「Civil War」 リアルさがこわっ! アメリカ内戦。巨大政党の危険さ?
なんとも衝撃的な映画、アレックス・ガーランド監督による、「CIVIL WAR/シヴィル ウォー」が登場した。
脚本家として、「わたしを離さないで」や、「ザ ビーチ」を書いた人だけあり、緻密なプロットでグイグイ観客を映像「CIVIL WAR」の中に引っ張り、見終わった人が、これ傑作だよね、とつい呟く。もしかしてこれから賞を総なめ?(わからないけど……)
ただ、この映画は近未来と思えないリアルさ。明日も近未来ではあるといったらそうなわけで現在のアメリカの政治についても途中で少し解説。政治が全くわからない人にもわかるように書いたつもりだけど、どうでしょうか?
あらすじ
映画の設定はアメリカの内戦!19の州が合衆国から離脱しテキサス州とカリフォルニア州からなる「西部勢力」WFと連邦政府による内戦が勃発した近未来のアメリカが舞台。大統領は3期務めた権威主義者で、FBIを解散させ、アメリカ国民に空爆を開始。
爆破が続く中をロイターの記者4人がNYからワシントンD.Cへ何ヶ月もメディアのインタビューを避けていた大統領の直撃インタビューへ向かうというロードムービー仕立てがベース。
戦争フォトジャーナリストのリーをやるのが、マリー・アントワネットやスパイダーマンでのヒロイン役で有名なキルスティン・ダンスト。元々モデル出身で綺麗な彼女が、60歳くらいに見えるような堂の入ったおばさんジャーナリスト役。老けぶりの演技もすごいけど、特に最後のシーンは見もの。
その彼女に憧れる駆け出しのフォトジャーナリスト、リーを演じるのが、ケイリー・スピーニー。 なんとプリシラの女優! イメージは日本アニメファンな若者風まだ10代のようなあどけなさ。
この体格的にも対照的な二人だけとっても、素晴らしいキャスティング! ここでは追及しないけど二人の次第に深まる師弟関係も見どころ。
リーの同僚を演じるのが、ジョエル 、 ヴァグネル・モウラ この俳優さんは、ブラジル出身。何気にすごくいい男ぶり。
リーと、ジョエルのメンターが、サミー役のスティーヴン・ヘンダーソン、シャーロッツビルまで同行することを決意。この世界を全て知っているような、ジャーナリストたちのお父さんといった役柄。
この4人が戦争に荒れ狂うアメリカを一台の車で移動する。
彼らの前には残酷で衝撃的な荒れ狂うアメリカが次々現れる。そしてたくさんの行手を妨げる障害と狂気。そして彼らの絆。
観客は、まるでこのジャーナリスト4人と移動して、全てを一緒に体験したような気持ちになるような見事なカメラワーク。
最後の方のネタバレは今回なしで。是非に観にいって欲しいので。
監督の心配、露骨すぎる現実の映画。リアルすぎ?
監督のアレックス・ガーランドは「直近未来の SF 寓話」のようだけど、あまりにも露骨に現実が反映されていて、恐ろし過ぎるため、いまのアメリカの狂った政治のゆがんだ状況とは距離を置きたい…と考える世間のフツーにまともなひとたちは映画館に出かけるのをためらってしまうかも…と心配している。
それでは露骨な現実とは?
