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荒井良二『はっぴーなっつ』

暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、延々と続くかと思われたこの夏の暑さもようやく和らいで
「風のおとにぞおどろかねぬる」ようになりました。
本書はこうした時期に紐解くのにぴったりな、季節の移り変わりをテーマにした絵本です。

著者の荒井良二さんは国内外で高い評価を得ている絵本作家。
2002年にスウェーデン政府が自国を代表する児童文学作家アストリッド・リンドグレーンを記念して設けられ、”絵本界のノーベル賞”ともいわれる「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞 」を日本人で唯一受賞しています。
他にもライブ・ペインティングや音楽活動(リンドグレーン記念文学賞の受賞式のときに、感謝の気持ちをオリジナルソングにして自らギターを演奏して披露しています。)など、絵本作家の枠にとどまらない活動を展開している方です。

本書は常に新しい試みに挑んでいる荒井さんならではの発想が光った本で、
見開きの左側は、マンガのようなコマ割リで描かれた黒い線画、右側がフルカラーの1枚絵となっている独特の構成となっています。

タイトルは、中学生のころから愛読していたという、チャーリー・ブラウンやスヌーピーでおなじみの『ピーナッツ』シリーズへのオマージュということですが、コマ割りの部分も、『ピーナッツ』シリーズを思わせるタッチになっているのが特徴。また、紙が日に焼けた跡など、わざと古い用紙に描かれたように見せているのもユニーク。

もっとも、『ピーナッツ』シリーズを知らなくても本書を楽しむのに支障はありません。
季節が移り変わることへの期待や、ついに季節が訪れたときの喜びを表現するのに、本書のこの構成が抜群の効果を発揮しているのです。

冒頭の「春」の部分を例にとってみると、まず最初のコマ割リの部分では、主人公の女の子が、
ベッドでまどろみながら「わたしのみみは、ときどきとおくへたびをするんだよ」と、風の音や、なにかを配達する音など、春を感じさせるさまざまな音を聞き取る様子が描かれます。
そして左のカラーの部分では、「わたしのみみはたびにでて いろんなおとをとどけてくれる・・・」と彼女の気持ちの高まりが描かれています。
これがその後2回繰り返され、いよいよ「春」が本格的に訪れた喜びを描いている場面では、見開きいっぱいに鮮やかな色彩がほとばしるのです。

「夏」も「秋」も同様の構成で、その緩急のつけ方が実に見事。クライマックスの見開きで
描かれる「夏」の光や「秋」の紅葉の美しさには高揚せずにはいられません。
そして「冬」の場面は音楽でいうとコーダのようになっていて、これまでと構成が変化するのですが、
また新たな「春」が巡ってくることを伝える終わり方もとても洒落ています。

読みながら、このような凝った構成や仕掛けが、作為的なあざとさを感じさせず、まるで音楽のような豊かなリズムと大きなうねりを全体にもたらしていることに感嘆しました。もちろん、可愛さとエネルギーを同時に感じさせる荒井さんの絵の力あってのことなのはいうまでもありません。

本書は、わたしたちは地球の大きなリズムの中で日常を過ごしていることを体感させてくれる素晴らしい絵本なのです。

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