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ライターが未払いに遭遇したときにすべきこと(追記あり)

はじめに

私はライター歴30年のベテラン。大抵のライティング修羅場は経験してきていると思います。未払い・不払いに遭遇したのは30年間で計3回。
すべて、交渉で支払ってもらいました。
Twitterを見ていたら「原稿料未払い」について悩んでいるライターさんがいたので、ちょっと書いてみようと思いました。
(初稿公開20220918、追記20220925)

原稿料未払いとは

ライターなら誰もが恐れおののく「原稿料未払い」。
原稿を書いて納品したのに原稿料が払われないという、商取引的にも倫理的にも本来あってはならない事態を指します。
払われないんだから不払いだろう、というツッコミもあるでしょうが、未だ支払われていない=いずれ払ってもらえる(希望も込めて)という意味で、この稿では「未払い」で統一します。

未払いのようで未払いじゃないことも……

原稿料支払期日に振り込まれていない、やられた、未払いか。
ヒヤッとする場面ですね。でも慌てないで。

未払いのようで未払いではないことの方が多いのです。例えば次のような場合です。

①支払いスパンがロング

「月末締め翌月末払い」の原稿料が翌月末に振り込まれていない場合、未払いの可能性がありますが
「月末締め翌々月末払い」「月末締め翌々々15日払い」ならば、まだ支払日が来ていないだけです。不当な未払いではありません。
仕事を受けたときに、クライアントの支払いスパンを確認しておきましょう。

特に気をつけたいのが書籍の仕事。
大手出版社でも「発行月末締め翌々月払い」なんて支払いスパンは普通にあります。こうなると支払いまで長いですよ。原稿を納品してから半年後にやっと支払われる(決して遅延でも未払いでもない)っていうのもザラです。
他の業界の方からは、あり得ないかもしれないですね。
(先日も、「発行月の翌々月末払い」だと思っていたら「発行1月後の翌々月末払い」だったという事態が発覚しました。思ったより1ヶ月遅かった……)
支払いがずっと先だと、キャッシュフローが悪くなります。どんな仕事を受けるときでもそうですが、特に、書籍のお仕事を受ける際は支払時期の事前確認は必須です。
他のお仕事の入金予定によっては、私は初稿納品時に半金を支払ってもらうようお願いすることもあります。

②仕事が完了していない

後工程がある程度完了しないとディレクターがクライアントに請求できない=支払いが遅くなってしまう、というケースです。
ライターは原稿が終わったら仕事が終わり、と思っているかもしれません。しかしディレクターからするとそうではないのです。原稿のクライアント確認、ページデザイン、入稿作業、各所への調整などなど、ライターがあずかり知らぬ所で、その原稿を世に出すための作業が終わっていないため、お金関係までたどり着けない、という場合です。

③手違い、うっかり

担当者だって人間です。たまには悪意なくて違いや振込忘れが発生することがあります。単なる手違いやミスといったケースは少なくありません。
落ち着いて質問してみましょう。

ライターが自分の銀行口座番号を間違えていた、そもそも違う口座の通帳をチェックしていた、などの可能性もあります。人間ですからね~。

未払い原稿料を払ってもらうには

さて、上記のいずれにもあてはまらず、支払い予定日に支払われない場合、もしかしたら……未払い?かもしれません。
ピリッとしてきましたね。

3つの心構え

支払い交渉をするときには次の3つを心がけましょう。

  1. 感情的にならないこと

  2. 諦めないこと

  3. 相手を追い詰めすぎないこと

なぜかというと

  1. 感情的になると疲れるから

  2. 諦めるとそこで試合終了だから

  3. 相手を追い詰めるのは逆効果だから

です。

①問合せをする

相手が悪意を持って未払いをしていることは稀です。
「請求書届いていますか?」「もしかして間違った口座をお知らせしたかもしれません」「支払日について教えてほしいのですが」
といった口実で、お金のことを思い出してもらいましょう。
あるいは、こちらが待っていることを知ってもらいましょう。

相手に支払う意志があれば
「◎日までに支払います!」という誠意あるお返事が頂けるはずです。

問合せに対して返事がないときは
メールだけでなくLINE、slack、チャットワーク、Messengerなど複数のツールで同時に問い合わせるといいかもしれません。

