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自然の原理に学ぶデザイン 〜世に活かされるバイオミミクリーとは?〜

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はるか、遠い古代の昔から。宙を飛翔する鳥の姿を見て、人間は空を飛ぶことに強い憧れを抱いてきました。あの鳥から見えている景色は、どんなものなのかと。

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人類が生まれて、幾世紀が経ち。本気で挑もうとする人々が現れました。まずレオナルド・ダ・ヴィンチが、鳥が飛行する様を緻密に観察し、羽ばたき機やヘリコプターの原型を考案。次にドイツのリリエンタールが、コウノトリの飛翔を研究し続け、グライダーを自作し2,000回以上の飛行実験を行いました。

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彼らの後を経て、遂にライト兄弟が飛行機を開発させ、1903年に世界初の有人動力飛行(人が乗ることのできる)を成し遂げました。人は常に、生物の模倣からヒントを得て偉業を成し遂げてきた、とも言えます。

近年、「バイオミミック」や「デザイノイド」といった言葉も流行る中。改めて、生物のデザインから学ぶ意義が高まりを見せつつあります。そこで今回の「原点回帰の旅」では、生物研究家にして昆虫食レストラン「ANTCICADA」でインターンをしている、尾関陽多さんから学んでいきます!

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尾関 陽多(おぜき ようた)
1995年、愛知県一宮市生まれ。小学生〜中学生2年生ごろまで田んぼと森に入りびたり昆虫採集に没頭。その後受験や部活等で自然からはしばらく離れるも、大学入学で信州に移住したことをきっかけに昆虫採集に没頭していたありし日々を思い出す。また信州にて昆虫食文化に初めて触れ感銘を受ける。在学中はバックパッカーに憧れ一人旅にも没頭。長期休みを利用してアイスランドをはじめとする4カ国をめぐる。現在は浅草橋にあるゲストハウスの支配人として働く傍、昆虫食レストラン「ANTCICADA」でインターンをしている。

■虫の世界に惹かれていた

「生物」の世界が好きなのには、どんな背景がありますか。

幼稚園や小学生のころから、ひとりでカブトムシを取りに山へ行ったりするのが大好きでした。毛虫とかも素手で触るくらいに......笑 周りが少しずつ成長して大人になっていく中で、だいぶ抵抗感とか抱くようになると思うのですが。僕の場合、その熱はずっと冷めずにいました。

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ただ、受験の勉強などで自然の生活から離れることもあり......。英語が好きだったことから、大学ではそのまま外国語学部に入りました。それはそれで楽しかったのですが、時間が経つにつれて「本当に自分がやりたいことって何だろうな」と思うようになり。英語はあくまで道具であって、それだけをただ勉強するのもな、と。それから勉強し直し、長野県の超田舎にあるような、信州大学に入り直しました。

そこでの日々は......少年の頃を思い出すようでした笑 山でキノコ狩りしていると、「俺そういえばこういうこと好きだったよな」と。自然に触れるうち、ついには昆虫食文化にも初めて巡り合いました。そこで得た感動ともいえるものが、今自分がANTCICADAでインターンをしていることにもつながっています。

■コオロギラーメンのレストランで働く!?

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ここで一言、ANTCICADA(アントシカダ)の説明をすると......。コオロギの出汁を使った「コオロギラーメン」を出しているお店です笑 他にも、カイコだったりイナゴの佃煮だったりとか。あとコオロギビールもメニューありますね。

コンセプトは「地球を愛し、探求するレストラン」。地球上のいろんな生物に「食」から迫ろうという、冒険心に満ちたことをやっていて、その姿勢に魅かれました。東京都内の日本橋地区に店舗を構えているため、ぜひ一度食べに来てください(コオロギラーメン、おいしいですよ)!

