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ECサイトのUX担当が見るHondaの顧客ロイヤル化施策【前編】

ECサイトのUX担当として日々いろいろな企業の戦略を見ていることが多いですが、顧客体験という目線から本田技研工業株式会社(以後、Honda)の販売戦略が少し面白く見えたのでその考察をまとめてみようと思います。

Hondaについて

Hondaは1946年に「本田技術研究所」として発足した日本の車メーカー。モータースポーツに積極的で車やバイクのブランドイメージが強い同社ですが、芝刈機から航空機まで発動機を中心に様々なプロダクト手掛け、他の車メーカーとは一線を画する企業です。
例えばNSXやタイプRシリーズなど、エポックメイキング的な車から、フィットやN-BOXといったファミリーカーまで多種多様な車を開発・販売しています。

車離れとHonda

車好きな私としては「車離れ」という表現に違和感を感じることも多いですが、公共交通機関やシェアリングが発達した世の中では避けて通れない車メーカーの大きな課題だと思います。
Hondaのラインアップからスポーツカーが消滅した時には、元々スポーツ志向なブランドイメージが強かった事もあり、「終わった」などと言われることもあった様です。
そんなHondaは2011年、全く新しいコンセプトの車をリリースしました。

Nシリーズの登場

New Next Nippon Norimonoというキャッチコピーと共に、プラットフォームを一新した軽自動車「Nシリーズ」を発表。
最初に登場したのは「軽スーパーハイトワゴン」カテゴリの「N-BOX」でした。

発表当初はまたファミリーカーが出たと揶揄する声もありましたが、そんなことはどこ吹く風。
販売台数100万台をHonda車(4輪車)史上最速で達成、一気に看板車種まで登り詰めました。

N-BOXが売れた理由

N-BOX発表以前のHondaは軽自動車に強いメーカーではありませんでした。
ここからは、特に競争の激しい「軽スーパーハイトワゴン」のカテゴリで売れるために、N-BOXに施された3つの仕掛けを考察していきます。

1.強者を崩すコンセプト
軽自動車には車体サイズやエンジンに制限があり、各メーカーが同じ条件の元で開発を行うことになります。
HondaはN-BOXの開発に全く畑の違う「レーシングカー」のチームを起用しました。レーシングカーの開発にも厳しい制限が定められているので、的確に勝つためには様々な工夫が必要になります。
レースで勝つための他者を出し抜く考え方と、畑違いのチームだからこそできる軽自動車の当たり前を崩し、市場の評価を得る新しいコンセプトを作り上げることで、N-BOXは販売台数No.1を獲得するに至りました。

2.ミニバンにも劣らない顧客体験を生み出すパッケージング
1台の車を構成する部品は3万点とも言われ、メーカーはこの数多くの部品を最適にパッケージングする事で多岐に渡る車種を開発しています。
N-BOXも「軽スーパーハイトワゴン」を求めるユーザーのニーズを分析した結果、軽でありながらHondaのステップワゴンやトヨタのノア・ヴォクシーといったミニバンに劣っていると感じさせないパッケージングを目指しています。
街中での発進時の力強さに主眼を置いた新開発のエンジン、ミニバンを意識したフロントマスクやメッキで加飾された装備品などのデザインや、道路上でミニバンの横に並んだ時に劣った印象を与えない様に、ドライバーの視点を引き上げるなど、車の顧客体験において全方位で工夫が凝らされています。

3.見当違いにも思えたマーケティング
ミニバンい劣らないパッケージングを手に入れたN-BOXのマーケティングは、従来の若年層だけでなく、子育てを終えてミニバンのような大きな車が不要になった層にも向けられました。
当時のTVCMでは「Hondaのレーシング技術を詰め込んだDOHC VTECエンジン」というナレーションともにエンジンが映し出され、昔の車好きを狙ったような内容でした。ここでも、今までの軽自動車とは方向性の異なるマーケティングが行われた結果、軽自動車を積極的に選ばない「比較的高めの年齢層」にも支持され、その販路を拡大していきました。

N-BOXという集客から始まる中長期戦略

市場環境と競合の動向を的確に捉え、勝算のある道を的確に走り続けてきたN-BOX。2017年に登場した2代目もそのパッケージング力でNo.1の立ち位置を守り続けています。

しかし、車の中でも比較的単価の低い軽自動車が売れ続けることは、利益確保の面からあまり好ましい状態とは言えないかもしれません。
今後のHondaはN-BOXで獲得した多くの顧客を手放す事なく、次の車に乗り継いでもらう必要があります。

後編では2015年頃より導入された安全運転支援システム「Honda SENSING」を中心に「顧客のロイヤル化」へ動き出したHondaを考察していきます。

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