、夫を亡くし、職を失くしたファーンがノマドの人々と自然によって癒され、生かされ、再生してゆく姿を丁寧に描いているところだ。

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彼女の心理描写の変遷に観る側の心も癒されていく不思議な感覚。これは、イタリアの代表的作曲家ルドヴィコ・エイナウディの奏でる音楽の効果が大きい。

「ファーンの進化の核心は自然と共生する素晴らしさを知ったことにあります。ワゴン車で暮らし始めたファーンは、自然との触れ合いをどんどん深めていきます。自然の美しさ、厳しさに包まれ、こころを満たし、癒す力を浴びていきます」と明かすクロエ・ジャオ監督は、ファーンの感情に寄り添う自然に触発された音楽を探していたところ、エイナウディが2018年にイタリアのアルプスを毎日同じルートを歩きながら、変わる陽ざし、気温、野生のいきもの、天候状態などを乗り越えながら、体験した感情の揺れや、刺激によって開かれていく自分のこころを音楽に投影したというアルバム『Seven Days Walking』を発見。あまりにもファーンとマッチしているということから、そのままその楽曲を本編で使わせてもらえないかとエイナウディにオファーしたと明かしている。

今作品の予告を初めて映画館で観た時、嗚咽するほど泣いてしまった私。一つあいた隣の席に座っていた見知らぬ中年男性は、私の嗚咽する姿をみて驚いたに違いない💦


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