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コメント欄から見る音楽の価値観

今回は、音楽レビューを参照し、どのような価値観で音楽が捉えられているのかを考えていきます。
以前に書いたメタ音楽評論では、評論においての音楽と言葉という観点で取り上げましたが、今回は単純に素人の方が書いたレビューやコメントを参照し、音楽に対しどのような価値観で接しているのかを上から目線でざっくりと見ていきます。
ただTwitterなら引用が許されるのですが、他のコンテンツ、メディアは権利の関係上そう言った類に厳しいorめんどくさい(許可等)ことがあるため、私がレビューやコメントの傾向を把握し、種類ごとにまとめる感じになると思います。
それでは、やっていくぜ。(急な強気)

J-POP

まず、私たちの住む日本(海外住みの方もいるかもしれませんが)の音楽として一番の共通要素となり得るのがJ-POPに違いないということで、J-POPアーティストがYouTubeに挙げているMVやらに書かれているコメントを見ていきます。

King Gnu -雨燦々

J-POP界の新鋭アーティストといえば、King Gnuという感じがしたので。
どうでもいいですが、私は最初、キングガンだと思っていたのですが、自信がなかったため、キングァグァンと呼んでいました。

早速、コメントをざっくりと観察します。

レビューには大きく分けて肯定、否定の二つの見方ができるかと思いますが、圧倒的に肯定的意見が多いですね。肯定を見たら否定も見たくなるのが自分の悪いところですが、否定的意見がほぼない。YouTubeのコメント欄では97~99%が肯定的意見で占められているような気がします。
私は嫌いという感情が前面に出ているものを除く、否定的な意見というのはそれなりに大事だと思うのですが、King Gnuさんはファンの熱量がすごいですね。
ということで、5ちゃんねるも覗いたのですが、数少ない否定的な意見はJ-POP化への悲観、ってとこですかね。

では、先ほどの意見をグループ分けしていきます。
◉エモい系: 元気、涙、などは一括りにエモいという便利な言葉で、まとめらることができます。感じたこと。自己の思い出と絡めたコメント等。
◉褒め: 〇〇が良い、のような個人が持つ理想との近接性。
◉分析系: コード進行やコーラスワークなど少し専門的な考察。
◉嘆き: 理想像からの乖離。

正直、音楽に対する評価は主観でしかないので、〇〇が良い、悪いというのも正解はなく、価値を決めるとするなら他の音楽と比較するというアーティストから最も嫌われる行為が有力だと思われます。

ただ、今回の記事はどの要素が価値として測られるのかというものなので、淡々とまとめていきます。

エモい系は、共感しうる歌詞、曲の雰囲気など情動想起の要素が価値に置かれており、褒めは、聴衆が良いとする音楽要素に沿ったものと捉えることができると思います。分析系はコード、コーラス等の客観的要素がどう使われているのか言及した上で、それが良い悪いか語ったもの。

共感や聴衆の高評価というのは、否定的な意見にあるJ-POP化への裏返しと捉えることもできます。
そこには、否定派の多少ディスられるくらい尖っている方が良いとする価値観も垣間見えるのではないでしょうか。

ロック名盤(洋楽)

J-POPとは対照的なものを取り上げたい為、ロックの中でも評価が分かれそうなシューゲイザーの曲を取り上げます。

My Bloody Valentine - Only Shallow


他国語は翻訳します。

多くのコメントは英語のものを翻訳したものですが、ロックの中のシューゲイザー、Only Shallowといったようなジャンル意識のあるコメントが多い印象です。
ただ、注目したいのは否定的なコメントであり、「加工しすぎで曲の命がない」と「演奏技術を轟音で誤魔化している」というものがあったのですが、前者は所謂アコースティックまたは、オーガニックサウンドのような添加物のない自然な音を価値の基準としたコメントであると推測できます。
そう考えると、後者のコメントもアコースティック感を価値の軸にしているようにも感じますが、こちらは演奏技術の優or劣というクリエイター目線での競争的な価値の軸であると考えられます。

先ほど、グループ分けしたものは除き、新たなコメントの系統をまとめます。
◉文脈系: 歴史、ジャンル等の背景的知識を含めたコメント。
◉反理想系: 価値観に基づく理想から外れたものへの指摘。

これらも広く捉えるか、狭く捉えるかで、どのような価値があるのかは変わってきます。要は、狭く見れば、反理想系のコメントも先ほどのようなアコースティック、オーガニック崇拝に基づくものと見ることができますが、広くみると、単に好みではない負の感情によるものとも取れますね。
また、文脈系のコメントは広い脈絡の中で相対的な価値を表していると感じます。

アイドル

なぜアイドルかと言いますと、アイドルにおいての音楽はアイドルというメインコンテンツを美しく魅せるツール的な役割だと個人的に感じ、ミュージシャンやアーティストの作る音楽とは違う側面で価値が測られていると思ったので。

乃木坂46-好きというのはロックだぜ!