②直接話す

問合せに対して反応がないとき、
直接電話やメッセンジャーで話すのは有効です。
「原稿料支払いの時期について教えてほしいのですが」
と問合せ、録音して言質を取りましょう。

相手のところに出向くのは、あまりおすすめしません。
体格が大きくて相手を威圧できる人や、弁が立ってどんな相手にも口では負けない人ならいいでしょうが……

③SNSで圧力をかける

相手がよく出没するSNSに「未払いで困っている」旨を書き込む……
あまり気分は良くありませんし、効果はないように思います。
溜まったストレスのガス抜きになる場合に限り、相手が特定できない書き方で愚痴るのはNGではありません。

④内容証明郵便、少額訴訟

直接話しても振込がない場合、相手に「◎月◎日までにお支払いがない場合、少額訴訟も視野に入れて内容証明郵便を出します」と告げるだけで効果があります。
え? そんなあまり額が多くないのに少額訴訟なんて……
と考える方もいるでしょう。それはそれ、人によって損得の算盤のはじき方は違います。

私だったら……たとえ1円でも、私は少額訴訟を覚悟します(まあ原稿料1円ってことはないですけどね)。泣き寝入りをするのは絶対イヤだし、何よりネタが増えるじゃないですか。
少額訴訟を扱うブログやYouTube立ち上げてもいいですし「少額訴訟について書けます、経験者です」って言って営業してもいい。レアかつ面倒な経験をするほど仕事の幅が広がる、ライターは、七転び八起き、しかし転んでもただでは起きない。転ぶたびに濡れ手に粟が可能な商売なんです。

話が逸れました。
通常は「内容証明郵便を出します」と言われれば「こいつ大人しくしている気はないな」とびびって支払う方向に進んでくれます。

女性だったり若かったり、経験が浅かったり、気が弱かったり、その全部だったりすると、悪質なクライアントは「こいつの原稿料は後まわしでいいか」と考えてしまう可能性があります。
性別や年齢や性格を変えることはできませんから「夫が法律に詳しくて」「叔父の弁護士に相談して」……など、バックに誰かいることを匂わせるのもひとつの交渉テクニックです。

分割交渉に応じる際の注意点

無事に一括で支払ってくれるのがベストですが
「支払うけど今お金がなくて、分割でお願いできないでしょうか?」と持ちかけられることがあります。
これに応じるべきか否か。
回収したいなら応じる他の選択肢はない、ということになりますよね……しかたない、応じるか……となったとき、注意点が3つあります。

①契約書を交わすこと
この業界口約束がそのまま契約で通ってしまうことが多いです。そのため相手が「支払うよ」と言ったらそのまま信頼してしまうライターは少なくないでしょう。
でも、未払いですよ、分割ですよ。相手は払いたくないんですよ。文書に残しておきましょうよ。相手を縛り、かつ自分を守るために。
契約書には、毎月いくらを何日に支払うか、遅れた場合のペナルティ(違約金)はどうするかを明記し、互いに署名捺印して保管します。え? 契約書なんて作ったことない? ネットを検索すれば例文はいっぱいあります。適宜リライトすれば割と簡単に作れますよ。

②支払日には口座を確認すること
未払いはクセになります。約束した期日に振り込まれているかどうかを確認して、もし振り込まれていない場合には「振り込まれていないようですが、いつになりますか?」と問合せをしましょう。
感情的になりがちですが、怒ったり落ち込んだりする必要はありません。
ひどい話ですが、単純に忘れられている場合もありますから。

③その人とはもう仕事が出来ないと腹をくくること
仕事は信頼関係で回ります。一度お金のトラブルになった相手とは信頼関係を結ぶのは難しい。どんなに人柄が良くても、どんなに仕事が出来ても、未払いをしてきた相手は、心のどこかで「ライター」という仕事や「原稿」という成果物に対して、「軽く」見ているんじゃないでしょうか。(だってその間に事務所の家賃や電気代なんかは払っているわけですし、なんなら飲みに行ったりしてるんですよ?)
まあ読者や他人がライターを軽く見るのはいいんですよ。ライターはサービス業ですから、読者に軽く見られるのも芸のウチ。
でも仕事の相手がそれでは、辛くありませんか。
未払いをしてきた相手とは、お金の絡む付き合いは今後一切しない、と腹をくくることが大事だと思います。

