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解剖研修日記⑩(⑨の続き)

こんにちは!滋賀・大阪ボイストレーナーの安田結衣です。
解剖研修5日目前半の日記は解剖研修の中での気づきについて書いていますが、最後は解剖研修を通しての感謝を綴りました。乱文ですがお付き合いください。

…そこで解剖の時間は終わり、KENを家族の元へ送るお別れの準備をした。
KENの身体は全ての臓器がとても素晴らしい状態で最後までいてくれた。脂肪や筋肉や骨の状態からの推測だが、きっと力持ちで物を運ぶ作業をよくしていたんだろう。KEN最後まで本当にお疲れ様。その他7体の御献体も安らかに眠れますように。

私達の学びのために自らの身体を提供する。その心が、意志が、私たちに深く献身の意味を刻ませてくれた。本当にありがとう。
そして精神的にも身体的にも普通ではない状態を乗り越えることできたのは、決して一人ではないと一緒に学ぶ仲間がいてくれたからである。
みんなそれぞれがありのままの自分を認め、メンバーを労り、自分なりのベストを尽くして御献体に敬意を持って向き合う。そんなエネルギーに満ち溢れた空間にいることが出来て本当に幸せだった。最後は涙が溢れて止まらなかった。

そんな感謝を今までどれほど伝えることが出来ていただろう。
解剖をしていく中で、人の身体は本当に奇跡の連続だということがわかる。
一日中何不自由なく生活ができて、歌が歌えて、美味しいご飯が食べられることはものすごく有り難いことなのだと感じた。だからこそメンバーへの感謝は自然とハグだったのだと思う。身体が触れることで皮膚が動く、皮膚が動くと身体を守る脂肪がどんどん身体を治癒していく、健康にいい食事をする、表情豊かに生きる、地に足をつける、身体を労ってあげる、自分の体と心の声に耳をすませる。そんなどれもが身体には大切だということが、感覚としてではなく極めてリアルな実感として感じた。命の終わりと出会っているはずなのに、この5日間は紛れもない生との接触だった。


最後にトム先生から名前を呼ばれ一人一人に修了証が与えられた。

トム先生の講義は毎回私に新しい気づきを与えてくれた。私たちの身体の可能性や解剖に向かうための精神的サポートまで。最初にトム先生からみんなに伝えられた「仕事だと思って解剖をしなさい。」「全員が解剖のメンバーという事を忘れないように」という言葉によって私たちの自主性や協力感が生まれたのだと思う。そしてアイデアにしがみつかない事や自分が見たものに自信を持つという考え方は、トム先生がアナトミートレインズをアイデアの一つとしていい意味で客観視しているという事だと思う。私たちボイストレーナーが声の名称ばかりに注目してしまっていることを恥じた。もっと身体で何が起こっているかという事に注目しないといけない。

トッド先生は喉の解剖をする人が少ない中、私たち音楽家のために第一頚椎〜第4頚椎までを取り外し、難しい背面からの喉頭・咽頭までの繋がりを解剖して見せてくれた。

どれだけ私たちのために配慮してくれたか計り知れない。本当に嬉しかった。ありがとう。解剖研修終了後写真を撮り、その後差し出してくれた握手は固くしっかりとしていた。ラボで話す時も一人一人の目をじっと見ながら話をしてくれていた。そのことがとても印象に残っている。私たちは確実に人間の真実を見てしまったのだ。それを世の中に伝える義務があると伝えてくれているようだった。

カオリさん・トラビスさん・通訳のマイコさんやカナさん・ローリー先生・メラニーさんと写真を撮り、帰路についた。

私の周りの大人は皆かっこいい生き方をしていると感じた。笑顔と発言がとても素晴らしい方ばかりだ。
そういう実感が持てる環境にいるとと将来に対して素直に希望が持てる。背筋が伸びていく。来年は私も少し近づいていられるように頑張ろう。


家に着き解剖メンバーと楽しい打ち上げも終わり、私の解剖研修が終わった。
その達成感と充実感からかその日は箍が緩むように眠りに落ちた。今まで受験などで無理やり起きていたことはあるが、眠いという感覚が消えたのは人生初めてだった。きっと自分の中の価値観がかなり変わったのだろう。生きて誰かのためになることを。自分に悔いがない方法を取ろう。そんな気持ちを強く強く持つようになった。

そんな昼も夜も無茶苦茶な生活をしてきた私にずっと寄り添ってくれた山本篤先生。

全く威圧感を感じさせない柔和でお茶目なお人柄だけど、圧倒的な身体の知識量にとんでもない方とご一緒していると日々感じていました。解剖中も生活中も先生の言葉や笑顔にどれだけ救われたか計り知れません。メンバーの体調や心の様子にいつも配慮してくださり、気分が滅入ってしまいそうな時は気晴らしにお出かけしたり、癒しを沢山与えてもらいました。そして私たちの悔いのないように研修までの時差対策や解剖の手順などのプランをを考えてくださり本当にありがとうございました。音楽家を解剖に連れて行きたい。そんな熱い想いをずっと感じながら先生との1年間を過ごしました。解剖でのご経験を私たちに伝わりやすいように落とし込むことがどれだけ大変だったことか。それでも休みなく何人もの方に伝え続けられていること、ご自身も毎年解剖に向かわれること、その上でまだまだ分からないことが沢山あると言われることに頭が上がりません。早速来月からもよろしくお願いします。

そして2回目の参加で不安も沢山あっただろう中、私たち初回組のフォローを沢山していただいた千代さん。

千代さんがいてくださることで気持ちが和らぎ、初めて参加することへの不安や乱れそうになる心が整っていきました。千代さんは笑うたびにお花が咲くようでした。解剖研修への準備物もきめ細かくお伝えいただいたことで、解剖中の身体的ストレスがかなり軽減されました。そして解剖中は細かい筋肉を丁寧に扱い迷いなく奥深くの解剖を進める姿に御献体と真摯に向き合う姿勢を感じました。生徒さんの教え方や演奏中の身体の使い方についての質問にも沢山お答えいただき、歌とはまた違う身体の使い方についても興味を持つきっかけを与えてくださいました。まさか解剖研修前にすでに出会っていたなんて…。そして東京にいる方なのに神戸に行くその情熱たるや。

最後に私と同じく初めての参加で、色々な気持ちを共有しながら解剖実習を一緒に乗り越えたYOKOさん。

解剖研修に向かうための準備でも様々な苦労があったことと思います。解剖初日にYOKOさんがありのままの感情を隠さずに伝えてくれたことがチームのより強い結束に繋がりました。それ以降も不安や葛藤がある中でも確実に困難を乗り越える姿は本当にかっこよく、改めて心の強い人だと感じました。それは数年単位での経験では絶対に生まれないと思います。自らが納得できる形を妥協せず考え続けることができる。そしてどんどんと周りを巻き込むエネルギーが溢れ出ている。以前から繋がりはありましたが、解剖研修や生活を共にする中で単純な上下の関係ではない、特別な経験を共有した友人関係になれたのではないかと感じています。

最後になりましたが、この場をお借りして主催していただいた谷香織さまをはじめKineticosのスタッフの皆さま、通訳陣の皆さま、後半チームの皆さま、日本から応援していただいた皆さま、支えてくれた家族、そして今までの研修でお身体を提供いただいた全ての御献体やそのご家族へ感謝を込めて。

音楽家チーム
ボイストレーナー安田結衣


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