グラミー賞はどう選ばれてるの?投票メンバーの役割とかのあれこれ
世界最大って言っちゃっても過言ではないと思われる、アメリカのRecording Academy主催のグラミー賞。日本でも有名なイベントだと思うんですがTV中継とかされるんですかね?日本人がノミネートされたりするとYahoo!ニュースになったりするの、よく見るのでスカパーとかでやってたりするのかな?
そのグラミー賞を選ぶ「Voting Member」というのをやってまして、せっかくなので、いったいグラミー賞とはなんなのか、どうやってノミネートされてどうやって受賞者が決まっていくのか… などを簡単に書いてみようと思います。
なにか「ここをもっと詳しく説明しろ!」ってところがあったらコメントで教えてもらえたら、また書きます。
グラミー賞とは?
そもそもグラミー賞って、華やかなセレモニーでセレブがトロフィー持って「すべての人に感謝したいです。」みたいなスピーチしてるイメージしかないと思うんですよね、正直。僕もそうでした。音楽の仕事し出してからもしばらく。
ちょっとひねくれた見方をすると、【メジャーレーベルのお金持ちセレブたちがお互いを褒め合う出来レース】ぐらいの感覚でした。
そもそも、この賞はいったいなんなのか、誰に受賞の権利があって、誰が選んでいて、受賞者は何のメリットがあるのかをみていってみましょう。
まず、グラミー賞を主宰しているのはThe Recording Academyというアメリカの団体。
音楽業界の仕事人たちが集まって1950年代に作られた団体で、ざっというと「音楽業界を盛り上げていこう、いろいろ知ってもらおう!」という活動をしている団体です。
ボクはThe Producers and Engineers WingのNew York Chapterに所属しているんですが、そのほかにもNashvilleとかLos Angelsとかいろんなチャプターが全米にあって、表に立つアーティストから、裏方のプロデューサー・エンジニア・ミキサーや、レコードレーベルのお偉いさんたちまで、音楽業界のいろんな職種の人たちが関わっています。
で、そのThe Recording Academyの「知ってもらおう!」活動の1つで一番派手なのがグラミー賞というわけなんです。
それ以外にも、グラミーミュージアムをしたり、Grammy Uっていう音楽教育の方にも力を入れてたりするんですが、あんまり表からは見えてないですよね… ボクが働いてるバークリー音楽院もGrammy Uにはだいぶ絡んでます。
グラミー賞の大義名分をわかりやすくいうと、今年もみんな頑張って音楽作ったね!大ヒットしたものからマニアックなものまで、賞を作って盛り上げていこう!というところです。
でもノミネートされたり受賞したりっていうのはどうやって決まってるんでしょうかね?
だれが選んでるの?
冒頭にもかきましたが、誰がどう選んでいるのかがわからないから(それはどの賞レースでも似たようなものだと思うんですが…)セレブたちの馴れ合い感が強い…
でも、実際はそんなことばかりでもなくて、まぁまぁ厳選な投票手順によって選ばれてます。ピラミッドの最下部にいるボクから見える限りでは…ですが。
毎年9月頭から8月末までを1年として、その間に商業リリースされたありとあらゆる音楽が賞の対象になってまして、いっちばん最初の段階として、その中からノミネートする作品を選ぶプロセスがあります。
ここが1番の難関。だって、丸々1年でリリースされた音楽なんて、スタンダードなものから変なものまで、売れたものから全然誰も知らないものまで腐る程あるじゃないですか。その中から1作品を選ぶプロセス…気が遠くなります。
まず最初のステップは、ノミネートされる作品(カテゴリーによって数はちがいますが)の投票作業です。その為のリストに「立候補・推薦」する音楽作品を選ぶところから始まります。これが9月の終わりぐらいですね。だから、2月の本ちゃんの半年前にはもう賞を決めるプロセスが始まっているという…
結構大掛かりでしょ?