ではもし、分割支払中あるいは支払い終了後に、当の相手が新たな仕事のオファーをしてきたらどうするか?
相当舐められている、と思うべきです。
これ以上甘く見られないよう「原稿料は全額前金でお願いします」ときっぱり言い放ちましょう。
よほど鈍感でない限り、断り文句だと気づきます。
もし前金で支払ってくれたら、仕事の内容によっては、請けてもいいと思います(ただし後日トラブルを避けるために、作業内容と修正回数については文書で残しておきましょう)。

経費になるかも?

どうしても未払いを回収できない場合、その未払い金は、確定申告の際に「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」として経費にできる(=節税になる)可能性が大きいです。
知っていれば、ネットで調べるなり、税理士さんに聞くなりできるでしょうから、ここでは「経費になる可能性があるよ」ということだけお伝えするにとどめます。
(確定申告とは何か、経費とは何か、などについてはネット上に情報が沢山ありますので説明は割愛)。

たとえ未払いに遭遇したとしても「100%働き損」はない、と思うだけで少し心にゆとりが出てきませんか。

そもそも未払いをされないライターになるには

ここまで未払いに対応・対処する方法について解説してきました。
未払いなんて、ない方がいいですよね。全ての発注者、クライアントが常識的にルールを守ってくれることを切に願います。

ここからは、未払いを防ぐためにライターにはどんなことができるのか、自衛策をお伝えしましょう。

自衛策①お金の話をする

日本人は(というと主語がデカイですが)、「お金の話が苦手」という人が大多数です。
お金の話をするのが恥ずかしい、お金の話なんて浅ましい、とどこかで思っているところがあるかもしれません。そのせいか「自分から原稿料の話を切り出せない」というライターも少なくありません。
でもそれ、奥ゆかしさとは違います。
仕事なのですからお金の話をしましょう。私達ライターの仕事って、成果物とお金の交換ですよ(決して労力とお金の交換ではない、基本的には)。
例えば「原稿料はいくらですか?」や「御社の締め日と支払日をお知らせください」と聞くのは恥ずかしいことでも気まずいことでもありません。

仕事を請け負う度に自前で覚書を作るというライターもいます。私はそこまでしていませんが、打ち合わせ中にしっかりお金のことをメモしている姿を見せつけることはあります。
お金の話に対する心理的ハードルを意識して下げていきましょう。

どうしてもお金の話が苦手な人は「マネー系の資格をとる」ことをおすすめします。「あのライターはマネー系の資格を持っている」というだけで多少は金銭トラブルの抑止力になるからです。
税理士、公認会計士などはハードルが高いですが、簿記、FP(ファイナンシャルプランナー)の3級ならば、それほど難しくはありません(商業高校卒業レベルくらい?)。

生きていく上でお金の知識は絶対に必要ですし、原稿の幅を広げることにも役立ちます。おすすめです。

自衛策②怪しいクライアントの仕事は請けない

怪しい人にはついていかない、というのは子供だけではなく大人の社会でも鉄則です。
仕事を受ける前に依頼者の素性を調べるくらいはしましょう。
どうやって調べるのかって?
Google先生やTwitterの検索機能があるじゃないですか。

悪い評判がなかったとしても、お金に関する質問をはぐらかすような発注者とは付き合ってはいけません。

しかし、例外的に「お客さん都合で原稿料がまだ決まっていない」というケースはむしろ正直者である場合が少なくありません。既に付き合いのある編集者がそういってライター集めをしている場合は問題ないかもしれません。
が「では準備しておきますので、原稿料が決まったら再度お声かけください!」でいいでしょう。

自衛策③お金の管理をしっかりする

日々の仕事に追われているとお金の管理があやふやになることがあります。きっちりかっちりするのが苦手な、私のような私立文系感覚タイプには特に面倒に感じられる作業ですが、きっちり管理していれば、未払いにもいち早く気づくことができ、初動が早くなります。お金をもらうまでが仕事だと割り切りましょう。

