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英⇔日通訳の頭の中(2)

あぶなかった。10日連続更新を喜んだ矢先に終わってしまう所でした。

通訳者の訳出中の頭の中がどうなっているかという話の続きです。他のどの仕事をしている時とも、明らかに頭の使い方が違うと感じていたので、言語化してみようと思います。

通訳に必要なのは言語スキルだけではない

何年も前ですが、半年ほど駐在員の通訳として働いていました。サポートしていたのは生産管理や生産技術に関わる部門の方々です。それまでにも製造業の会社で働いたことはあったのですが、完全なる事務方だった私にとって、製造工程の知識、トヨタ生産方式にまつわる工場内用語、その企業独特の言葉などは全く初めての事だらけでした。

最初の2週間くらいは「こんなにダメダメでは明日こそクビになる…」と思いながら毎日半泣きで帰宅し、参考書と辞書と日中取ったメモにかじりついて必死で勉強していました。自分の中ではかなり切羽詰まっていましたが、この仕事を通して英語を話す力が飛躍的に伸びた実感があるので、今となっては良い思い出です。

「聞く→理解する→話す」シンプル構造の逐次通訳

基本的な仕事は逐次通訳で、日英どちらかの話者がある程度の分量を話し終わったら一旦間をおき、私がその間にもう片方の言語に訳す、終わればまた一方が話し始めるというものです。これは、話を聞いて理解する→違う言語で同じ内容を話すという繰り返しなので、頭の使い方としてはそれほど複雑ではないと思います。

ただ、ポーズを置くまでの話す分量はスピーカー次第なので、あまりに分量が多いと訳出中にド忘れしそうになるという難しさはあります。メモを取ったり、事前にこの程度の長さなら大丈夫、というすり合わせをします。

どうしても理解できなかった部分があれば聞き返すこともできるし(基本的には通訳は黒子なので聞き返さないように努める)、その場の双方の表情から話が伝わっていないと思えば、補足気味に話すこともできます。

多重放送でカオス状態の同時通訳

問題は、どちらかの言語話者が一方的に話し、訳す間が置かれない同時通訳の時。私の訳を確認してから次の会話がスタートする逐次通訳とは違い、会話がどんどん流れていきます。

私の場合は、こんな感じで頭の中にそれぞれの役割に特化したチャンネルがいくつも現れて、チャンネルを切り替えながら訳を作っていくという作業でした(日→英の場合)。イメージとしては、何台ものテレビカメラが色んな角度から一つの場面を撮影していて、どのカメラに切替えるかを選ぶスイッチャー卓が頭の中にある感じです。

【同時に処理している事】
Ch1: スピーカーの日本語を聞く
Ch2: リスナー用の英語を話す
Ch3: Ch2が稼働中にCh1の日本語を機械的に記録しておいて、訳出が終わったところで遅れて再生する
Ch4: 校正専用(自分が話したリスナー用の英語を聞いていておかしなところがなかったかチェック)
Ch5:自分の理解用(日本語で曖昧な部分を整理したり、数字を処理したり)
Ch6:本人の感覚(くしゃみが出そう…とか、発表者のクセが気になる…とか)

Ch1~6はすべて同時進行しながら、どのチャンネルにスイッチするかを都度切り替えています。主にCh2とCh3を切り替えながら使っていて、訳が追い付けばCh1から再スタート、Ch4は何となくBGMみたいに流れている感じ、Ch5があまりに頻繁に出てくると訳出が破綻します。スピーカーよ、早く喋るのやめてくれ!と思う。そしてCh6が出てきたら速攻で意識の外へ追いやる。集中集中!

という事で、この状態が15分も続くとめちゃくちゃ疲れますが、一旦「ゾーン」に入るともう無の境地で、ほぼ自動的に口から勝手に訳が出てきます。逐次通訳とは違い、そこにあまり自分の意識は介在していません。

同時通訳で話した内容は一切覚えていません!

逐次通訳の方では、会話の内容を理解し一旦覚えているので後からでも思い出せるのですが、同時通訳中は作業メモリがフル稼働状態で機械的に訳しているので、ほぼ内容は覚えていません。

同時通訳で一番怖いのは「訳が止まること」です。訳出した文が全く意味不明とか完全に間違っているとかは最低限避けるとしても、多少の文法間違いや、もっといい単語があったはず、なんて事に気を取られているとスピーカーに置いて行かれて言葉が出てこなくなってしまいます。すると、スピーカーは話しているのにリスナーには何も聞こえてこないという状態になり、「何か訳せないようなマズい話か!?」と心配されてしまうし、通訳者への信頼も揺らいでしまいます。

瞬発力と、一旦口から出てしまったら取り戻せないという諦め、既に組み立ててしまった文章からでも何とか意味が取れるレベルにリカバリーできる語彙力が必要です。

という所で、久々にやってみようと思ってYouTubeの動画で英→日を試してみたけれど、5分と持たなかった…。やはり毎日の訓練が必要なのですね。

こうやって振り返ると、英語学習に関しては結構色んな事を考えながら少しずつスキルを伸ばしてきたんだな、と実感してきました。どこにも記録してこなかったので、学習の中で思ったことも、いずれ自分の覚えとして書いていきたいと思います。

明日の通訳仕事、うまくいくように練習しないとな。

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