とやまとやや

文明が途絶えた後、わたしの駄文だけが遺物として残って、それが太古の芸術作品だと勘違いさ…

とやまとやや

文明が途絶えた後、わたしの駄文だけが遺物として残って、それが太古の芸術作品だと勘違いされたとしたら、本当に恥ずかしい思いをするだろうな。

最近の記事

なにもみえない電車

 はじめて上野駅に降り立ったとき、僕は焦りと呼んでいいような期待感の中にいた。田舎者にとって、絶えず行き交う電車は東京そのものを形容していて、ワイドショーで忌み嫌われている満員電車はむしろ憧れだった。がたんごとんの忙しなさとは裏腹に乗客たちは静かな動きで列を作り、一千万の秩序を保ちつづける。コンクリートジャングル。いつかの田舎者たちは東京をそんな風に呼んでいたけれど、少なくともめぐりまわる路線図だけは人工の整然とした美しさがあった。  上京してから数年経ったが、ほとんど電車に

    • いちばん好きなこと

       いつもより早い下校時間に、わたしは教科書ばっかり売っている本屋さんにいた。学校から一駅で家には着くのだけど、ゲーム機もパソコンもないから、いつもと同じ時間までこの町にいたほうが楽しい。それに、田舎なので、一駅といっても十五分はかかる。数ヶ月後には受験生という肩書きができて遊びづらくなるだろうから、一五分だけでも遊んでいたい。 「ねえ、ミモちゃんはさ、古文の参考書どれ使ってるの?」  すこしだけ背伸びをして、本棚の上の方を見つめている。古文はあまり人気がないのか、取りづらい所

    なにもみえない電車