ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が / いろたち 出版記念展示会
キアロスタミが遺した2冊の絵本
邦訳出版記念イベント
映画『友だちのうちはどこ?』など、子どもを取り巻く世界を丸ごと描いた作品で知られる映画監督のアッバス・キアロスタミ(1940-2016)。
この度、2022年10月4日にカノアから刊行される
「ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が」は、
キアロスタミ氏のデビュー作となる「パンと裏通り」を発表した1970年頃、およそ50年前のイランで、質の高い子どものための知育、文化的な環境をつくるために設立された児童青少年知育協会(カーヌーン)からの依頼で、詩壇の新しい潮流を牽引していた詩人のアフマディー氏と共に子どもたちのためにつくられた絵本です。
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ぼくは座って手紙を書いていた…
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兄さんは庭がすごく好きだったから、手紙を書き終えた時、ぼくは自分の名前の変わりに「庭」と書いた。
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陽の光で、手紙の中の庭という文字が黄色に変わっていた。「庭」は、秋色になっていた。
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冷たい風。空からは、葉っぱの雨が降っていた。黄色い葉っぱの雨が。
(「僕は話が…」より一部抜粋)
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「ぼく」を取り巻く、家族やともだち、季節のうつろい、庭の樹々やその影にも、すべてに人格があるかのように、対話し、関係し合い、溶け合いながら進む、この物語を読みながら、
自分が子どもの頃に感じていた虚実の一体となった世界を思い出し、懐かしく、静かに心に沁みて込み上げてくるものがありました。
郷愁というのは、住んでいた場所や風景に由来するだけでなく、ひとりひとりの心のなかに拡がっていたもうひとつの世界の方にも感じるものなのかもしれないと、改めて感じさせられた出来事でした。
記念碑的なこの本の出版から15年、1985年から現在に至るまで、アフマディー氏の子どもたちへと書かれた物語は、60冊にものぼるそうです。
声高なメッセージを語るのではなく、幻想的な世界へと読書をいざなうような、
あたかも、あちらの方が本当の世界だよ…と穏やかにささやくようにして紡がれる物語の数々はイランの児童文学界においても唯一無二の存在としてやさしい光を放ちます。
美しい訳で、この度日本の私たちにも読めるように形にしてくださった愛甲恵子さんが、本年の5月に、
「あなたはなぜ子どもたちのために物語を書き続けることができたのですか?」
と質問すると、アフマディー氏は間髪をいれずに、
「愛('eshq)」
と答えられたのだそうです。
10/9(日)の15時からは、翻訳者の愛甲さんと、
ペルシア文学、口承文芸、イラン映画とキアロスタミ作品についての研究をされている山本久美子先生をお招きして、関連資料などを見せていただきながら、お話しを伺う機会を頂くことが出来ました。
絵本と共に作られた映像作品「いろたち」も、パリのmk2からお借りして上映の予定です。
会場では『ぼくは話しが...』のパネル、
『いろたち』の校正紙や、今年5月にイランで行われたアフマディー氏へのインタビューの様子を含む関連写真、
キアロスタミやアフマディーの関連書籍や1970年代に児童青少年知育協会 (カーヌーン)で作られた貴重な絵本やレコードなども展示の予定です。
皆さまのご来場を心よりお待ちしております。
ぼくは話があるんだ、きみたち、
子どもたちだけが信じる話が
いろたち
出版記念展示会
2022.10.9 sun / 10.10 mon
11:00 -18:00
*10/9はトークイベントのため14時でクローズ
会場:いずるば
東京都大田区田園調布38-8
(東急多摩川線 沼部駅下車 徒歩5分)
入場料:500円
(来場者特典:オリジナルポストカード1枚)
*入り口でお履物を脱いで
ご入場いただきます。
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トークイベント
2022.10.9 sun.
14:30 open / 15:00 start
入場料:1,500円
(入場料含、イランのお茶菓子付き)
山本久美子先生
(聞き手・愛甲恵子(翻訳)
*
*トークイベントのお申込みは
info@salamx2.com
サラーム・サラームまでお名前
連絡先電話番号を明記のうえ
お申し込みください
企画:カノア / salam×2 / 音と光
アフマド=レザー・アフマディー
詩人。1940年、イラン南東部ケルマーン生まれ。7歳の時、一家でテヘランに移住する。ダーロルフォヌーンの高校課程終了後、62/63年に詩人としてのデビュー作「スケッチ」を上梓。詩壇の新潮流「新しき波」を生むきっかけとなったこの詩集は、当時の詩人や批評家から大きな注目を浴びた。創作活動の傍ら、児童青少年知育協会(カーヌーン)にてオーディオシリーズの製作や書籍の編集に携わる。2010年、国際アンデルセン賞作家賞のファイナリストに選出、これまでに7つの小説、10の脚本、50の詩集、60の児童書を著している。
アッバス・キアロスタミ
映画監督。1940年テヘラン生まれ。テヘラン大学美術学部で絵画やグラフィックデザインを専攻したのち、広告の世界に入る。70年、児童青少年知育協会(カーヌーン)の映画制作部門よりデビュー作となる短編映画「パンと裏通り」を発表。その後「友だちのうちはどこ?」「クローズ・アップ」「そして人生はつづく」などでその名が世界に知られる。「桜桃の味」でカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を受賞。2016年に療養先のパリにて死去。
山本 久美子 (PhD, SOAS)
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(表象文化論コース)博士課程中退。
ペルシアの叙事詩を研究するかたわら、アッバス・キアロスタミについて細々と書いたり、彼の詩集や映画講義を訳したりしている。
いつかモノグラフを書くのを夢みている。
愛甲 恵子
東京外国語大学大学院修士課程終了後、10ヶ月のイラン留学を経て、2004年より美術家のフジタユメカとともに「サラーム・サラーム」というユニット名で、イランの絵本やイラストレーターを紹介する展覧会などを開催している。
▽愛甲恵子さんのイランの絵本のお仕事はこちらにも掲載されています。
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