すべての僕のようなロクデナシのために

この星はぐるぐると回る。ヒロトの歌詞はどうしてこうもストレートであたたかいんだろうな。夜の首都高の下を通る大きな道を青く光るホテルの看板を横目に大きく曲がって中原街道に入る。二車線も三車線もある大きな通りをちっぽけな自転車でトラックやタクシーに混じって流れているとこの上なく自分の身体性が風に近づいて溶けていくようで気持ちいい。人がぎょっとするのもかまわず大きな声で歌う。踏み込む足に力が入ってきらきらと目の端から星がこぼれていくような気がする。

この小さな部屋を出て行くとやっと決められたのは先日のことで、今でもふとしたことで揺るぎそうになる決意をいいんだこれで、大丈夫だ、と言い聞かせながら毎日を過ごして、苦手な事務作業や手続きやなんやかやに怯えながらおっかなびっくりこなして、強引に離そうとした手をふんわり握られて驚いて涙したり。ほんの少しの間でも、別れることになってしまっても、名乗りあって知り合って時間を一緒に過ごすっていうのはやっぱり本当に偶然なんていう野暮な言葉では表せないなにか意味のあることだよなと思う。まして好感を抱くなんて。「縁」というものをしみじみ思うことが増えた。昔は人との出会いをありがたみもなく当然のように受け取って振り回して台無しにしてばかりだった。そうしてごく僅かしか手元に残っていない縁がわたしにどれだけのものをくれるのかやっとわかって、それからは出会えたものがいとしくて大切で自分のできる限り誠実でいたい、といつも思う。

自分がなになのか、なにでいたいのか、なにになるのか、どうあるのが自分か、全然わからないでいるしこれから先もきっとぐるぐる悩み続ける、でもこれは一つの芯としてわたしの中に出来上がりつつあるな。そしてそれは喜ばしいことだと思う。人に、ものに、わたしに出会ってくれたことに、自分のできる限り誠実であろう。そうすれば何か失敗したり、迷惑をかけてしまったって、謝ればいいのはそのことだけだ。さっぱりしていて、清潔だ。そふいふものにわたしはなりたい。

出て行くと決めてからずいぶんたくさんの本を処分した。本は大切だし、インターネット媒体もとても便利だけどやはり紙の本が好きだし、減らしても減らしてもどうしても捨てきれなかったし、だけど実家にあったのも合わせてたぶん所有していたうちの三分の二くらいは処分したのではないか。もう少し多いかもしれない。ものを持たずにいたつもりでこんなにも、と驚いて、段ボール三箱くらいに収まるつもりでいた「どうしても捨てられない本」だってこのままではとても三箱では収まらないようだ。加えて服だ。頭が痛くなってくる。

大型家具はテーブルが一つ、それからIKEAのガラスの小さなデスク、椅子が二つ、細長い本棚が二つ、あとは衣装ケース。どれもそう高いものではなく、メルカリで売るには送料の方が高く付くようで、買取の業者などを比較するのも面倒で、おそらく粗大ゴミに出すことになる。したことがないので億劫だ。だけど調べてちゃんとやらなくては。そもそもいつまでに部屋を片付けるのだろう?掃除とはどれくらいやるものなのか。初めての一人暮らしならもちろん初めての退去なので、もうなにもわからない。誰かに「ほんとにぐずね、ほらこうやんのよ」って全部教えて欲しい。えーん。

本は結局まとめてブックサプライで売り払った。段ボールを送ってくれるのと、家まで取りに来てくれるのが非常に助かったため。もちろん個別にメルカリで売った方が高くなるのはわかっていたのだけど、ひとセット売ってみてこれを全部やるのは無理だという結論に至った。メルカリの過程が好きな人は向いているのだと思う。才能は人それぞれ。

もう着ない服のうちまだきれいなもの、つまり心理的な理由で着ないと決めたものたちはほとんどニューヨークジョー に売ってしまった。最近渋谷に新店が出来て助かった。置いてある服が良いのでつい売れたそばから買い込んでしまうけれど。ノーネームのものでもきちんと買ってくれるところが嬉しい。バック率が高いのでありがたい。あとわたしの手持ちの服とたぶん相性がいい。ラグタグにもいくつか持っていったけれど、ニューヨークジョーの方が個人的に値付けがありがたかった。ただ、ラグタグの方々は非常に(申し訳なくなるくらい)対応が丁寧で嬉しかったのと、待っている間においしいお茶とチョコレートがサービスで頂けて嬉しい。ハイブランドで比較的新しい、状態の良いものならばこちらに持って行く、というようにするといいかもしれない。

ベッドフレームはメルカリでうまいこと買い手が見つかった。マットレスは丁度恋人がほしいというので最後の最後に譲って持っていってもらう段取りだ。あとは家電か。気に入っているので取っておいてもいい、と思うのだけど運ぶのが面倒で、購入した量販店で引き取ってくれるはずなので調べようと思いつつまだきちんとは調べていない。身軽に生きているつもりで全然だめだったな。だけどなんとなく、本当に薄ぼんやりだけれど、様々にやりたいことが見えてきたような気がしているので、そう思うとそのために身軽でいようと思う。なんといってもこの星にこのわたしで生まれてこられたのは類い稀なる奇跡で、たった一回のことなのだもの。出し惜しみなく、もったいぶらず、人生にも誠実に取り組もう。わたしがわたしにしてあげられることなんていうのは、やりたいこと全部叶えてあげるってたぶんそれくらいしかないから。


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本を買います。たまにおいしいものも食べます。