■圧倒的な種類の数を誇る、地球上の生き物

地球を愛し、探求するレストラン......!非常におもしろいコンセプトですね。多種多様な生物への強いこだわりを感じます。

「生物」の世界の話に戻すと。そもそも生き物が地球上にどれくらいいるのか、というと、確認された生物種は全体の1割未満だと言われています。それでも180万種くらいはあるのですが、残りの9割は未発見で、名前もついていないのだと......!本当に興味があるのがこの点ですね。まだまだ知られていない生物が、この世の中にはたくさん存在するんだと。ものすごくワクワクさせられます。

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そう見ると、種の視点からも「ヒト」はごくごく小さな生き物。全生物に対して、わずか0.01%しかいない。ハエとか蚊のほうが世界を牛耳ってるのでは、と感じさせられるくらいで.....笑 サンプル数・統計的な数にも限りがある。とすれば、より圧倒的にボリュームのある、他の生物群から学べることって、無尽蔵にあるのではと。種類が多い分、突然変異もたくさん起きてくるし、その多様性から見出せることに、生き残るヒントを得られるのではと思います。

■蜂の巣が、必ずきれいな六角形である理由

他の生物から学べるヒント。例えばどんなものがあるでしょう?

ひとつ例を出してみましょう。蜂の巣って、必ずきれいな六角形で出来上がっているんです。当たり前のような光景として見ていると思うのですが、冷静に考えてみると、なぜその形をしているのでしょうか?六角形が良くて、三角形や四角形がダメな理由とは、一体何なのか?

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結論から言うと、けっこうシンプルです。外周が同じ場合、最も面積が大きいのが六角形になります。つまり.....作るコストが同じでも、蜜の保管量を最大化できるのが、この形だということです。

そのメカニズムは分かっているのですが、どのようにその形を獲得したかという、経路は未だ不明だったりします。ただ、私の考えを話すと.....。かつては三角形以上の多様な種類の巣が存在していたのではないか、と思います。さまざまなデザインが試されていた、ということですね。その中でよりコスパの良いものが選択された結果、六角形のみが生き残った。そんな仮説を抱いています。

他にも「丸を一個一個作っているよりも、壁を合わせていったほうが効率がいいからでは」という説もあったりして。生物の「どうしてこんな形をしているんだろうという疑問に対して、多様な考え方が飛び交うのも、考えていて楽しい点ですね。

■世の中に溢れるハニカム構造(正六角形)

そんな正六角形の構造ですが。まさしく蜂の巣に起源があることにちなみ「ハニカム構造(honeycomb structure)」として、人間の身近な世界でもいろいろと応用されています。

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例えば、衝撃の吸収性に優れているという点で、サッカーゴールのネットにも使われています。軽くて丈夫かつ、できるだけ少ない材料で作れるという利点も。

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同じように、段ボールの構造にも。折り畳めるし、持ち運びが簡単。伸ばしたときに縦に置くと、衝撃にも強かったり。普段日常で意識することがほとんどなくても、身近なところで大きな恩恵を被っていますね。

断熱性や防音性もあるということで。ゆくゆくは家の形にもなり得るのではないか、と言われています。ほんとうに蜂の巣みたいな感じですね.....笑 崩すのも後から付け加えるのも簡単だったり。もしかしたら今後、スタンダードな建築の形にすらなっていくかもしれません。

いずれも、ローコストでハイクオリティ。人間の世界でたくさんハニカム構造が活用されています。このように見てみると.....6角形は必然だったのでは?と思わされます。発生は偶然でも、進化は必然。全ての生き物たち=デザインされたものたち、に共通するのではないかと。

あるひとつのデザインがなぜ今に至るまで生き残ってきたかには、必ず理由がある。それが生物を学ぶ上で、何よりも面白いなと感じますね。

■「デザイノイド」という考え方

ここまで普遍的に用いられていると、もはや神秘性も感じますね。

これがまさに「デザイノイド」という考え方にリンクします。生物学者のリチャード・ドーキンス博士が提示した概念なのですが、一言でいうと「あたかも神様によってデザインされたかのように見える物体・生物」のこと。とはいえそれは、最初から誰かが目的ベースで作り上げたというのではなくて、自然の選択によって最適化されていった結果だということです。非常におもしろい概念なので、ぜひ著書もご参照してみてください。

■「バイオオミクリー」を行う人間

こうした「自然界のデザイン」に学び、模倣をしようというのが「バイオミミクリー(biomimicry)」です。先ほどのハニカム構造から、サッカーネットや段ボール、家を作ろうとした例がそうですね。

1997年、「自然と生体に学ぶバイオミミクリー」を著したジャニン・ベニュス(サイエンスライター)によって提唱されました。

どんな背景があるか、というと。「環境に負担をかけないデザインはいかにあるべきか」と、持続可能性が注目され出したことがあります。近年だとSDGsの声が上がっている追い風もありますね。38億年かけて進化してきた自然の中にこそ、圧倒的な説得力があるんじゃないかと。社会問題の解決手法のひとつとして、大きな可能性を秘めています。

