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映画館ジブリから学ぶ体験価値

『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』宮崎駿


「一生に一度は映画館でジブリを」という触れ込みで上記2作に加え『風の谷のナウシカ』『ゲド戦記』がリバイバル公開されている。なぜこのタイミングだったのか、前々から企画されていたのかは分からないが、Withコロナでなかなか映画館に人が集まらず新作の公開も軒並み後ろ倒しされている現状でのお客さんの囲い込みとしてはなかなか優秀な戦略であることに違いはない。誰もが思った通りというべきか、公開週の興行収入はトップ3をジブリが独占という無双状態。『ゲド戦記』だけは9位だったのは目を瞑ろう。(ゴローニャよ、『コクリコ坂から』は結構よかったぞ。新作の3Dアニメーションも楽しみにしております)
とはいえ、やはりジブリを映画館で観られるというのは2000年生まれの小生からすればこれまでできなかった体験であり(物心ついてから公開された宮崎駿の『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』はなぜか見逃していて、なぜか『ゲド戦記』は観ている。傑作群を見逃すなんて極めて愚かな行為である。8歳の自分と12歳の自分を引っぱたいてやりたい)、小生と同じような境遇で見に来ている人が多かったのか、若い観客がほとんどだった。ソーシャルディスタンスで席数半減とはいえ渋谷のTOHOをほぼ満席埋めていた。ミニシアターが未曽有の危機に瀕する中、ちゃっかり大型のシネコンは客を確保しているのである。これだけ安定した集客ができるのだから、一年に一回くらい作品をローテーションさせつつジブリ期間を作ってくれても良いんじゃなかろうか?「一生に一度」とは言わず何回も観たいものである。宮崎駿監督も、映画ってのは映画館で一度だけ出会うべきものと言っており、本当は金ローやDVDなんかでは見せたくない(のだがここは鈴木敏夫Pとの戦争である)といった趣旨の発言をしているから、素直に従って映画館で観ましょうということなのだ。

内容に関してはみんな見ているだろうから今さらどうということもない、とは言いつつ、正直小生はジブリを語れるほど理解できていない。この点はみなさんも一度考えてみていただきたい。例えば、『もののけ姫』なんかはまだ構造は分かりやすいものの実は単純な自然VS人間の対立構造ではなくて、シシガミ様を中心として複雑な生態系が描かれている。子供のころ観ていた記憶からは朝野公方が消えていたり、ナゴの守のことをよく分かっていなかったりとただ観てすごいなーと馬鹿みたいに口を開けていれば良かったのだけど、さすがに20にもなってぼんやりと見ているわけにはいかないから集中する。それでもやっぱり宮崎駿が広げすぎた風呂敷を隅から隅まで見聞するのは到底できない。もっと分からないのは『千と千尋の神隠し』で、小生はこれがジブリで最難解な作品だと思っている。物語を分析する上で重要な要素の一つはやはりキャラクターで、それぞれのキャラはストーリーが進むうえで必ず何かの役割を持っているのだが、千と千尋ではそこが良く分からない。カオナシなんて結局正体は全く分からないし、所々でストーリーの歯車を回すのだが、最後には銭婆のとこに落ち着いてお手伝いさんになるというもう訳わからん展開である。坊の存在理由(キャラとしては魅力的だがストーリー上の役割は不明瞭)もいまいち分からないし、ハクの正体も裏設定を含め矛盾しているところがある。このあたりはいつかしっかり文にしてまとめてみたいとは思うが(気になる人は岡田斗司夫氏の解説動画を見てみると良い鴨)、まだ先になりそうである。みなさんもただ身を任せて流れる美しい映像を浴びるだけでなく、一つ一つのシーンで宮崎駿が一体何をしようとしているのか能動的に考えてみていただきたい。おそらく頭がこんがらがること請負である。

プラスα
自粛期間開けで観に行った映画は『デッド・ドント・ダイ』『ホドロフスキーのサイコマジック』『ストーリーオブマイライフ』と上記の2作だが、やはり体感的にはジブリがダントツで集客力が高かった。千と千尋をたまたま最後部の座席で観賞したとき、最初は気づかなかったのだが、映画を観ている途中でふと集中が切れて映画館全体を見渡した。その時何というか不思議な気持ちよさに体が包まれてなぜか感動してしまった。誰とも知らない人々と同じ空間で同じ映画を共有していることが心底気持ち良かったのだ。しばらくZoomでしか人と繋がることがなかったからか、別にしゃべるわけでもなく名前も顔も知らない有象無象(もちろん小生も)の人々と時空と映画を共有することがこれほど気持ち良いことかと思い知った。映画館で映画を観ることは、もちろん画面が大きくて音も迫力があって、座席も座りごこちが良くて、人によってはポップコーンが楽しみかもしれない。でも裏に隠れている映画館という場所の価値のコアは「共有」にあるのではないかということを小生は声を大にして言いたい。ストリーミングでいくらでも映画を観られる時代だけれど、やはり映画館は映画を観るだけでなく体験する場所なのだ。別にストリーミングを批判するわけではないし、これまであまり映画を観てこなかった人にはストリーミングで映画の快楽に浸ってほしい。そして映画の面白さを知った時はぜひ映画館に足を運んでほしい。映画館が危機に瀕する中、映画館の幸福感を思い知った映画オタクのささやかな願いなのだ。

さて、明日は『風の谷のナウシカ』を観に行こうかな。
みなさんも良い映画体験を!

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!