見出し画像

オススメ映画を紹介するよ! ちょっと気になったスペイン産ホラー編

いつもはジャンルでピックアップした映画を数本紹介するのですが、今回はふと気になってしまったスペイン産ホラー2本のみです。【ネタバレ】しますのでご注意ください。

エクリプス

日蝕を意味する「エクリプス」が邦題です。しかし原題は「Verónica(ベロニカ)」。主役の名前がタイトルになっています。

映画冒頭、とあるマンションに集まる救急車や警察。思わせぶりな字幕は、この映画が実際の事件を元にしていることを仄めかします。

場面は変わってある家庭の朝。ベロニカは女子高生です。小さな妹が2人、もっと小さな弟がいます。朝から弟がおねしょして洗濯したり、朝ごはんを用意したり。母親は夜遅くまでレストランを切り盛りしていて朝は起きてきません。写真の父親はどうやら亡くなっているようです。これから始まるホラー的展開の前の、平和な日常が描写されています、が。

実はここで提示されているのは、ベロニカが「ワンオペヤングケアラーJK」であること。これがこの物語の肝だと思います。

ベロニカは妹たちを連れて学校に行きます。先生がみんなシスターっぽいので、もとは修道院だった学校なのでしょうか。折しもその日は日蝕。他の生徒や先生が日蝕観察をしている時、ベロニカは友達と地下室でウィジャボート(コックリさん海外版)を始めます。目的は亡くなった父を呼び出すこと。ところが日蝕の影響か、ベロニカに邪悪な何かが取り憑いてしまいます。

この後の展開は細かく書きません。邪悪な何かはベロニカや妹弟を襲います。

前述したように、ベロニカは「ワンオペヤングケアラーJK」です。映画の中では積極的にそれを嫌がったり、文句を言ったりすることはありません。妹弟にも愛情を持って接します。それでも彼女の行動の裏には、「ワンオペヤングケアラーであるが故の悲しさとか、寂しさとか、義務感とかが垣間見られます。例えば・・・。

・コックリさんで父親を呼び出そうとする。
・疲れて寝ている母を思いやり起こさない。
・地下室で出会った盲目のシスターに「妹弟を守れ」と言われ、自分でオカルト雑誌を調べてお札を自作する。
・数少ない友達に固執する。

ベロニカの母親は決して悪い人ではないのですが、忙しさから長女のベロニカに頼りきりです。怪異が頻発し、助けを求められても空返事。そして、物語の中盤、娘との言い争いの中で、「ママはあなたしか頼る人がいないの」と言ってしまいます。ここまでひとりで家のこと、妹弟のことを見てきたベロニカの答えは、「私は私だけよ」

「私には頼れるのが私だけしかないない」という、彼女のどうしようもない状況を表す一言。正直、このやりとりが個人的に刺さってしまいました。ホラーという枠組みの中でも、監督が描きたかったのは「ワンオペヤングケアラー」のやり切れない悲哀なんだな、と感じました。

物語自体は悲劇的な結末を迎えます。可能性としては、①呼び寄せてしまったモノが怪異を引き起こした。②取り憑いたナニカがベロニカを操り弟や妹を攻撃した。③追い詰められたベロニカが精神不安定になり(初潮を迎えたことを示唆する場面も)、妹弟に危害を加えた。という可能性が挙げられます。ホラーとしては①②であり、この映画は②を採用しているようです。ですが実話ベースとして考えると、③として捉えられてしまうであろうことも予想できます。

因みに「スペインの警察が初めて心霊現象を認めた」というような映画の煽り文句ですが、「心霊現象を見たとする警察がその通り報告した」ということで、科学的に認めたものではないですよというのが律儀にわかる表現になっています。

本筋とは離れた部分で、おそらくベロニカの不安や恐れを表現したであろう興味深いシーンが気づいただけで3箇所ありました。唐突に挟まれるフワッとした感覚に、監督の拘りを感じました。

長々と書きましたが、ホラーとしては普通です。それよりも、ベロニカの心情にどっぷり寄り添って鑑賞してほしい作品です。


ブラックサン

まさかの続編です。というより前日譚です。
「エクリプス」に登場し、強烈な印象を残した盲目のシスター。悪を払うようにタバコの煙を吹きかける様は、比嘉琴子(by 澤村伊智)を彷彿とさせました。そんな「デス・シスター」誕生の物語です。

ストーリーは、もともと超能力があり、いろいろなものが視えていた少女が、迷いを持ちつつ修道院に入ります。身寄りのない子どもたちには教師として接し、ひと時の穏やかな時間も過ごしますが、案の定心霊現象的なナニカが起こり始めます。

「エクリプス」が「ワンオペヤングケアラー」を主題にしているように、この物語でも女性に対するある出来事が怪異の原因となっています。悲劇的な展開でもありますが、コチラは勧善懲悪な一面もありますのでちょっと安心して見てください。

日蝕の日の出来事であること、授業でほとんど同じ内容の講義が行われていること、おそらくこの修道院がベロニカの学校になることなど、共通点が散りばめられています。そしてラストには時代が流れ、ベロニカとシスター出会いのシーンも挿入されます。

「死霊館のシスター」を想起させる修道院を舞台として、映像の美しさは前作を上回っています。せっかくなので「エクリプス」とセットでご覧ください。



この記事が参加している募集

#映画感想文

67,333件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?