■新幹線は、フクロウとカワセミのおかげで......。

他にはどんな「バイオミミクリー」の例があるでしょう。

例えば、新幹線が挙げられます。考えてみれば、不思議なことがひとつあります。あれほどの重量を持つ巨体が超高速で走っているのに、なぜ比較的静かなのか?と。

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それには、フクロウのバイオミミクリーが生かされています。フクロウは夜行性であり、音を立てることなく獲物(ネズミなど)をパッと獲ることができます。これがなぜなのか研究したところ、羽が特殊な構造でできていることが分かりました。

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この構造を生かして新幹線を作ったところ、大きく消音効果がありました。特にトンネルを通るときの爆音で.....ご近所トラブルが相次いでいた中、何十パーセントと音が小さくなったことで、問題の解決になりました。

もうひとつ新幹線に応用されているのが、カワセミですね。

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カワセミは、水中の獲物を捕らえるために、高いところから飛び降りるのですが。水面に入る際、水しぶきや波音をほとんど立たせず。これを研究するために、顔の形や入水する角度を調べたところ、水抵抗や空気抵抗を減らす工夫が発見されて。

これがそのまま、新幹線へと当てはめられた結果、音も減り空気抵抗も減りました。より早くなる一方で、燃料の節約にもなったとか。空を飛ぶ飛行機だけではなく、地上を走る車体にも、鳥たちのデザインが活かされている、ということですね。

■水着やすりおろし器には、サメの皮が?

さらに、サメの皮もよく活用されていますね。

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ひとつは、水着において。つるつるであるほうが水抵抗を受けないイメージがあるのですが。サメの皮膚は小さな突起物で覆われていて、それぞれ小さいV字形の溝があります。それが乱流を打ち消す働きとなっていて、結果的に早く泳げると。突起物があったほうがスピードが上がるということで、それを応用した高速水着が生まれました。

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同じく、すりおろし器にも。サメの皮をそのまま使っちゃうこともありますね。わさびのすりおろし器ではよく知られています。

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サメの皮って、すごく鋭くて。少し触るだけで指が切れて流血しちゃったりします。その鋭利さをうまく活用した例と言えますね。歴史もけっこう古くて、江戸時代ごろから用いられていたとか。「バイオミミクリー」という概念が生まれるはるか前から、人間は生物のデザインを駆使していたということですね。

■車が発明される前から、歯車を利用していた虫

「昔から活用されていた」......そんな例でいうと、おもしろいのが「ウンカ」という虫の幼虫です。

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農作物の害虫として知られているのですが、実はこの虫が体内に歯車を備えていて。右肢と左肢の付け根の近くにそれぞれあって、この二つが同時に噛み合うことで、一気に高くジャンプするといいます。人間が自身で歯車を作ったあとになってから、自然の中で発見したという、おもしろい例ですね。

■気持ち悪い自然からも、学べる。

さらにあるのが、「テープ」ですね。粘着する性質って、まさに有機的な部分を感じさせますが、実際に生物から応用されています。

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例えばガムテープについては、やもりの手の吸盤が活かされています。自然の多いところだと、窓によく張り付いてたりして......笑 気持ち悪いと思われる方もいるかもしれませんが、あの手の構造がそのまま応用されていますね。

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またマジックテープは、ひっつき虫(オナモミ)のバイオミミクリーです。野原とか歩いているときに、靴下によくひっついてくる植物の種みたいな、アレです笑

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こうした、日常では「うっとうしいな」とか「気持ち悪いな」と思うものでも、冷静に考えてみれば「なぜあんなに張り付くんだろう?」と考えるきっかけになります。それを真面目に研究した人がいたことで、その恩恵を享受している、ということですね......笑

■意外なところで役に立つカタツムリ

「意外と役に立つ」例でいうと、カタツムリも挙げられます。

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何が?と一見思われがちですが、実はけっこう人間には助かっています......笑 始まりは、「カタツムリの殻ってなんであんなにきれいなんだろう」と考えついた人がいたからでした。というのは、雨の日にもよく見かけるけれど、そんなに汚れたように見えない。タニシとかは藻がついているのに......。柔らかいけれど弾力があって、しっかりしている。

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表面に細かく規則正しい溝があるため、汚れがつきにくく、かつ落ちやすい。そんなカタツムリの構造が、家の外壁にそのまま使われました。雨が降ったときにも、簡単に汚れを落としてくれたり。あんな小さな生物の「殻が汚れていない」ところに気がつくこと自体が「すごい」と感じさせられますね......!

