金の子牛[ダミアン・ハーストとキリスト教②]
前回、ダミアン・ハーストはキリスト教をテーマに多数の作品を制作しているという話をしました。
前回は、白いハトの作品を紹介させていただきました。
今回は、ハーストの代表作のひとつである『ゴールデン・カーフ』(金の子牛)についてお話したいと思います。
『ゴールデン・カーフ』は、2008年に制作された作品で、子牛の死体がガラスケースの中でホルムアルデヒド漬けにされ、それが大理石の台座の上に飾られている作品です。
(タイトル画像はその上部のドローイングです。下手でごめんなさいbyイヴのうた)
『ゴールデン・カーフ』は、2008年に開催された伝説のソロ・オークション「僕の頭の中で永遠に美しく」に出品されました。
このオークションは、ギャラリーを通さずに作家本人がオークションで作品を直接売るという、それまでの常識を覆す形で開かれました。
直前に起きたリーマンショックもなんのその、ハーストはこのオークションで大成功をおさめます。
このオークションで、『ゴールデン・カーフ』はハーストのそれまでの自己最高額で落札されました。
その額、1034万ポンド、日本円にして、約21億9000万円!!!
では、この約22億円の金の子牛には、どんな意味が込められているのでしょうか。
ここでもやはりキリスト教、もしくは聖書の知識が必須となります。
(ダミアン・ハーストの作品を理解するためにはキリスト教、もしくは聖書の知識が必須です。これはダミアン・ハーストに限らず、西洋の文化や考え方を理解するためにはキリスト教、もしくは聖書の知識が必須です。←わたしが美大時代に先生から教えてもらったことです。)
金の子牛は、旧約聖書の『出エジプト記』32章に出てきます。
どんな逸話があり、どんな意味が込められているのか、説明していきますね。
モーセがシナイ山で神から十戒を授かっている間、イスラエルの民は、モーセがなかなかシナイ山から下りてこないので不安になり、アロンという人にこう言いました。
「さあ、われわれに先立って行く神々を、われわれのために造ってほしい。われわれをエジプトの地から導き上った、あのモーセという男がどうなったのか、分からないから。」
それを聞いたアロンは彼らに言いました。
「あなたがたの妻や、息子、娘たちの耳にある金の耳輪を外して、私のところに持ってきなさい。」
アロンは彼らから金の耳輪を受け取ると、鋳型を作り、それを鋳物の子牛にしました。
そして、イスラエルの民は、その金の子牛を神として崇めてしまいました。
シナイ山から下りてきたモーセが見たのは、金の子牛と、それを神と崇め、生贄を捧げ、踊る民たちでした。
モーセは怒ります。
偶像崇拝はたいへん重い罪でした。
モーセは、この金の子牛に加担した民の殺害を命じました。
その時死んだイスラエルの民は、三千人にも上ると言われています。
こういった逸話から、金の子牛すなわち『ゴールデン・カーフ』は、民の堕落による偶像崇拝を象徴するものとなりました。
wikipediaによると、金の子牛という概念は、今日においては単に偶像崇拝を意味しているだけではなく、
「物質崇拝」「拝金主義」「唯物論」の比喩としても用いられているそうです。
こうした意味を知ってから改めて観る『ゴールデン・カーフ』は、どこか悲しそうです。
人々の愚かさの象徴となったこの金の子牛は人々をどう思っているのでしょう。
参考文献:・聖書新改訳2017 いのちのことば社
・Wikipedia
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