【コラム】南チロルの風:6
フランチェスコ・ファルコーネ
フランチェスコ・ファルコーネという先輩ソムリエとの出会いも衝撃的でした。彼は僕よりも後に入社したのですが、グアルティエロ・マルケージという有名レストランでサービスを勉強していたという経歴で、マウロ社長から引き抜かれた人材でした。
さすがに目を付けられたサービスマンだけあり、サービスでの見せる技術は素晴らしいものでした。水をつぐにしても、お皿を出すにしても見ているだけで、ちょっとうっとりしてしまう見せようだったのです。
彼の料理、ワイン、チーズの知識はすぐにマウロ社長の目に留まり、チーズワゴンのセッティングが彼のアイデアで見栄えよく変わったり、ワインセラー係を任せられたり、社長とダニエラの手が空いていない時に変わりにオーダーを取ったりと、彼の行動範囲がだんだんと広がっていきます。
マサ少年にとって、それだけ彼の技術を吸収できるチャンスが増えていったのです。そのチャンスが増えるほど、彼からしごかれる回数も増えていきました。
30・40種類あるお皿のシルバーセッティングを間違えたり、準備中に行うべき掃除が行き届いていなかったり、時には生意気に口答えをしたりすると、その何千・何万倍もの勢いで、そしてイタリア人特有の罵声とともにこっぴどく干されます。早くて何を言っているのかわからない語調ではあったものの、そういう罵声のいい方も勉強します。
「こんな言い方があるんだ。イタリアはすごいな」
サービス技術の先にあるもの
そんな中でも彼のサービスを僕は毎日研究していましたし、彼もきっと僕の動きを観察していたのだと思います。そしてそれらの研究の成果が実を結び始めたのか、サービスがテーブル担当制になりオーダーテイク以外の仕事を任せてもらえるようになりました。
ここではサービスマン本人の技量が明らかになります。お客様への細かな気配りや、料理が出るタイミングでお皿を置くためのワゴンのセッティング、上司やソムリエとの連携も密に取らなければなりません。
そんな中、ちゃっかりもののマサ少年は通常社長やダニエラが行うワゴンサービスを進んで行い、後で上司に呼び出され「譲るところは譲れ」と叱られたこともありました。
しかしこのように、より一歩お客様へ近づいた接客を行うことは責任も重大ではあるけれど、それだけ帰ってくる喜びも大きいものになると感じました。
ある日、アジア人が担当なことにしばらくこわばっていたおじさんおばさんに、どっから来たの?と尋ねられてお話をさせてもらい、その中でイタリア語を教えて頂き、帰り際に握手を求めてきて素敵な笑顔と共にお店をあとにしていかれたことがありました。
「サービスマンがお客さんに育ててもらうとはこのことか」
幸運なことに入社して半年以上経った秋口に、ミシュランガイドで2ツ星を獲得します。そんな数少ない現場に立ち会うことができたことは、本当に幸運なことでした。
営業中に知らされた朗報に、まるで学園ドラマでも見ているかのようにはしゃぐイタリア人達を今でも覚えています。ですがその日も通常通りお越し下さっているお客様に対してサービスを変えるわけにはいきません。
昨日までと同じ気持ちで、それぞれのお客様にあった接し方で仕事を続けていく、ということを2つ星に昇格してからも変わらないように努めました。できていたかどうかはわかりませんが・・・・・。
「すごいやつはいつも一緒」
ミラノのサドレルで知り合ったコックさんに言われた言葉。そんな出会いと共に次回はミラモンティ・ラルトロでの休日の過ごし方をお話しします。
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