■モンシロチョウ、キジ、黄金虫

バイオミミクリー、最後の例に。以下の三つの生物(モンシロチョウ、キジ、黄金虫)に共通するものが、人間の身近なものに活かされています。

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どれも見た目がカラフル.....。そう、これら「構造色」が服や車、食器などに応用されています。

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構造色とは、光の反射を利用した発色のこと。着色をする必要がないため、劣化のスピードが遅くて長持ちします。インクとかを使って、外から塗りたくる必要がないんですね。純白のドレスとか、光を当てる角度で青っぽくなったりとか。車のボディでも利用されています。あとは玉虫色の食器だったり、シャボン玉やCDの裏側だったりにも。

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余談ですが......色と生物の話は非常に興味深く笑 人間は「赤緑青(=RGB)」の三原色をもとに世界を見ているわけですが、これは「果実を食べるからではないか」という説があったりします。いろいろな種類の果実を見分けるために、色の色覚が発達したのではと。逆に果実を食べない生物は二原色で世界を見ているんじゃないか......。こんな考え方もあります。サーモンも、身が赤いのは赤いプランクトンを食べているからで、実は白身魚に分類されてたり。色って、生物を語る上で興味深いことが多いです!

■自然界のデザインには、シンプルさが極限に現れる。

鳥と飛行機だけに限らず、バイオミミクリーはこんなに種類があるのですね。

ここまで様々な生物を例にお話してきましたが、それでも語り尽くせません。他にも、ハスの花が水を弾く性能からレインコートや傘が作られたり、ひまわりの太陽光に合わせて首を動かす技術からソーラーパネルが生まれたり。

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どうして私が生物にこんなに関心を寄せるかというと......。46億年前に地球が誕生してから、途方もない数の生き物が誕生していっては、消えていって。今も生き残っているものには、何かしらの意義が存在する。正六角形のハニカム構造もそうですが、そこにはシンプルさが極限に現れる。そんな生物から学ぶ姿勢をもとに、未来を思い描いていきたいなと感じています。

■生物の姿から思い描いていく未来

「バイオミミクリー」から描く未来とは、どんなものでしょうか。

空飛ぶ鳥の姿から、人間は飛行機を生み出しました。とすれば、何ができるか? 水中で人間が生活することも考えられるのではないか、と。

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例えば、人工エラ呼吸の開発をしようと、イギリスの大学で研究されていたりします。水中で呼吸ができたらどうなるんだろう?と。マンガやアニメのような世界に、本当にチャレンジしている研究を見ると、めちゃくちゃワクワクしますね。

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また、食事をする必要がなくなる未来もあり得るかもしれません。葉緑体とかは光合成をしますが、もし人間もできたら?自分の皮膚の中に一部分だけ埋め込んで、日に当てるとかすれば......。あるいは、ダイオウグソクムシなんかは何年間も絶食しているのに生き続けています。なぜ食べなくても平気だったのか。こうした研究が進むことで、食糧問題の解決に寄与できるかもしれません。

生物の種類が無数にある以上、思い描いていける世界も無限大にある気がしています。人間は、鳥のように空を飛ぶことができるようになりました。あなたは、どんな将来を思い描きたいでしょうか?

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はじまり商店街 × Soft. Guesthouseでは、「原点回帰の旅」というイベントシリーズを行なっています。

原点回帰の旅とは
コロナウイルスの蔓延やAIの進化、そして最新テクノロジーの誕生 etc...と、日々目まぐるしい変化があり、もはや少し先の未来がどうなるか全く予測のできない時代。しかし、人間にとって本当に大切なことはそこまで変わっていないように思います。一度、現代までにいたる過去の部分を遡り、多角的な視点から「人間の本質」や「生きる」について考え、現代を生き抜くためのきっかけになれば、という思いで始まったイベントシリーズです。




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