この映画でもあるようにアメリカ、テキサス州やカルフォルニア州が政府とバチバチの関係であることがまさかまさかの今の状況。(下参考)
テキサス州の知事が、バイデンの不正移民政策に怒り、テキサスに入って来た移民をニューヨーク市にバスで移動させたり、自警団が連邦政府軍と睨み合いをしたり、、、、。
メキシコからのボーダーのカルフォルニアは、豊かな中国人がどんどん不正移民として入ってくる。
これを書いている最中に、流石に政府も毎日の移民数を超える人たちは無理と言う法令を作った。
それでも既に現政権の過剰な不正移民の数は、支持シャアを増やすため。それはアメリカをより危険な場所にしていると、非難している人は多い。
すぐには働けない人々がこれだけやってきてホテルに泊まることに対して、アメリカ人どころか正規移民でも、これでは頭に来る人がいてもおかしくない。アメリカは税金こそ安いがインフレでホームレスになる普通の人も多い。正規に移民として普通にはいるのはかなり難しい国なのに突然の恩赦的な内閣の移民受け入れ増す政策。それが、この映画の背景にあることは、間違いない。
だから今年にこの映画のような、アメリカ内線があってもおかしくないほど、アメリカは怪しい雰囲気に満ちている。ということでアメリカの危険さから他国へ逃げ出す人も多い! あるいは、引越しして州を変える人も。
映画ではなぜ、このように内戦が起きているのか長く詳細な説明はない。
この部分が特にこの映画の優れているところ。
ファシスト風の大統領がメディアには会わない。近づいたジャーナリストを射殺している、ということが設定にあるだけだ。
どうしてこの大統領がこうも狂い曲がってしまっているのか、市民に向けて爆弾を落とすのかは、全くわからない。監督は、
「物事が極端になると、物事が極端になった理由はもはや重要ではなくなり、問題の危機だけが本当に重要なままになるという事実に関係しています。つまり、この文脈では、実際には重要ではないということです」と言っている。(NY times)
映画の背景の深掘り、分裂のアメリカ
(どうでもいいと思う人はここは飛ばしてください!)
二つの分裂が現在アメリカにはある。
一つは、新パレスチナと、イスラエル側の対立。デモは終わらない! アメリカがイスラエルを切れないのは、政治や大企業がイスラエルの力が強いのは知っての通り。たったの2%のイスラエル人の力が強い、アラブ系の方が人口的には多いのだけど、、、。
そしてもう一つの対立は、トランプとバイデンが大統領選挙を巡って。
トランプが少し前に裁判でボロ負け。
もう片方のバイデンは訴えられていても罪は認知症だからということで、控訴しないとかめちゃくちゃな有様。色々不公正な司法が罷り通っている。この辺りは日本では詳細には報道されていない。
民主主義の国アメリカのはずだったのに、メディアは一方の党派の広告マンと言ってもおかしくない。
基本、ここ長年民主党支持の大手メディアはトランプ批判しかしない。
でもトランプは国民的人気がある。裁判で負けてもお金も票は集まる。お金持ちも彼の味方。
で、この自国第一主義者で人気者のトランプが選挙で勝ったとする。
(とわいえトランプがハリスに負けるとしたら、中絶ストップ政策が原因かもと言われてもいる)、、、、←加筆11月5日。
そうなると、メディア嫌いなトランプが、もし選挙に勝ち続け、盾に取り3期続いたら? 実際、こういう映画のような事態になる可能性もあるかもしれない。
マスメディアの信頼性はすでに、一部の失われている。国民をまとめる力が失われている。アメリカはアメリカの建国精神さえも失われているのかもしれない。
ではそういう失われている世界へ、ガーラント監督は何をもたらしたいのか?
ガーランと監督の一番憂慮する場所がアメリカ。ちなみに彼はイギリス人、イギリスもかなりひどい状態だからこそ描けない? (あるいはマスコミがまだ機能していると信じてる?)
この上のインタビューにあるように党派性(本来は左翼の意味だけど、ここではおそらく左翼と、右翼も)が強すぎるアメリカの政治が社会に及ぼす影響の結末を警告として描きたかったのかもしれない。
実際、主要政党が、二大政党しかないアメリカの世界観は、かなりヤバい。
人々は、私は民主党員、私は共和党よと、どちらかの政党の支持者であり、
自分と違う政党の支持者とは家族でも政治的議論さえしない。
(もっとも議論をしないのが当たり前の日本とはそもそもが違う)
あなたは右で、私は左。
自分は正義、あいつは敵。
こちらの考えは正当、あちらの考えは陰謀
この二つの対立関係の中に間はない!
