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貰った塩飴が大惨事を引き起こした話

あの時、ああしていれば…

あんなことしなければ…

そう思ったことはないだろうか。
思わないわけがないよね。

これは、つい最近僕が体験した「小さな行動一つで未来が大きく変わってしまった話」である。

・ ・ ・ ・ ・

その日、僕は仕事で小学校に訪れていた。
行事の取材をするためである。

行事の内容は、外で行う体験学習であった。
地域の人と児童が協力して、自然の中で遊ぶ授業に同行した。

その日も夏真っ盛りといった天候で、おそらく気温は40℃近くになってたと思う。
そんな中でも小学生は元気であった。反対に大人たちは全員死にそうな顔をしていた。

汗が滝のように流れ、走馬灯も時折見える地獄の環境で僕は何とか仕事をこなした。
児童たちが開始30分にも関わらず、明らかに遊びに飽きてきているのは気のせいだろう。

「いや~、お互い大変ですねぇ」
そう話しかけてきたのは、学校の先生だった。
見た目がかなりのおじいちゃんであり、おそらくもうそろそろ定年を迎えるような人だった。

「まあ子どものためですからね、がんばりますよ」
愛想笑いを浮かべながら、僕はそう返答した。
もはや愛想笑いを通り越して、暑さで頭がHIGHになって変な笑いになっていたと思う。

「今日は一段と暑いですからねぇ、子どもたちの体調が心配ですよ」
おじいちゃん先生はニコニコとしながら話す。僕はこの暑さであなたが天に召されないかが心配なのだが。

「よかったらこれをどうぞ」
そう言っておじいちゃん先生は、塩飴を一つ差し出してきた。ドラッグストアなどでこの時期になると大量に販売されている、よくある塩飴だった。

「ありがとうございます」
僕は快く塩飴を受け取った。いろはすしか持ってきていなかったので、塩分補給ができるのはとてもありがたかった。

もらった塩飴を

▶️食べる
 
食べない

ゲームだとこんな感じで選択肢が出る部分だろう。僕はだいぶ発汗してたこともあり、迷わず塩飴を食べた。これがいけなかった。

「子どもたちにも渡して来ますかねぇ、では後程」
おじいちゃん先生はそう言うと、児童たちに塩飴を配りに行った。

ゴミ箱が用意されていなかったので塩飴の袋をポケットに押し込んだ。その後も、ガンガン照りつける日差しの下で仕事を続けた。

体験学習が終了し、児童も学校に戻る時間になった。学校に戻ってから先生にインタビューをして僕の仕事はようやく終わりを迎える。

教室に入り、先生と少し話をした。児童たちは相変わらず元気で騒がしかった。

「暑くて大変でしたけど、無事終われてよかったですよ」
クーラーがまだ効いてない教室で、先生はタオルで顔を拭きながら言った。僕も汗がまだ止まらず、何度もハンカチを取り出した。

「まずは子どもたちを着替えさせてもいいですか? それからインタビュー受けますので」
ということで、僕は廊下で待つことにした。しばらくすると教室から怒号が飛んできた、

「誰ですか! こんなことをしたのは!」
先生の怒る声が聞こえた。教室をチラッと見てみると、先生は飴の袋のゴミを手に持っていた。

「せっかくいい体験をして、気持ちよく終われたのに…最後がこれでは悲しいですよ!」
確かに、こんな形で授業が終わるのは良くないなと僕は思った。ちゃんとゴミは自分で管理しとかなきゃ…

僕は確認のためにポケットに手を入れた。しかし、袋の感触がない。

(あれ? こっちだっけ)
ない。ハンカチや手帳の感触はあるが、いくら探しても飴の袋は出てこなかった。ポケットを手で触ってみてもあるのは玉袋くらいだった。

うん、間違いない。

あれ、僕のだ。

おそらく、汗を拭くためにハンカチを出し入れしてたらいつの間にか落ちてしまったのだろう。

「ゴミを平気でポイ捨てしないでください!」
完全に勘違いである。子どもたちも(捨てたやつ誰だよ…)と内心キレているような気がした。

でもね、あの場で誰が「すいません、それ僕のです」と言えるだろうか? 言えるわけがない。

結局、僕は怒る先生と怒られる子どもをただ見ているだけしか出来なかった。

まさか先生も児童も僕が落としたなんて微塵にも思ってないよね。

(あの時、飴食べてなかったらなぁ…)

未来はこんなことで簡単に変わってしまうんだなぁと、先生に叱られる児童を横目に思うのであった。

おわり