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石垣市自治基本条例審議会答申の酷さについて

1 はじめに
 3月18日、石垣市の自治基本条例審議会が答申を出した。これは石垣市自治基本条例43条が「市は、5年を超えない期間ごとの見直し」を定めていることより、同条に基づき審議会が設置され、諮問がされ、審議会が答申をしたものである(前回は2015年度)。この審議会の構成員に石垣の住民投票を求める裁判の市側の弁護士がいる一方で、審議員公募に立候補した住民投票を求めている市民が落選するなど審議会の客観性・公正性が問われていた。当初懸念されていた自治基本条例の廃止については、多くの市民の意見により廃止の答申は阻止できたものとして評価する声があるが、今回の答申は、自治基本条例の廃止と同程度に骨抜きにしたものであることを認識することが重要である。
 その背景には、極右活動家として知られる村田春樹氏の講演が2019年11月5日に石垣市であり、同氏が主張していたこと、これに同調する市議会与党議員の発言などとそっくりであるように、その排外主義的思想が審議会の今回の答申のポイントなのである。それぐらい酷い答申であり、石垣島出身の筆者としては、とても恥ずかしく情けない限りである。なぜなら、この答申の最大の目的は①「外国人を市民から排除すること」、②自治基本条例の「最高法規性」を削除し、③「住民投票条項を骨抜きにすること」だからである。
 以下、その問題点を簡潔に述べたい。

2  自治基本条例2条の「市民の定義」
現行条例2条1項1号
「市民 市内に住み、又は市内で働き、学び、若しくは活動する人をいう。」

 見直しの最大のポイントとして挙げられたのが、自治基本条例2条の「市民の定義」である。審議会は、「『市民』の定義が広すぎて適切ではないため『日本国籍を有し本市の住民基本台帳に登録されている者』等と改正すべき」と答申しているが、「市民」を「日本国籍を有するもの」に限定する自治基本条例の改正案は、95年に日本が締結した人種差別撤廃条約に明確に反するレイシズムであり、↓外務省の「人種差別撤廃条約Q&A」からも明白である。
 なお、審議会は地方自治法11条を引いて市民とは日本国籍を有する者をいうべきであるというような屁理屈を立てているが、これは地方選挙権における「国籍」による法的地位に基づく異なる取扱いであり、そもそも地方選挙権を外国人に拡大することは法律を改正しない限り不可能なのだ。
 一方、地方自治法10条は、「①市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。②住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分担する義務を負う。」と定め、外国人を含め地域に住所を有する者をすべて「住民」としており、また「役務の提供」とは、公共施設を利用したり、各種の社会保障等による援助を受ける等、地方公共団体及びその機関によって行われる住民福祉の増進を目的とする住民に対する一切の利便、サービスの提供が含まれる。
 国籍に限らず住民は、その住民たる資格をもって等しく平等に役務の提供を受けることができるのであり、地方公共団体は、理由なくしてその権利を拒否することはできない。しかも「市民」という定義は、地方自治法10条の「住民」の定義よりも広い概念として使用される。現行条例も、竹富町や与那国町の住民が、例えば石垣市立図書館などの公共施設を利用できるよう住民登録に拘っていない。審議会の答申も「テレワークや他拠点居住等、現在の社会において行われている多様な居住実態を反映させるような定義についても検討の対象とすべきとの意見があった」としているのだ。これは「市民」の定義を「住民」の定義よりも広く石垣市に住所を有する者以外も一定程度対象とする検討を求めながら、一方で石垣市に住所を有する「外国人」は除外しようというもので、まぎれもない人種差別である。
 以上のとおり、「国籍」の有無による異なる取扱いが認められるのは、参政権が公権力の行使又は国家の意思の形成に参画する行為というような合理的な根拠を持っており法で禁止されている場合(地方自治法11条の地方選挙、12条の条例制定・改廃請求及び事務の監査請求、13条の議会の解散請求権及び主要公務員の解職請求権など)に限られ、地方自治法で保障された地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を奪うことは、人種差別撤廃条約に明確に反するレイシズム条例であり、憲法14条法の下の平等・差別の禁止違反であり、条例の制定は「法律の範囲内」と定める憲法94条違反であり、地方自治法10条違反である。