そして昔のヒーローものが、映画の中では減ったとはいえ、まだ政治の社会では生きている。勝った負けたの世界である。
ヨーロッパのような連立などもってのほかの政治システムなのだ。これ、オランダのような小国で連立政党が当たり前のシステムにいる私からはっきり言わせてもらうと、民主主義とはいえない。
勝った方が好き勝手する世界である。
二大政党=二元論の社会?
とつい私などは考えてしまう。
その先にあるのは、このような映画のような地獄であるのは想像さえできる。
ジャーナリストが取材になかなか行けない時代、メディアよ、もっと頑張れ!
リアルさのもう一つはジャーナリストたちがロイターの記者たちであること。
今や欧米諸国のメディア王座が通信社のロイター。ロイターは予算がある(!)のでロイターと契約しているジャーナリストだけが、色々な地を取材することができる。(フリーで頑張る人も時にはいる……)もっとはっきり言ってしまうと、他の通信社にお金がなさすぎて、戦争などには戦争などには記者を派遣出来ないので、もう2024年の状態で、西欧諸国、日本や、オランダなどの国々の大手メディアはロイターからの記事や写真を買い翻訳し、自国の新聞に載せるという世界の仕組みになっている。
グローバリズムが叫ばれた頃からこうなってしまっているのである。
と、これが現在の西欧の通信業界や、メディアの残念な現実。
西欧諸国の大手新聞が同じ話を違う言語で世界情勢を語る世の中になってしまっているのだ。
ちなみに欧米以外の国だったらカタールが本拠地の、アルジャジーラ (カータル中心)がメディアの中心である。こちらの信念は「一つの意見があれば、もう一つの意見がある(the one opinion and the other opinion)」。
ジャーナリストは実際最も危険な現地に行って記者の仕事をしてくれ、と監督はインタビューで語る。父親がジャーナリストだったのでジャーナリストに希望を託しているらしい。
確かにその通りだが、上に書いたようにそれでは、そのほかのジャーナリストの予算はどこから? ここが大きな問題。
それでも、机の上だけで仕事をして、戦争ジャーナリストを名乗る人が多い世の中、ロイター、アルジャジーラだろうが、危険を犯して戦地に行く人は、勿論リスペクト。
ただ映画では、このあたりの希望を託すところがメディア、ジャーナリストだけというのが少し残念な気がするのは私だけだろうか。
でも、もう戦争になってしまったらそれしかないのかもしれない。
What kind of American are you? あなたはどんなアメリカ人ですか?
この映画の中での愕然とするシーン。これはあとあと有名なシーンとして語り継がれるに違いないなので特に紹介。
気の狂った兵士が多くの市民を殺し、屍を前に怯えてるジェシーや、他のジャーナリストに、引き金を引いて聞く。『あなたはどんななアメリカ人ですか』と。この時、白人のジャーナリストは、なんとか難を逃れたが、香港人ジャーナリストたち、彼らの友達はパンパンと撃たれて死ぬ。
ここが特にアジア人の私には一番堪えたシーン。私がその場にいたら、殺されているのだ。敵がよくわからない、この理不尽ばかりの戦争で、唯一はっきり出てくるこの人種差別野郎に……。
この兵士の質問と、その根底にある分裂と移民への悪者扱いへの衝動こそが、ガーランドにこの映画、米国の崩壊を創らせたんだと思う。
やるせ無い気持ちの結末だけど
ハリウッド映画の多くは、全世界へ向かってwarning でもしているのかと気にする人が多い。世界の人々が感じてる現実世界から未来への警告へのタイミングが良すぎるからだ。実際、監督はそれを狙って作ったと話している。
普段見ている学園ものや、ミステリーから離れて、この映画のジャーナリストたちと共に戦争を擬体験するのはどうだろうか? そこからあなたの日常は変化するのではないか?
この映画を見て、少しでも世界の一つのリアルさに触れてほしいと切に願う。
キューバ危機以来の核戦争を恐れているオランダからKeiko Bでした!