はじめて上野駅に降り立ったとき、僕は焦りと呼んでいいような期待感の中にいた。田舎者にとって、絶えず行き交う電車は東京そのものを形容していて、ワイドショーで忌み…
いつもより早い下校時間に、わたしは教科書ばっかり売っている本屋さんにいた。学校から一駅で家には着くのだけど、ゲーム機もパソコンもないから、いつもと同じ時間まで…
とやまとやや
2020年5月28日 08:18
はじめて上野駅に降り立ったとき、僕は焦りと呼んでいいような期待感の中にいた。田舎者にとって、絶えず行き交う電車は東京そのものを形容していて、ワイドショーで忌み嫌われている満員電車はむしろ憧れだった。がたんごとんの忙しなさとは裏腹に乗客たちは静かな動きで列を作り、一千万の秩序を保ちつづける。コンクリートジャングル。いつかの田舎者たちは東京をそんな風に呼んでいたけれど、少なくともめぐりまわる路線図だ
2020年5月28日 02:35
いつもより早い下校時間に、わたしは教科書ばっかり売っている本屋さんにいた。学校から一駅で家には着くのだけど、ゲーム機もパソコンもないから、いつもと同じ時間までこの町にいたほうが楽しい。それに、田舎なので、一駅といっても十五分はかかる。数ヶ月後には受験生という肩書きができて遊びづらくなるだろうから、一五分だけでも遊んでいたい。「ねえ、ミモちゃんはさ、古文の参考書どれ使ってるの?」 すこしだけ背