休職347日目 湖の女たち
吉田修一著「湖の女たち」読了。
面白かったけれど、読後にやるせない気持ちになった。人間の弱さと愚かさをまざまざと見せつけられてつらくなった。
琵琶湖近くの介護養護施設で百歳の寝たきり老人が殺された。事件を捜査する刑事は、その施設で働く女性とインモラルな関係に溺れていく。一方、事件を取材する記者は、死亡した寝たきり老人がかつて満州で人体実験に関わっていた事実を突き止める。そんな中、別の介護養護施設で更に被害者が出てしまう、という感じのストーリー。
あらすじだけ読むと、ミステリっぽいのだけれど、ミステリではない。何故なら犯人が明らかにされないから。暗に示されはするけれど、確実に「犯人はコイツです!」とはならない。ミステリっぽい部分は物語を先に進める求心力に過ぎないので、犯人が明かされなくても不満は無い。グロテスクな事件を通して社会問題や人間の業を描くのは、吉田修一の作品の特徴で、俺はそれが好きで読んでいる。「悪人」や「怒り」が良い例。
今回は、作中でキーになるのが「湖」。湖は海と違って波が無い。波が立つのは、湖に石や何かを投げ入れたとか、強風が吹いたとか、そんな時だ。作中の湖は、人間そのものをあらわしているのかなぁ、と思った。本来は美しいはずなのに、様々な環境やまわりの影響で感情が動かされ、時に醜くなってしまう、というか。
何にしても、俺としては満足。やはり吉田修一の作品にハズレは無い。
ちなみに、この作品は今年の夏に映画化されるらしい。正直、どうやって映像にするのか見当もつかない。犯人がきちんと明かされないというのは、小説では許されるだろうけれど、映画では通じないのではないか。かと言って、きちんと犯人を明らかにしてしまうと、作品の持つテーマ性が崩れて陳腐なものになりかねない。
そもそも、メインキャラクターを演じる役者が福士蒼汰と松本まりかというのが心配だ。俺のイメージで申し訳ないけれど、インモラルな関係を演じ切れるとは思えない。福士蒼汰なんて、中高生がキャーキャー言うようなイケメン役ばっかり演じていて、漫画の実写化作品ばかり出ているイメージなのだけれど、違うかな?
観る前に文句を言うのはフェアではないので、公開されたら観に行こう。話はそれからだ。
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