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【小説】どの顔もあの女

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自宅マンションで絞殺体として発見された、自称小説家の高梨真矢(33歳)。一体なぜ、誰に彼女は殺されたのか。真矢の恋人が遺された“資料”をもとに、真矢の過去を知る人々のもとを訪ね、… もっと読む
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2020年3月の記事一覧

クラブ経営者/YouTuber・柴崎花凛の証言 【小説】どの顔もあの女#7

 まーちゃんのこと、めちゃくちゃ悲しいです。2週間くらい前にうち来てご飯食べて行ったんですよ。だから、もうこの世にいないって、正直信じられない……。  うちがまーちゃんと出会ったのは仕事です。初めて書籍を出すのが決まったとき、ライターとして入ってくれたのがまーちゃんやったんです。1カ月半くらいかけて、2時間の取材を6回やって、うちが喋った内容を上手くまとめてくれて。  原稿もですけど、細かいニュアンスの違いを聞いてくれたり、少しでも気になることは疎かにせず確認したりっていう丁

大学時代の恋人・豪の証言 【小説】どの顔もあの女#6

 もちろん覚えていますよ、真矢のことは。大学1年のときに出会って、付き合ってたんです。といっても、プラトニックな関係でした。  出会いはサークルで合同稽古をしたときです。僕と真矢は違う大学でしたが、お互い空手サークルに入っていました。同じ学年ですし、自然と話をするようになりますよね。連絡先を交換し、ときどき向こうからごはんや映画の誘いが来るようになりました。  ただ、僕は当時、恋愛とか女性にあまり興味がなかったんです。大学生活に夢中でした。だから、真矢から遊びに誘われても、あ

スナック優美・ママの証言 【小説】どの顔もあの女#5

 真矢ちゃんの話を聞きに来られたんですよね。営業前で忙しいから手短に頼みますよ。真矢ちゃん……もちろん覚えてますよ。12〜13年前のことだけど忘れませんよ。だってあの子、不義理な辞め方したんだから。  うちのお客さまを4人くらい取っていったんですよ。いえ、あの子から直接聞いたわけじゃありません。辞める前は「大学が忙しくなったから辞めさせてください」って。でも、しばらくしたら、真矢ちゃんを気に入っていたお客さまが、うちに来なくなったんですよ。みんな、真矢ちゃんと仲が良かったお客

元夫・伊原哲哉の証言 【小説】どの顔もあの女#4

 高梨さんは僕の元妻です。メールでご連絡いただいたときは、詳しくはお会いしてからとのことでしたが、真矢がどうかしたんですか? えっ、殺された? ……ちょっと言葉が出ないです。  あなたは今の彼氏さん、ですよね。事件解決に向けて、真矢のことを調べている、と。わかりました。すべてお話しします。ただ、今の彼氏さんが聞くと、不快な気持ちになる話もあると思います。それもお話しして大丈夫ですか? わかりました。  真矢と出会ったのは仕事です。僕が抱えていた大型案件で、仕事を発注していた

幕下力士・緋村の証言 【小説】どの顔もあの女#3

 最近真矢さんにLINEしても、ずっと既読にならなくて。最後に送ったのは1週間くらい前です。普段、半日くらい既読つかないときもあるんですけど、1日つかないことはないです。だから、どうしたのかなと思ってました。でも、まさか死んじゃったなんて。信じたくないですよ。  真矢さんと知り合ったのは、後援者との飲み会です。居酒屋のオーナーが僕たちの部屋を応援してくれていて、その関係で本場所後に打ち上げ会、みたいなのをするんです。両国でやるときだけなので、1月と5月と9月の年3回ですね。

中学同級生・高橋由季の証言 【小説】どの顔もあの女#2

 高梨真矢さん? ちょっと誰かわからないです。すみません。ああ、卒業アルバムを見ればわかるかもしれません。ちょっと見せてください。あ、真矢ちゃんですね。  中学で一緒になって、2年間同じクラスでした。親しくはなかったです。真矢ちゃんは地味な子たちのグループにいたかな。私ですか? 私は真矢ちゃんたちのグループに比べると、派手な子たちのグループにいました。  グループが違うと交わることって、ほとんどないですよね。だから、真矢ちゃんともあまり話した記憶はないです。ただ、中3のとき、

経営者・西谷の証言 【小説】どの顔もあの女#1

 高梨さんと会ったのはちょうど3回ですね。1回目は仕事で、2回目はふたりで食事、3回目は……だいたいわかるでしょ。初めて会ったのは4年くらい前かな。僕のインタビューをしに来てくれて。うちの会社が出した新サービスの概要と狙いを聞きたいと、媒体の編集者と一緒にね。そのときはなんとも思わなかったですけど、高梨さんが書いてくれた原稿が、僕的にはすごい良くて感動しかなかったんですよね。  僕は仕事柄、取材を受ける機会も多いんですけど、記者が全員優秀とは限らないでしょ。僕が自分で書いた