私はエクセルでだいたい次の項目を作って管理しています。(順不同)

  • 受注日

  • 締切日

  • 納品日

  • クライアント名(担当者)

  • 案件名

  • 請求書発行日

  • 請求金額(必要なら請求内容内訳)

  • 入金見込み日

  • 入金額

  • 入金日

  • 入金額と請求額の差額(振込手数料と税金)

管理表は手書きでも、スプレッドシートでもいいでしょう。
銀行口座と紐付けて入金が反映されるようにするなど、自動化するのもいいかもしれません(私はそこまではやっていません)

自衛策④原稿の質を上げる

この自衛策はすこし毛色が違いますよ。
私はライターと並行して記事のディレクションや編集をすることもあります。つまりライターに依頼する立場ですね。
多くのライターと付き合っていると、なかには「え、これで原稿料取るの?」と悪い意味で驚くべきレベルの原稿を送りつけてくる人もいます。
赤入れやリライトに手間がかかり「原稿料を払うより、こちらが指導料をもらいたいくらいだよ」と思ってしまうことも実は少なくありません。
だからといって、普通は払いますけれどね……でも少し普通じゃないクライアントだったらどうでしょう……払いたくない気持ちにさせるような原稿と、払いたくないクライアントとの相性、想像してみると最悪です。
「思わず原稿料を規定よりも高く払いたくなるような原稿」、というのはなかなか難しいですが、規定の原稿料にふさわしいレベルの原稿はしっかり書きましょう。それが仕事ですから。

原稿の質が「自分でもいまいちだな」という自信のないレベルだと未払いに対して弱腰になりそうです。逆に一定以上のレベルに達していると思えれば、未払いにも毅然と対応できそうですよね。
一定以上の質の高い原稿ならば、話がまとまらない場合には、原稿を取り下げて他社に持ち込むこともできますよね。そういった意味でも、原稿の質、大事です。

まとめにかえて

先ほどもチラッと書きましたが、ライターは原稿を納品して終わりでも、記事が公開されて終わりでもありません。原稿料をもらうところまでが仕事。原稿料がもらえなければ仕事ではありません。(実務的にはその後の確定申告までが仕事だ、と思っていたほうがいいです)

未払いなんてめったにないこと。決して愉快な経験ではありませんが「これも一つの取材だ」と前向きに取り組む人にこそ、ライターの神様は微笑むであろう、と私は思っています。あきらめずに、くさらずに、しっかり乗り越えていきましょう。

(2022/09/25追記)

相談窓口に相談

この記事は自分で対処しよう、という方向でと進めていましたが、困ったら相談機関にサッと頼るのも生活の知恵ですね。
こんな窓口があるようです。

フリーランス・トラブル110番
【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】 https://freelance110.jp/guideline/

先払いサービスを利用する

思い出したのですが……「請求書を発行するとすぐに振り込んでくれるサービス」が世の中にはいくつかあります。
未払い防止というより、取引先の支払いスパンが長い場合に一時的な資金ショートを防ぐためのものですが、未払いに備えて活用するという考え方もあるでしょう。

たとえばFREENANCE(フリーナンス) | フリーランスを、もっと自由に。 https://freenance.net/
(他にもいくつかあるようですので興味のある方は調べてみてね)

フリーナンスの仕組みは下図のとおり

①請求書をいつも通りに発行し、振込先をフリーナンスの指定口座にしておきつつ
②フリーナンスに即日払いを申請すると
③フリーナンスから自分の口座に即日払いされる(手数料が引かれる)

フリーナンスのHPより

イメージとしては取引先の支払いをフリーランスが立替、というかんじでしょうか。
これ、とてもありがたいシステムですよね。どうしても未払いがイヤな人、少しでも支払いを早くしてもらって「ハイ次!」としたい人にはおすすめです。
ただ、利用には審査があって初心者ライターさんは使えないかもしれません。
それに手数料が8~10%(20220926修正:フリーナンスは3%~でした。失礼しました)かかります。私は登録しましたが、手数料が惜しくなり、結局利用をしていません(手数料が経費になるなら使ってもいいかなあ……)


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