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【オープン社内報#32】変わっていくもの、変わること。

こんにちは。株式会社ひらくの染谷拓郎です。

  いま(8月3日)この原稿は福岡県八女市の旅館の部屋で書いています。朝の8時。外ではシュワシュワとセミが鳴く音が聞こえてきます。今日は前号でお伝えした「新しい図書館をつくる」の続きのような話を書いてみたいと思います。

 昨日は八女市役所の皆さんと事業者採択後初めての現地打ち合わせ。まずは自己紹介からすることになり、トークテーマとして「好きな図書館」を話すことになりました。僕は、ちょうどリュックに入っていた2冊の本を取り上げながら話したのですが、これはもう少しちゃんと考えてみたいテーマだと感じ、今回の社内報に書いてみたいと思います。

リュックに入っていた本:
1.図書館の誕生 古代オリエントからローマへ L.カッソン著・新海邦治訳 刀水書房http://www.tousuishobou.com/rekisizensho/4-88708-356-1.htm
2.インクルーシブって、なあに?子どもを分けない場づくり はじめの一歩 フィリップ・ダウチ著・嶋村仁志訳 一般社団法人TOKYO PLAYhttps://tokyoplay.thebase.in/items/66891358


 もともと、図書館(のようなもの)は、西アジアからはじまります。紀元前3千年ごろ、エジプトやメソポタミアにおいて、記録を残すために粘土板に文字を記したものが管理されるようになったと言われています。人々が集まって暮らすようになるとさまざまなものを管理する必要があり、それは口頭ではなくなにかメディアに残すほうが便利。それは図書館的な場というよりは、あくまでまちのインフォメーションセンターのような機能で、どちらかというと登記簿謄本や住民票が管理される役所的な場がイメージされます。

 それから数千年、紀元前300年ごろになると役割もメディアも大きく変わります。アレクサンドロス大王が築いた帝国は彼の死後に分割されながらも、依然として大きな力を持った国でありつづけました。そこでは、知識をひとところに集めるために、パピルスに記された書き物がひたすら集められたそう。「アレクサンドレイアの図書館は包括的であって、あらゆるところから集めたあらゆる種類の書物を含んでいた。またそれは公共的であって、学者として、あるいは文筆家としてふさわしい資格があれば、誰にでも開かれていた」(p47)とあります。

 これ、だいぶ今の図書館の在り方に近づいてきましたよね。いまから2,300年も前に、もう、図書館が世界にあったなんて。とはいえ、学者や文筆家としての資格がないと使えないという点では今よりひらかれてはなかったようです。そもそも、誰もが文字を読める世界ではなかった。

 このあと、文字を記録するメディアはどんどん変わっていきます。粘土板からはじまり、パピルスや羊皮紙に変わり、紙が発明されていきます。1900年代に電子データが生まれ、いまではそれが主流の世の中です。僕たちが目にし、読み取る文字量は圧倒的に画面のなかのほうが多いはず。それも、手のひらのなかで。

 文字を記録するためのツールも、メディアに合わせて変わっていきます。炭を溶かしてペン先につけて書いていた当時は、スクリプトリウム(書写工房)という仕事もあったそう。14世紀にグーテンベルクにより印刷技術に革命が起き、”複製すること”のコストが圧倒的に変化しました。時は流れ、いまではプロンプトを入力さえすれば生成AIが文章を書いてくれ、SNSに投稿すれば複製することなく全世界の人が同時に見ることができます。

 メディアやツールは、時代に合わせてコロコロと変わっていく。僕ができることは、メディアやツールそのものをつくることではなく、時代に合わせてそれらがどんな価値を提供できるのかを考えること。僕は紙の本も読むし、電子書籍を買うこともあります。書店でもネットでも買うし、図書館も使います。Chat-GPTも試しに使ってみました。

 障がいと健常を分ける壁も、時代に合わせてコロコロと変わっていきます。コテンラジオを聴いて驚いたのが、メガネが発明されるまでは視力が弱い人も障がい者と呼ばれ、通常の生活を送ることができなかったということ。それくらい、時代に合わせて「壁」は変わります。

 2010年英国平等法によると「障がいがある」とは次のように定義されています。「障がいがある、とは日々の通常の活動に際して、人としての能力に相当かつ長期的に不利な影響を受ける身体的または精神的機能不全があることを指す」。つまり、機能不全があることが問題なのではなく(誰しも精神的・身体的な機能不全があるはず)、それが社会環境や時代によっては「長期的に不利な影響」を被ってしまうということ。

 僕の家族も身体障害があり、いま現在のままでは「人としての能力に相当かつ長期的に不利な影響を受ける身体的機能不全」がありますが、装具や歩行器を使うことである程度活動できるようになっています。本人の機能不全を改善するために、そういったツールが時代によってどんどん良いものが開発されていますし、リハビリテーションを受けることで本人の身体活動の幅は日々広がっていきます。

 それに対して、機能不全を受け入れる環境や社会状況は、まだまだ変化するスピードが遅いようです。車椅子で通れない幅の施設があったり、何かあったときにすぐ手を貸すことを躊躇ってしまうことはよく見られるでしょう。

 「図書館」や「身体的・精神的な機能不全」をめぐる状況だけでなく、すべては、時代によってコロコロと変わっていきます。メディアもツールもそれを使う人も。大切なのは、変わっていくことに抗うのではなく、変わっていくことに対して何を変え何を変えないのかを考えることです。ひらくのビジョンである「場と機会づくりを通じて、うれしい時間を提供する。」というのは、変わっていくメディアやツールをつかって、その時、場所、場面で一番最適な企画を提案しよう、ということ。

 冒頭の自己紹介の「好きな図書館」の答えは、「変わることに対して前向きで、本質的に大切なものを変えてないところが僕の好きな図書館です」という回りくどいものでした。でも、本当にそう思う。「紙の本が素晴らしい!インクのにおい!」「いや電子が優れてる!」みたいな感じで、「粘土板が最高だ!」「いや、パピルスの方が便利!」とか、昔の人も話してたんですかね。答えも問いも一つじゃないから、面白いのにね。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。今日もがんばりましょう。

染谷

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今週の「うれしい」
8月に入った瞬間、夏の感じが変わったような気がします。季節がめぐることで、どんどん旬のものも変わっていく。いまはとにかく桃を食べる機会を増やすことに集中しています。桃はおいしい。


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