3  自治基本条例42条「最高規範」
現行条例42条1項
「この条例は、市政運営の最高規範であり、他の条例等の制度又は改廃にあたっては、この条例の趣旨を尊重し、整合性を尊重し、整合性を確保しなければならない」
 さらに審議会は、自治基本条例42条について、「「最高規範」という文言は、本条例が憲法や法律といった上位の法規範の上にくるものとも読めるため、法体系上整合性が取れないため改正すべきである。」と答申している。しかしながら、「市政運営における」という限定をつけているように「地方自治における最高規範」であるという意味は明らかである。
 しかも憲法が保障する団体自治・住民自治の具体化するものとして自治基本条例を「最高規範」と位置付けることこそが法体系上の整合性を図るものなのである。
 逆に、答申は自治基本条例2条の「市民」は「日本国籍に限る」と改正すべきとして、国際条約、憲法、法律の人権規定の上位に条例があり、外国人の人権を侵害しても構わないという提案しているのであり、論理破綻、自己矛盾も甚だしい。
 なお、自治基本条例は「まちの憲法」といわれるように、自治体における最高規範として位置付けられる。逆にいえば、いくらその他の規定を網羅していても、条例の位置づけを欠く場合、当該条例は自治基本条例とはいえないというのが一般的な理解である(「新設 市民参加〔改訂版〕」(公人社:2013年第2版)。


4 自治基本条例27条及び28条「住民投票条項」
現行条例27条
「1 市長は、市政に係る重要事項について市民の意思を確認するため、その案件ごとに定められる条例により住民投票を実施することができる。」
「2 市民、市議会及び市長は、住民投票の結果を尊重しなければならない。」

現行条例28条1項及び4項
「1 市民のうち本市において選挙権を有する者は、市政に係る重要事項について、その総数の4分の1以上の連署をもって、その代表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。」
「4 市長は、第1項の規定による請求があったときは、所定の手続きを経て、住民投票を実施しなければならない。」
 審議会は、自治基本条例27条及び28条について、「市民の権利及び市の責務についての具体的な内容が判然とせず、両条文の整合性にも疑問があるため、抜本的な検討が必要である。」と答申している。しかしながら、審議会のメンバーに現在係争中の住民投票義務付訴訟の市側の弁護士がいること自体が、大問題であり、恣意的に市側の解釈に沿ったこれこそ客観性と専門性が問われる審議会の答申として整合性が取れない最たるものである。
 事実、この弁護士は2020年9月3日の諮問を受けた直後の初回の審議会において「27条と28条の兼ね合いが分かりにくい。整合しないところある」と指摘。住民投票義務付け訴訟にも触れ、「今後の紛争の火種になりかねない。変更や改廃を含めて検討すべきだと思う。28条の4分の1の要件は厳しい。地方自治法もあるので、4分の1の要件がなくなったとしても市民の権利関係を阻害するものではない」との見解を示しており、今回の答申はこの見解がそっくりそのまま採用されている。
なお、裁判においても原告らが主張しているように、自治基本条例27条1項は、「市長は」「住民投票を実施することが」「できる」と定めているに過ぎない。一方、自治基本条例28条1項および4項は、4分の1以上の署名という要件を満たした市民からの請求があった場合、市長は住民投票を実施「しなければならない」義務を負うというもので、自治基本条例27条1項が適用される余地はない。
 したがって、両条文の整合性に疑問の余地はないのは明らか。市側の意向に沿った答申の本音は、市民の3割(実に37%に上る)以上が求めたシングルイシューの住民投票から逃げたいがための屁理屈でしかない。
 
5 現代的レイシズム
 現代のレイシズムは、人種なきレイシズムと言われている。人類はホモ・サピエンスという単一の種であることが確認されており、科学的に「人種」というものは否定され、人種差別は国際条約等で禁止されているからである。したがって、レイシストは、生物学的人種を使わずに国籍や入管政策、制度や文化、ナショナリズムや市場原理などを使って、実際には人を差別するという、さまざまな高等戦術が編み出されるようになっている。それは「新しいレイシズム」と呼ばれ、より巧妙でわかりにくく、人びとの意図や敵意とから切り離す。 
 これは、「反日」のレッテルを貼ればマイノリティであろうとそうでなかろうと、日本人であろうと「死ぬべき人間」という人種としてマークされ殲滅の対象とすることを可能とする。
 その意味で、市民の定義に日本国籍を有する者として「外国人を市民から排除すること」というのは人種差別撤廃条約に反するあからさまなレイシズムであり、石垣市自治基本条例における最高規範性の否定及び住民投票条項の否定というのは、国の方針に異議を唱える人間は・「非国民」・「反日(種族)」であり許さないというという「現代的レイシズム」といえる。 
 このようなレイシズムに基づく自治基本条例改正は絶対に阻止すべきであり、ぜひ多くの市民が注視し声を上げてほしい。

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