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(メモ)野党・市民連合共通政策を読む(2021衆議院選挙)

9月8日、4野党=立憲民主党、日本共産党、社民党、れいわ新撰組の各党首は一堂に会して、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合の提言=衆議院選挙における野党共通政策の提言に署名を行なった。衆議院選挙を野党共闘で闘い、自公政権を倒すための重要な動きであると思う。この共通政策について理解を深めたいと思う。

正式には「提言」であり、拘束力については疑問なしとはしないが、各党のこれまでの主張からみて妥当な共通点を引き出していると考える。

項目は以下の6点であり、それらについてコメントしてみたい。

1. 憲法に基づく政治の回復

憲法改悪反対は当然であるが、具体的には安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法の違憲部分の廃止や核兵器禁止条約の批准に向けた締約国会議へのオブザーバー参加、辺野古の新基地建設中止が柱になっている。

市民連合自体の結成の趣旨からして、この項目が第一に掲げられるのは当然であろう。これまで、安倍政権、菅政権の下で憲法や憲法の精神を無視した立法、法改正、政策運営がなされてきたことから、まず、その是正を求めるというのは必要なことであろう。かつて民主党鳩山政権で、沖縄・辺野古の米軍新基地建設を容認(閣議決定)するために、事前の合意を反故にして当時の福島瑞穂大臣(社民党)を罷免した。この沖縄・辺野古の米軍新基地建設の中止が入っていることにも注目したい。

2. 科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化

現在の世界、日本にとっての最大の克服課題である新型コロナウイルス対策について「科学的知見」に基づく対策を求めるということであるが、具体的な項目としては、医療費削減政策転換、エッセンシャルワーカーの待遇改善、打撃を受けた人、企業への財政支援という具体策となった。

この財政支援については一律給付とすべきか困窮者への給付とすべきかなどの違いが各党にはあるが、共通するポイントではあろう。

しかしながら、仮に野党連合政権が生まれた場合、これまで安倍、菅内閣のもとで専門家分科会が行ってきた活動や提言をどのように評価するのか、専門家とはいえない構成員が多数入っている状態で科学的知見に基づく対策ができるのかどうかなど課題は多いだろう。

3. 格差と貧困を是正する

具体策としては、最低賃金引き上げ、非正規やフリーランスの待遇改善、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援が盛り込まれたほか、所得、法人、資産の税制、および社会保険料負担を見直し、消費税減税による再分配が謳われた。

消費税減税については、これまで各党間で意見の違いがあり、廃止から一時的な減税まで幅があり、立憲民主党内には強い異見もあると思われる。筆者も同じ減税規模であれば消費減税よりは一律給付や給付付き税額控除の導入の方がより逆進性を緩和する政策になると考えている。消費税導入が行われた1989年当時は現在よりも相当に所得税などの累進税率の傾斜が高く、それだけに消費税の導入(奢侈品を中心にした物品税の廃止)は逆進的なものであり、導入に反対することは当然であった。現在のフラット化した累進税率の傾斜の程度からすれば、所得税との相対感での消費税の逆進性はかえって薄れてしまった。格差縮小のためには、所得税、相続税の累進税率の傾きを再度回復させること、給付付き税額控除(あるいは一律給付)により、低所得層に配慮した再分配構造を作ることを優先して行って欲しい。

4. 地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行

ポイントとしては、再生エネルギーによる原発のない脱炭素社会、エネルギー転換イノベーションと地域における新たな産業育成、自然災害対策、農林水産業への支援があげられたが、あまり具体性がないように思われる。それだけ各党の政策に違いがあるということだろうか。「原発のない」という表現に脱原発の方向性を打ち出した感があるが、これは呼びかけ対象であった国民民主党に配慮した表現だったのだろうか。政権交代が起きた場合には既存原発の再稼働は認めず、段階的な廃炉に向けた具体策を実行してほしい。

自然災害対策では、レジリエント重視として実際には従来型公共投資を行ってきた自公政権との違いを打ち出すことも必要ではないだろうか。経済、社会、環境、組織にわたる備えの観点が重要だろう。

5. ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現

具体的なポイントは、選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法、女性に対する性暴力根絶に向けた法整備、保育、教育、介護などの対人サービスへの公的支援の拡充、議員間男女同数化(パリテ)の推進である。

この項目については法的整備やパリテの推進という具体性のあるポイントが掲げられている。ただし、保育、教育、介護への公的支援が何を意味するのかは明確ではない。財政的な援助(負担軽減)を充実させるのか、自治体の現場の体制を充実させるのかなど論点があるだろう。

6. 権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する

この項目は1と共通する部分があるが、自公政権のもとでの権力の私物化、腐敗に注目したポイントであろう。日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命すること、森友・加計問題、桜を見る会疑惑の真相究明は具体的で立憲民主党が初閣議で行う7項目にも盛り込まれた点だ。

一般的に長期政権は腐敗しやすい。特に官僚の人事操作によって官僚機構を利用することで政治家による私物化が行われやすい。内閣人事局のあり方の見直しは当然であろう。一方で、硬直的でボス支配的な官僚の人事を復活させることが良いわけでもない。制度の改正には熟慮が必要だろうと思われる。

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全体的な感想として、異なる政治理念、政権構想を持つ複数の野党に共通政策を求めるという点では、非常に配慮がされた提言であったと思う。それだけに各党が多少の意見の違いを残しながら、有権者により具体的提案を訴えていくことが必要なのではないだろうか。

これを機会に野党間の協力関係が発展し、実のある共闘によって政権交代を実現して欲しいと願う。

(2021.9.9)

日本経済の現状と求められる経済政策


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