見えない致命傷では死ねないから
覚えてる、
悲しかったこと 全部
忘れられない、全部
去年の傷
一昨年の傷
もっとずっと前の傷
子供だったころの傷も
大人になってからの傷も
そのときどきの
悲しいことがあった私の
たとえば25キロとか40キロとか
そのときどきの体重が
そのまま私にのしかかる
悲しいことから走り去りたいのに
足をとられて逃げられない
足がもつれて転んでしまう
そしてそのまま重みに沈む
窒息するように 溺死するように
浮き輪がふいにはずれたように
水のなかにするすると沈むように
もう地上にあがれない
陸地にはもうあがれない
ただ沈んでいく
死なないで
10歳の私も、15歳の私も、18歳の私も
みんな、みんな
死なないで
沈まないで
立ち上がって
溺れないで
見えない致命傷が
何度も 何度も
心をえぐる
心がえぐれる
心だけえぐれる
だって 見えない傷だから
身体は生きてるから
心は何度も死んでるのに
また生き返って
そしてまた殺されるから
でもお願い
死なないで
いっそ身体のほうを殺してやろうなんて
思わないで
私がほんとうは一番そう思っているから
もういっそ全部終わらせようって
思っている
身体を殺せば全部おわるから、もうそうしようって
私が一番思っている
それでも
やっぱり
死なないで
私の心に私は死んでほしくない
私の身体も、だから死んでほしくない
10歳の私も、15歳の私も、18歳の私も
もっとずっとそのあとの
ちゃんと大人になれた私も
みんな等しく
どうかどうか、死なないで
どうかどうか、死なないで
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