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『 日本を変えるぞ。』ーAge Factory最高傑作【GOLD】に寄せて【音楽文移植その6】

午後7時44分。
いつもより随分仕事を早く切り上げて、少し冷えた秋風の中帰路に着く。そんな時、ふとある事を思い出した私は自転車の進路を変え街中に向かう。
財布の中にはクレジットカードのキャッシュローンでATMから下ろした1万円。これが私の残り10日の全財産。
数日前まで小銭しか入っていなかった。金なら手に入った。それなら、あのアルバムが買えるじゃないか!

地元のCDショップに飛び込んだのは閉店5分前。馴染みの女性店員さんは、嫌な顔1つせずアルバムを探して来てくれた。満面の笑顔で礼を言い、CDを鞄に入れ自転車を飛ばす。早く、少しでも早く。

こんなにCDを聴く事に焦がれたのはいつぶりだろうか。高校生の頃、当時大好きだったバンドのシングルを発売当日の部活帰りに買いに走った事を思い出す。過疎の進む私の故郷には、当時駆け込んだタワーレコードはもうない。
それでも、私が今感じる逸る鼓動は、確かに当時の温度そのものだ。家に着いた瞬間、晩飯を食う事も忘れ、埃を被ったCDプレイヤーに金色に輝く円盤をぶち込んだ。

《輝き出した 太陽の様な夜が
輝き出した 落ちて来たんだ空が

誰かが呼んだ 本当の名を叫んだ
燃え出した脳が 翼を広げ飛んだ

I get the "GOLD"
無限より高く》
ーGOLD/Age Factory より

凛と響く清水エイスケの声が空気を裂く。
先行配信されたMVを再生した瞬間、全身に鳥肌が立った。
とんでもねぇモノを創った、と思った。
この人たちは、本気で世界を変える気だ。

Age Factoryというバンドを明確に認識したのは、彼等が初めて私の地元に来てくれた時だ。
今思えばとても光栄な事で、私の所属するバンドの主催イベント、その初回のゲストとしての来訪だった。
初めて見た彼等のライブは、その時既に脳天をかち割るには充分な熱量だった。数年後、同じライブハウスに戻って来てくれた時、私達を覚えていてくれた事すらもとても嬉しく、彼等の音楽について行こうという決意を新たにしたのが約1年前の話。

エモい、という言葉はあまり好きではない。現代の音楽シーンにおいて、ヤバい、ぐらいの意味合いしか持たない陳腐な表現に成り果てた言葉。
彼等の今作は、エモい、という言葉からは限りなく遠い。そんな陳腐な表現をぶん殴る、これはもはやエモーショナルが実体化した音楽である。
人の心を最も動かす感情は、悔しさか怒りのどちらかだと思っている。"GOLD"や"WORLD IS MINE"、"HUNGRY/猿"などの曲に象徴される轟音と疾走感はまさにその感情に拠る衝動で構成されている。

一方でアルバムの後半に向かうに連れ、"Moony"、"million"、そして終焉を飾る"TONBO"には哀愁にも似た刹那さ、そして多幸感が溢れ出しているように見える。それは同時に、時代を、日本を変えると豪語する彼等の自信そのものなのかもしれない。

「先輩は、他人を変えようとしないですよね」
と、職場の後輩に言われた事がある。思わずぎくりとした。
私は、他人を変える事は出来ないと思っている。なぜなら、私自身が変わる事の出来ない人間だから。
他人と環境を変える事は出来ない、変えられるのは自分だけ。
仕事を始めて、耳にたこが出来るほど教えられた言葉だ。
それでも私は、変われなかった。人を、変えられる程の、人間に、変わる事はできなかった。

きっと私は、これから先の人生も、自分を変える事はなかなか出来ないだろう。自分の弱さに勝てない、プライドの高さに勝てない。自分自身が、変わる事が、出来ない。
変わろうと、変わりたいと思い、その度に、変われない自分が悔しくなり、変われない自分に怒り、変われない自分が嫌になっていく。いつしか、変えようとする事を無駄だと思うようになる。人を変える事もしなくなる。だって、何も変わらないのだから。何も、変えられないのだから。
これまで幾千、幾万と経験してきた感情は、それこそきっと、何も変わらない。

世界を己の手で変える、と。
高らかに叫ぶ彼等の歌は、変われない己に打ち勝った人間の音楽だ。
変わりたいと、闘い続けていれば。
何時かは変われるのだろうか。
時代を変える、と。日本を変える、と。
誰かを変えられる、強い自分に成れるのだろうか。

彼等の叫びの中で思わず涙が溢れたのは、きっと私がそう望んでいるからだ。
変わりたいと、望むからだ。
変化に伴う痛みも苦しみも、悔しさも怒りも、全て拳の中に詰め込んで、時代を変えようとする彼等の背中に、追い縋りたいからだ。
だからこそ、彼等の鬼気迫る轟音に魅せられ続けているのだと思う。彼等の音楽と一緒なら、変えられなかった自分を、何時か変える事が出来るかもしれない。彼等と同じように、誰かを変えられる人間に、成れるかもしれない。

【GOLD】というアルバムの最高傑作たる所以は、自身の変化に対する葛藤と闘う人間そのものを体現した所にある。
今この瞬間も増え続けている、Age Factoryと言うバンドに拳を挙げる無数の人々は、彼等が日本を変える時を、この時代を引っ繰り返す瞬間を、きっと誰よりも待ち侘びている。

《ねぇ終わりをさ
終わりを知っているのに僕たちは
そう、それでも 遠くへ行けると言う

夕焼け燃やした君のあの泣き声を
ごめんねと繰り返す君に何も言えなかった
夕焼け燃やした二人のあのさよならを
忘れないように歌うよ

夕方5時のサイレン もう帰ろうよ
夕方5時のサイレン 鳴り響けば
夕方5時のサイレン もう帰ろうよ
あの日と同じように》
ーTONBO/Age Factory より

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5月ぶりの音楽文から移植シリーズ。Age Factoryの「GOLD」は未だによく聞いています。秋発売のアルバムがこれを越えてくれるんじゃないかと今ちょっと期待しています。

久々に音楽文サイトを覗いたらサ終のお知らせが流れてきて悲しみ……同じようにたくさんの人が嘆いてて、それだけ多くの人が愛していたサービスだったんだなと思ったよ。

音楽のことを書いて表現する、という事の楽しさを教わったのは間違いなくここだったし、余所にもないサービスだったよね。音楽メディアがやるからこそ意味のあるサービスだったと思います。
今ではnoteやはてなブログでも確かに発表はできるけど、見られる数がやっぱり段違いだと思うので。まあお金にはならないでしょうけどね!音楽の文章ってやっぱり収益化はしづらいでしょう!それだけでは食えない音楽ライターが大勢いるのが何よりの証左ですわっはっは。

まあそれでも書く人間はいなくならないよ。そんな生温い自己顕示欲や創作欲で生きてないからねきっとみんな。