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セカンドキャリアでは、悩める人妻を救いたい

「あなたは10年後のキャリアを考えていますか?」

そう問われて素直に「はい」と答えられる方は多くはないのではないか。目の前の仕事で精一杯、10年後のことなんてとてもとても。

私もいまのところ将来の展望などまったく抱いていないが、強いて言うならば「性欲を持て余した人妻を救うことができるキャリアを実現したい」と考えている。

性欲を持て余し淫靡な悩みを秘めた人妻を救うことができない仕事は、ダメだ。私のセカンドキャリアにはなりえない。

私がそんな信念を持つに至ったのは、かつての転職活動での苦い思い出がきっかけだ。

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楽しげな「占いライター」求人に飛びつく

当時、そこそこの準ブラック企業で働いていた私は、「なんとなく文章書くの好きだしライターとかなってみたいな」というふんわりマインドで転職活動を開始した。

転職サイトで「ライター」を検索すると、いろいろな企業が募集を行っている。特に目を引いたのが、「占いライター募集/占い師監修でコンテンツの文章を書く仕事です」という求人だった。

占い好きだし、占い師が監修してくれるならライティングも楽ちんなのでは?と考えた私は企業に応募。書類選考があったのだかどうか、早速都内某所のオフィスで面接と実技試験を行う手筈になった。

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小奇麗なビルの小奇麗なオフィスに通されると、十数名の先輩社員、もといライター達がPCの前でキーボードを叩いている。かなり忙しそうだ。「〇〇の件、返信します~」「うい~」といった簡潔なやり取りも聞こえてくる。雰囲気は悪くない。

特に別室に通されることもなく、オフィスの片隅で担当者との面接という名の面談がスタートした。キーボードを叩く音と、社員同士の会話が途切れなく聞こえてくる。会社の雰囲気を知れるのはいいけれど、機密情報とかないのかな?

そんな疑問をヨソに、面接官兼採用担当らしい、仕事がデキそうな女性社員が事業の説明をしてくれる。「私たちの仕事は、悩みを抱えたカスタマーからのご相談に対して、メールでやりとりをすることです」。

会社概要もろくに見ていなかった私は、勝手に雑誌の占いコーナーのような、星座占いのような記事を書くのだと思い込んでいた。そうか、相談メールに返事をする仕事なのか。

「メールは初回無料で、以降はポイント制になります。大体1通3000円くらいですね」。

えっ、メール1通で3000円もとるの?

3000円の占いメールを、素人が書く現実

「なので、できるだけメールを長引かせること。結論で終わるのではなく、問いかける形でやり取りをするのがポイントですね」。

スパっと結論を出さずにだらだらとメールのやり取りを続ければ、1通につき3000円が儲かるという仕組みだ。背後のオフィスではキーボードを叩く社員がせわしくなく働いている。彼らはみなメールの返事を書いているのだ。

おもむろに手を挙げた社員が宣言する。
「〇〇の件、メール返信担当します~」
「「お願いします~」」
そんなやりとりが繰り返され、カタカタと返信メールが書かれるうちに、誰かが3000円を払い、新たな相談メールが届いている。すごい商売だ・・・。

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しかし、メール内容を監修しているはずの「占い師」は見当たらない。先輩社員は、自分の判断でメールを打ち込んでいるように見える。

「実技試験として、例題の相談メールに返事を書いてみてください。こちらのPCを使ってくださいね」

言われるがままデスクトップPCの前に座ると、架空の相談メールが表示されていた。これに対して、3000円の価値がある返事を書かなければならない。

肝心の相談は、こんな内容だった。

「〇〇市で専業主婦をしています。子どもは三歳でとてもかわいく、旦那も優しいのでなんの不満もありません。ですが、ときどき自分の性欲が抑えられなくなりそうで悩んでいます。

自宅の2階ベランダで洗濯物を干していると、下校中の男子高校生の姿が見えます。そのたびに、若い男性に対してあられもない妄想をしてしまうのです。

家族は大切なので、間違いは犯したくありません。私はどこかおかしいのでしょうか?」

占い師に相談している場合じゃない。あなたを救うのは占いではなく適切な治療やセミナーだ。「まずは信頼できる医療機関に相談してみるのはいかがでしょうか?下記のURLが参考になるかと思います!」そんな返事を書きかけるが、これは占いメールの実技試験なのだ。

「占い師の監修」などここにはなかった。あったとしても、個別の相談に対して行われるものではないらしい。それでも私は、占いに救いを求める人妻に対し、占い師として返事をする必要があるのだ。

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「あなたのお悩み、非常によく分かりました。まず知っておいていただきたいのは、あなたが自分を責める必要はないということです。あなたの気持ちが抑えがたいほどに高まってしまうのは、それだけ生命力が高まり活力がある星の巡りになっていることの表れです。

自分の運命を知れば、気持ちをコントロールしていくことができるようになるはず。そのために、もっと詳しい情報を知る必要があります。これまでに気持ちの昂ぶりを感じたタイミングや時間帯に、関連性はありませんか? あなたのバイオグラフィを知ることで、感情を制御し、家族を大切にしていくことができるはずです」・・・。

私はそんな返信メールを書き、実技試験を終えた。架空の相談メールだと分かっていても、やはり心には重く、やりきれない思いが満ちていた。あのメールでは、性欲に悩む人妻を救えない・・・!

翌日、早速選考結果のメールが届いた。「すぐに内定を出したい」ということ、「実技試験が非常に優秀で、すぐに活躍できそうだとみんなで期待しています!」という、採用メールとしては非常に親しみを込めた文章がつづられており、転職活動中で一番高評価を得られたかもしれない。

私は、丁重に返信メールを書いた。
「夜勤勤務があって、体力的にきつそうなので辞退します」

その仕事は、性欲に悩む人妻を救えるのか

文章を褒められたのは嬉しかった。相手の求める正しい回答をできたことも自信につながった。けれど違う。あんな悩みを抱えた人妻からのメールに対して、のらりくらりとやり取りを引き伸ばす仕事は、私にはできないと思ったのだ(あと夜勤も)。

将来のセカンドキャリアなど、明確なビジョンはまるで考えていない。自分に適性がある仕事をするのなら、今でも占いライターは1つの選択肢なのかもしれない。けれど、私はあの溢れる性欲に悩む人妻に対して、正しい回答を持ち合わせていなかった。

もしも、今後のキャリアを選べるのなら、私は「溢れる性欲に悩む人妻を救うことできる」と胸張って言えるような、そんな人生を歩んでいきたい。苦い経験から、それだけは胸に刻み続けている。

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【この記事を書いた人】
NAME:こなごな
新卒で就活先なし・転職3回と華麗な(失敗の)経歴を持つライター。

「ITやモノづくりの世界を身近に感じてもらいたい」そんな思いでこのnoteを始めました。書き手は全員転職経験者。実体験にもとづくエピソードや、転職に役立つかもしれない小ネタ、気になるニュースなどをざっくばらんに更新していきます。気に入っていただけたら、ぜひサポートをお願いします!