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足下

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【試し読み】灰都ロヅメイグの夜 2:我等が故郷

【試し読み】灰都ロヅメイグの夜 2:我等が故郷

承前

2:我らが故郷 無数の寺院、神殿、学院、書庫、大劇場、賭場、工房、地下大墳墓、坑道、貧民窟、伏せ目の辻、教団、殺害者ギルド、陰謀団、金銀、宝石、財宝、剣、弓銃、銃、蒸気鉄車……神秘と欲望の香り漂うあらゆるものが灰都で作り出され、編み出されている。だが、その多くが巨大都市直下の遙か地底にて、絶える間もなく行われる大規模な発掘作業による成果であると云われ、少なくともこの数世紀の間、ロヅメイグに

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灰都ロヅメイグの夜 3:斜陽の剣士達

灰都ロヅメイグの夜 3:斜陽の剣士達

【承前】

 廃屋の二階、ロー・ロクムの鍛錬場は、少なく見積もっても五十人の剣士がその技を磨くだけでなく、炊事その他を賄うに十分な広さを有している。そして、かような夜更けにあってもなお、十人からの剣士が其処に在った。もっとも、そのうち高位に属する数名は、窓際のテーブルを囲んで、フォウス酒とポーカーを愉しんでいるのであるからして、剣技の鍛錬に励むは僅か四人となるのだが。

 剣技の鍛錬を行う四人のう

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灰都ロヅメイグの夜 5:ゼウドの見る夢

灰都ロヅメイグの夜 5:ゼウドの見る夢

【承前】

「喋る豚の神託亭」の太っちょ主人、ロッコの窯焼きポルツォは絶品だ。八種の秘密の香味を、竈で滴る極上の豚脂にまんべんなく溶け込ませ、種々の野菜と煮詰めて、歯応えの利いた狐色のドゥラム・ポルツォに乗せて頬張り、安上がりな天国の味を存分に味わった後は、スタウトで一気に流し去って次のポルツォへ。中毒性の高いこの儀式は、およそ銅貨の続く限り、永遠に続けることが可能だった。客の入りは上々で、どこか

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灰都ロヅメイグの夜 6:竜の舞う夕暮れ

灰都ロヅメイグの夜 6:竜の舞う夕暮れ

【承前】

 不安と焦燥に胸を軋ませながら、跳ね上げ扉を押し開け、秘密の隠し部屋を抜け出した幼きグリンザールは、無惨にも崩れ去った修道院の瓦礫の中で進退ままならず佇み、夕暮れの天を仰いだ。

 竜だ。蒼白く輝く三日月の瞳。地獄の顎。燃え上がる世界を、暗黒の竜が舞っている。無数の鉤爪そなえた四対の脚は丘の巨木よりもなお太く長く、てらてらと輝く蝙蝠めいた四対の翼は村全てを包み隠しかねぬと思われる程。口

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灰都ロヅメイグの夜 7:月の裏の猫

灰都ロヅメイグの夜 7:月の裏の猫

【承前】

 常人ならば卒倒する程のスタウト酒を煽ったゼウドであったが、ものともせず、神託亭からさらに二軒を渡り歩いた。そこで流石に金も尽き果てたので、黒い象牙亭への帰途につく事とした。

 夜風を浴びながら、人通りのまばらになった街路橋を歩んだ。

 だが、進む足音は一つでは無かった。メリサもまた、彼と共に在った。そのままどこぞの宿にしけ込む手もあったが、ゼウドは心の何処かで、あの隻腕剣士の事を

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灰都ロヅメイグの夜 9:灰都ロヅメイグの夜

灰都ロヅメイグの夜 9:灰都ロヅメイグの夜

【承前】

 奈落の痕跡は、最早残っては居なかった。人間の死体の一部と、血の染みが、ただ残されているだけであった。いずれにせよ、グリンザールにはこの状況をどうする術も無い。速やかに立ち去るのみだ。

 荷をまとめる段階になって、ゼウドのそれを如何にすべきか、とグリンザールは思案した。

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ダーク・ゴシック・ヒロイック・ファンタジ小説「灰都ロヅメイグの夜」販売開始しました

ダーク・ゴシック・ヒロイック・ファンタジ小説「灰都ロヅメイグの夜」販売開始しました

杉ライカによるダーク・ゴシック・ヒロイック・ファンタジ小説「灰都ロヅメイグの夜」は、DHTクラシックス作品のひとつであり、このマガジンには2000年頃の公開当時のバージョンが収録されています。

https://note.mu/diehardtales/m/m09f269f45046

1:霧と酩酊
2:我等が故郷
3:斜陽の剣士達
4:黒い象牙亭
5:ゼウドの見る夢
6:竜の舞う夕暮れ
7:月の

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