で、ここで重要になってくるのが、グラミーのメンバーたち。いろいろなレベルがあるのですが、投票メンバーから上の集団が、自分たちが「これはいい!」と思ったものを推薦するんです。メンバーには自分で音楽をリリースしてる人もたくさんいるので「立候補」って形にもなったり。
ここで立候補・推薦された何千もの曲たちを、われわれ投票メンバーが粛々と聞いて選んで投票して…という作業をくりかえすんですね。
この作業、ある意味フルマラソンよりつらい…
何千曲も頭おかしくならずに聞いて投票なんてできないから… なので、いくつかのカテゴリーから主要カテゴリーと、それに加えて5つのカテゴリーで投票するんですね。だから、トータルで聞く音楽は2千曲ぐらいに抑えられる。ま、それでもキッツイ量です。
なので、ここはどうしても知ってる名前とか、聞いたことのある曲を優先しちゃう人が多いんじゃないかな… そこが、有名アーティストの有名曲がほとんどになる理由かと。
あ、あとはお金の問題もあります。
大きいレーベルは、ここぞとばかりに「うちの会社の〇〇に清き一票を!」って選挙活動を始めるんですよね。投票メンバーにはBillboardっていう雑誌のグラミー版が送られてくる。
昔、雑誌の付録とかでついてた青とか赤の半透明でペラッペラのレコードあるじゃないですか。今年はDua Lipaが猛プッシュされてて、彼女の曲が、雑誌の付録で青半透明のレコードで「投票してね❤️」って書き込み付きで入ってました。
一応ネット上で投票するんですが、Voting Memberはネット上の「投票所」に入る前に規約にサインします。ノミニーリストに入っている人のコンサートに招待されても、チケットはちゃんとお金出して買ってくださいね。とか。
賄賂・贈賄のところに引っかかってくるんですね。
どれだけ守られているのかはわからないけど、まぁまぁ厳しい言葉では書いてあります。
投票の時に考えることとか、難しさなんかはまた別の記事で書きますね。だんだん政治問題とかも関わってくるので大変なんです。
noteと連動してポッドキャストもしてます。ここに書き切れなかったことを喋ってるので、こちらもどうぞ。
氷山の全体を見て欲しい
グラミー賞はジャンルとかでカテゴリー分けされてます。
ヒップホップアーティストとクラシックのカルテットをどっちがいいかって比べても答えは出ないので、そこは分けましょうよってコトなんですね。
ここで問題が。カテゴリー分けすぎちゃって、100ぐらい(数はもうよくわかんないです…)あるんですよね。細かいところは省きますが、Wikiでみてみてください。
カテゴリー、どんどん増えるし。
音楽の多様化っていう背景もあるんだけど、よりコアなカテゴリーを作って、その枠に入る音楽を少なくすれば受賞の可能性が上がる!っていう政治的な面もあるので、これがまたややこしい。
2年前かな?にできた「今年最高だった音楽教育者」カテゴリーなんかは業界の底上げとしてもすごくいいと思うんですけど、「???」ってのもいくつか。
色々いうと角が立つのでこの辺にしておきますが、結構カオスです。
まぁでもこういう機会じゃないと、裏方はスポットライトが当たる機会って少ないんで、そこにライトを当てる重要カテゴリーもたくさんたくさんあるので誤解なきよう。
なので、THE主要カテゴリーの
*Album of the Year
*Record of the Year
*Song of the Year
*Best New Artist
だけを見ずに、他のカテゴリーもチェックしてみてください。
ここで、今年のカテゴリー別ノミニーリストが全部見られるので、ふわーっと覗いてみると面白いと思いますよ。
おすすめの楽しみ方法は、自分なりの「これはちょっと興味ある!」ってカテゴリーと「は?なんだこれ?」ってカテゴリーをピックして、その受賞者をあとでググってみるっていう遊び。新しい音楽の発掘にもなるからボクも毎回やってます。
裏方のクレジットの話
長くなりそうなんで別記事で書こうとは思ってるんですが、音楽制作の裏方の1人として、お金の支払いがあるかとかは当たり前のことなので無視するとして、リリースされた楽曲にちゃんとクレジットしてくれているかどうかっていうのはすごく大きい問題なんですよね。
魂込めて制作の結構主要なパートを担ってるのに、名前のイニシャルすら載ってないとがっかり。
ボクの場合は仕事始めの契約書にまぁまぁがっつり「クレジットはこういった形で載せてください」って入れちゃってますが、それを言えない人もたくさんいるんだろうなぁ。
Allmusicとか、クレジットが載ってるデータベースがあったり、Tidalみたいにストリーミングサービスがちゃんとクレジットを集めてくれようとしているところも出始めたんですが、やっぱり氷山の一角しかカバーされてないんですよね。
IMDBとかDiscogsみたいにWiki方式で個々がアップロードしていける、且信頼のおけるデータベースがあったらいいんですが… この「信頼」ってのが今のままだと無理な話なんですよね。
だって、「Dua Lipaが使ったスタジオを掃除したから、おれ、スタッフじゃん。編集して自分の名前入れとこ。」って思った人が自分でアップしちゃったら「いやいや…」ってなるし。
これに関しては著作権とかクレジットとかをブロックチェーンでトレースできるように…っていう動きも出始めてきてるので、近い将来できるんじゃないかなとは思います。
あ、日本にはAllmusicみたいなサービスすらないので、どなたか詳しい方、作ってください🙇♂️
2021グラミー授賞式
今年は、音楽業界も含めたエンターテイメント界隈がコロナに思いっきりやられているので、2月に予定されていたグラミー賞授賞式も延期になっちゃいました。
第64回の今回は3月14日のアメリカ西海岸時間の午後6時、日本時間だと午前11時に行われます。
ネットでもレッドカーペットカメラとか見られるんで、なにかしら覗いてみてください。
あと、クラブハウスで生視聴&解説部屋を立ち上げたんで、興味ある&アカウントある人はお気軽にどうぞ。
追加情報:メンバーになるには?
よく聞かれるんで、最後にひとつ。メンバーになるのは、アメリカで音楽活動していればそこまで大変じゃないです、実は。
現メンバー2人からの推薦と、商業リリースされた音源(自分のでも、関わったものでも)があれば。最近はセルフリリースでSpotifyとかApple Musicにも比較的簡単に出せるんで、ね。
なので、興味がある方はこちらもどうぞ。
初めにも書きましたが、「もっとここを詳しく教えろ!」とか、「ここ、違うし!」というところがあったらぜひコメントでお知らせください。
また記事にするかもしれないし、しないかもしれないし。
と、音楽制作の合間に書いてみました。
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