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「シンプルだけど奥が深い」について考える

ゲーム企画の仕事をしていた身としていつも思うのは、ゲームの最大の弱点は「ルールを覚えるのがしんどい」ということである。

家庭用ゲームであれ、ソーシャルゲームであれ、ボードゲームであれ、ゲームを楽しむためにはルールを覚えなければならない。

ルールを覚える時間は、はっきり言って全然楽しくない。

一般的に、ゲームの開発者はゲームが好きで、ユーザーに長い時間を使ってゲームを楽しんでほしいと考えている人が多い。なのであれもこれもとゲームに色々な要素を詰め込みがちである。

結果として、複雑なルールを持った、わかりにくいゲームが完成する。

こういうゲームは、遊びこむと奥が深くて面白いものの、その内容の複雑さにより、チュートリアルの段階で大量のユーザーが離脱する。結果としてコアユーザーだけが残って衰退するという悲しい末路をたどる。

それでは逆に、ルールを削ぎ落として、わかりやすいゲームを作ろうとするとどうなるかというと、要素が少ない、すぐに飽きられるゲームになってしまうことが多い。これはこれでゲームとしては失格である。

このように、ゲームのルールをわかりやすくすることと、ゲームを奥深くすることは、トレードオフの関係になることが多い。

だが、世の中には例外的にシンプルなのに奥が深いゲームが存在する。

ルールがすっと頭に入ってくるのに、遊べば遊ぶほど奥の深さに気付かされる、そんなタイプのゲームである。

この文章を読んでくれている皆さんの頭の中にも、いくつかゲームのタイトルが浮かんだかもしれない。

ゲーム作りを部屋の整理で例えてみる

わかりやすくて奥が深いゲームとは、どういうものなのか。

これを説明するために、まず上に書いた2種類の典型的なゲームを[部屋に例えてみる。

複雑で奥深いゲーム
部屋の中に、自分が好きな雑貨やら家具やら本やらをどんどん置かれ、ごちゃごちゃした状態。楽しいは楽しいのだが、何がどこにあるかわからない。足を引っ掛けて転んだり、雪崩が起きたりしてストレスが溜まる。

わかりやすくて飽きやすいゲーム
一大決心をして、ミニマリストになるべく部屋の断捨離を終えた状態。こんまりの本を読んで、ときめかないアイテムをどんどん捨てた結果、部屋の物が格段に減って、とてもすっきりとした気分になったが、ずっと住むにはちょっと味気ない。

それでは、本当に心地よい部屋とはなにか。それは、楽しいものがたくさんあるのに、それらが整理整頓されているので、全体の見通しがきく部屋なのだ。

ゲームも同様で、複雑なルールが綺麗に整理されているゲームというのは、わかりやすくて奥が深いものになる。

ストレスなく遊びに入ることができるにも関わらず、色々な要素が詰め込まれているので、遊ぶほどに発見があり、いつまでも遊びたくなる。

こういうゲームを開発するコツは、概念的にはいくつか提唱されているのだけれど、いざ実際に作ってみると非常に難しい。

ルールを出したり引っ込めたり、いじったり捨て去ったり、場所を変えたり、まとめたり、減らしたりなど、かなりの試行錯誤と、そしてそれに伴う忍耐が必要となる。

残念ながら、自分の企画人生では、こういうゲームを作れたことは終ぞなく、今はちょっと矛先を変えて、シナリオの仕事に就いてしまっている。

だが、「わかりやすくて奥が深い」というのは、すべてのエンタメに適用できる究極の目標だとも思う。いつかシナリオでもこの構造を実現したいと、密かに野望に燃えていたりもする。

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