面白いのは、アイドルが主軸となっているため、音楽だけでなくドラマ出演などへの言及もあり、コメント欄が応援メッセージや情報共有の場となっていることです。
ちなみに、アイドル曲においての否定的な意見は、曲についてよりも人への誹謗中傷になりかねないため省略します。

◉ファンレター: アイドルに対する応援メッセージ。再生回数祝い。

アイドルとなってくると曲への言及はあっても、分析するようなコメントは見つかりませんね。やはり、多いのはメンバーへの応援コメントなどコンテンツを盛り上げるもの。
しかし、それがどう音楽の価値観と関係してくるのかといえば、受け手が崇拝していることです。そもそも、アイドルは英語でidolであり、、、えーっと引用しますね。

アイドルは英語のidolに由来する外来語であり、英語のidolはもともと「偶像」という意味である。たとえば仏像はBuddha idolと表現できる。とはいえ英語にも、人々の羨望や崇敬の念を一身に集めるような人物をidol(アイドル)と表現する言い方はある。
https://www.weblio.jp/content/アイドル

何が言いたいかというと、アーティストは一種のアイドルのような存在になりかねないということです。それは、ファンからの崇拝行為が目的であるアイドルなら良いのですが、作品として評価されるべく、曲を出す、アーティストにも同じような全肯定的意見が増えると、価値観は固定化されていくと考えられます。
現にYouTubeのコメント欄は基本、評価順に設定されており、炎上でもしない限り、肯定的なコメントが上にきます。
ゆえに、肯定は肯定を生み、音楽に対する価値観が固着するのではないかと推測されます。

評価と価値観

J-POP、ロック、アイドルに対するコメントをざっくりまとめました。
いくつかにグループ分けしたものをまとめます。
ポジティブ
◉エモい系
◉褒め
◉ファンレター
ニュートラル
◉分析系
◉文脈系
ネガティブ
◉嘆き
◉反理想系

これらのコメントは言っても個人の主観に基づくものなので、優劣もないのですが、私個人として、何が良いコメントか考えてみたところ、その人の価値観が理解できるコメントが良いコメントであると感じました。
音楽などの表現を重視するコンテンツにおいて、コード進行等の客観的な分析をしたところで、それが価値とは結びつかない面があるのですが、個人の何が良い、悪いが書かれた褒め反理想系などのコメントは価値観を考察でき、話も広げやすいと感じました。
例えば、私はMy Bloody Valentine のようなシューゲイズの轟音サウンドは好きですが、先ほど取り上げたように「加工しすぎて曲の命がない」「演奏技術を轟音で誤魔化している。」といったコメントは、「ということはこの人はアコースティック、オーガニックな音が好きなんだ。」「この人は演奏技術を価値においているんだ。」
と個人の価値観を推測する材料として見ることができ、興味深いです。
また、嘆きで括ったコメントもその人が何を求めているのか、その人からアーティスト、バンドがどう見えているのかが理解できます。
ただ、これは肯定コメントの数多、同質性ゆえに、私が肯定的なコメントをあまり信用していないという主観も混じっているかも知れません。
良い言葉を見つけました。

先日、何かしらでマウントを取りたい私はJPLT N1という日本語能力試験(日本語を母語としない人たちのための認定試験)の例題集を解きながら、勝ち誇った気分になっていたのですが(数問間違えました)、例題の中で面白い文が引用されていたので紹介します。

音楽や美術、彫刻などの芸術アートは、聴く人、観る人の批評によって育てられる。悪い演奏をしたら、良くない作品を出品したら、その芸術家は次に表舞台に出る機会を失う。
日野原重明『いのちの言葉』

医師であった故日野原重明さんの著書『いのちの言葉』より。

音楽や〜は、聴く人、観る人の批評によって育てられる。

私は上に音楽の価値を測るのは他のアーティストとの比較が有力的なことを書きましたが、こちらは聞き手の主観が価値を形成するということですね。
この言葉は、良くないと評価される作品は淘汰されるといった趣旨のものですが、音楽経験の浅い者による好評が曖昧な価値観を作り出し、作品がそれに沿って作られることで、同質的になるという見方もできるかと思います。
例えば、エモい系で括ったように、エモいという言葉は非常に汎用性が高く、便利な言葉ですが、悪くいうと、曖昧さゆえに、価値観が伝わりにくいという側面もあるかと思います。
King Gnuの『雨燦々』でもあったように、J-POP化への悲観コメントはエモさが促進する負の側面を言い得ているのかも知れませんね。

まとめ

ここまで書いてアレですが、私があまり最近のJ-POP事情に詳しくないため、中立性がない偏った記事になっているかも知れません。
そこは是非、皆さんの澄んだ耳で価値を発見してくださいね。

とりあえず、今回のテーマ、音楽に対する価値観という点で、わかったことはエモい系は価値観が伝わりにくいこと、否定的コメントの方が聞き手の価値観が伝わりやすいこと。(あくまで筆者の主観)
そして、そもそも論的視点で、音楽が聞き手の価値観を生むのか、聞き手の価値観が音楽を左右するのかといった人類に託された永遠の問いですかね。
(どちらもあると思います)





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