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経営者・西谷の証言 【小説】どの顔もあの女#1

 高梨さんと会ったのはちょうど3回ですね。1回目は仕事で、2回目はふたりで食事、3回目は……だいたいわかるでしょ。初めて会ったのは4年くらい前かな。僕のインタビューをしに来てくれて。うちの会社が出した新サービスの概要と狙いを聞きたいと、媒体の編集者と一緒にね。そのときはなんとも思わなかったですけど、高梨さんが書いてくれた原稿が、僕的にはすごい良くて感動しかなかったんですよね。

 僕は仕事柄、取材を受ける機会も多いんですけど、記者が全員優秀とは限らないでしょ。僕が自分で書いたほうが早かったんじゃない? っていうくらい、ほぼ書き直しに近いくらい朱を入れることもある。そういう下手な記者の取材は二度と受けたくない、って思うよね。でも、高梨さんは違った。こちらの意図を汲み取った原稿を書けてた。僕が喋った言葉をいいように意訳してるんだけど、それが飛躍しすぎてない、っていうのかな。もちろん専門的な領域ですから、多少朱入れはしましたけど、彼女の仕事ぶりはいいなと思って。
 2回目に再会した理由、ですか? 彼女とはそれ以来、SNSでつながってたんですけど、フェイスブックに「恋人と別れた」みたいなことを書き込んでた時期があったんです。だいぶ前の話ですよ。半年くらい前かな。なんか悲しそうだったから、そこにコメントしたら「話聞いてください」って返ってきて。だから個別にメッセージして、食事に行くことになったんです。

 4年ぶりに会っても、久しぶりっていう感じはなかったですね。SNSでいつもアイコン見てるからなんですかね。その日は硬い話はあまりしなくて、恋愛とか趣味の話を多くしてたかな。僕が「今別居中で」って話したら、妙に喜んでたのは記憶にある。「でも、僕は彼氏にはなれないね」って言ったら、「うーん。既婚でも別居中なら(付き合うの)アリなんじゃないですか」とか言われて、この女誘惑してる? って思ったよね。
 1軒目のイタリアンを出て、この後どうするか聞くと、もう少し飲みたいって言うんです。僕がボトルキープしてるホテルのバーに行きました。けっこう期待しちゃいますよね。でも、その日は彼女帰るっていうんで、終電くらいに解散したんですけど。ただ、翌日も会う約束をしました。え? どこまでしたか? そんなことまで話さないといけないんですか? キスまではしました、はい。

 翌日は水道橋の東急ドームホテルで会いました。彼女の仕事が終わるのが18時とかで、18時半くらいに部屋に来て。しばらく話していましたが、順番にシャワーを浴びて、すぐセックスしました。
 正直、4年ぶりに再会して、その翌日にセックスするなんてうまくいきすぎだなとは思いました。美人局じゃないかな、って。え、その先も具体的に話さないとダメですか? まいったな、勘弁してよ。
 えーっと、最初はおとなしめだったけど、途中からは自分から腰を振ったり、騎乗位になったり、積極的に動いてました。でも、イカないんです。僕だけイクの悪いじゃないですか。なんとかイカせたいと思って、指であそこをいじっていると「おかしくなっちゃう。やめてー!」と叫んで、ベッドの上で僕の手を外して、手全体を極めてきたんです。どうした!? と思いましたよ。行為中に関節技を極められたのは初めてでした。
 なんとなく気まずい雰囲気になって、順番にシャワーを浴びたら、彼女、服を着始めて「今日は帰ります。私の技術不足ですみません」って帰っちゃったんです。一緒に泊まるつもりだったんですけどね……。
 見た目は派手じゃないし、普通っぽいじゃないですか。僕は嫌いじゃなかった。体はきれいだったし、何よりエロかった。だから関係が継続すればいいなと思ったんですけど、それ以来、連絡してもつれない感じで。最近は連絡とってなかったですね。SNSをたまに見にいくくらいでした。

 でも、まさか殺されるなんて衝撃しかないですよ……。


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